第二十八話 黒幕の皆様、証拠は全部揃っています
王国審問会の会場は、王都の中央行政棟の大会議室だった。
天井の高い部屋に、審問委員が七名並んでいた。傍聴席には貴族が十数名。王国の役人もいた。
私は証言台の前に立った。
向かいに、ダルト・ノルディス卿が座っていた。六十代の男性で、表情は落ち着いている。隣に弁護士が二名ついていた。
「証人、エルナ・クレイン伯爵令嬢。証言を始めてください」
審問委員長が言った。
「はい」
用意した証言書を開いた。
「まず冒頭に申し上げます。本証言書には、七十三点の証拠が含まれています。これらはすべて、王国証拠調査局が正式な手続きに基づいて収集したものです。私の記録スキルによる映像記録を含む証拠については、あらかじめ調査局の認証を受けています」
傍聴席が少し動いた。
「では証言を始めます」
「第一点。ダルト・ノルディス卿の自筆サインが入った指示書です」
証拠書類を提示した。
「この書類は、ダルト卿がゴルト・クレステンに対して、王都復興支援事業の資金を架空取引で移動させるよう指示したものです。日付は三年前の五月十二日。書類はゴルト・クレステンの事務所の保管室から発見されました」
「異議あり」
ダルト卿側の弁護士が立ち上がった。
「その書類の信頼性は確認できているのか。改ざんの可能性は」
「確認済みです。書類は王国公証人による筆跡鑑定を経ています。鑑定書は証拠の第三十二点として提出しています。ご確認ください」
「……」
「第二点。バルセン子爵横領案件の資金移動記録です」
一枚ずつ、丁寧に提示した。
「ゴルト・クレステンを通じた資金の動きを、各商会の台帳と照合した結果を示します。三年間で計十七回の架空取引が行われており、総額は……」
数字を読み上げた。
傍聴席がざわめいた。
「……異議あり。その数字の計算根拠は」
「計算根拠は証拠の第四十一点から第五十六点に記載されています。各商会の台帳の該当部分の写しを添付しています」
弁護士が書類を確認した。
「……次の証拠に」
「第三点。クリスタン男爵が受け取った資金の記録です」
「……異議あり。これは。」
「クリスタン男爵は王太子の婚約破棄審問において虚偽の証言を行いました。その対価として、ゴルト・クレステンを通じてダルト卿から資金を受け取っています。記録は証拠の第二十七点に示す口座の動きで確認できます」
「……」
「なお、クリスタン男爵は先週、別件の取調べに際して、ダルト卿からの指示があったことを認めています。この陳述書は証拠の第七十二点です」
会議室が静かになった。
ダルト卿が初めて、表情を変えた。
弁護士が急いで耳打ちした。
「第四点。フォルセ子爵の倉庫に残された取引記録です。」
一点ずつ、積み上げた。
ダルト卿側の弁護士は、反論しようとするたびに証拠番号を示された。異議を出すたびに、対応する証拠書類が提示された。
会議室の空気が変わっていくのが分かった。
傍聴席の貴族たちが、誰も口を開かなかった。
「最後の証言です。第七十三点」
「七十三点目。私自身の記録スキルによる映像記録です。囮作戦において、ダルト卿側の人物が王国の証人を標的とした行為に関わる場面を記録しています。この映像は、調査局の証拠認証委員会による正式な認定を受けています」
「……以上が、本件の証拠のすべてです」
静寂があった。
「ダルト・ノルディス卿に申し上げます」
私はダルト卿を見た。
「反論があれば、お聞きします。ただし、これら七十三点の証拠のいずれかを崩す必要があります」
ダルト卿は何も言わなかった。
弁護士が何か言いかけたが、止まった。
審問委員長が立ち上がった。
「証人の証言を確認した。審問委員による審議を行う」
「はい」
私は証言台から下がった。
傍聴席から、誰かがつぶやくのが聞こえた。
「……恐ろしい令嬢だ」
「証人令嬢、というのは本当だった」
「あれで伯爵令嬢か……」
私はそれを聞きながら、席に戻った。
傍聴席の端に、アルドがいた。
目が合った。
彼は何も言わなかった。
だが、静かに頷いた。
それだけで、十分だった。
審議は一時間で結論が出た。
ダルト・ノルディス卿の有罪。爵位剥奪と全資産没収。関わった全員の処分が決定した。
三年間の横領と、三つの事件の工作が、この日に終わった。




