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証人令嬢エレノアは証言をやめません ~前世が弁護士なので、この状況はむしろ好都合ですわ~  作者:


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第二十六話 アルド様が私の分まで夕食を用意していたのは、なぜですか

 審問会まで一週間を切ったある日、作業が長引いた。


 気づけば局の外は暗くなっていた。


 「今日はここまでか」


 ベルトが帰り支度を始めた。


 「エルナ嬢も今日は上がりますか」


 「あと二ページ終わらせたいので、少し残ります」


 「局長は?」


 「俺も残る」


 アルドが書類から目を上げずに言った。


 ベルトとラインが帰った。


 書類室に、二人だけになった。


 しばらくして、廊下に人の気配がした。


 局の使いの者が、大きな盆を持って入ってきた。


 「調査局長より、こちらを」


 盆の上には、食事が乗っていた。二人分だった。


 「……これは」


 「近くの料理屋に頼んだ」


 アルドが言った。


 「なぜですか」


 「夕食の時間が過ぎていた」


 「私の分も?」


 「二人で残っているなら、二人分いる」


 「……それはそうですが」


 使いの者が下がった。


 私は盆を見た。


 スープと、温かいパンと、焼いた鶏肉と野菜が並んでいた。


 「アルド調査官殿、これを頼んだのはいつですか」


 「一時間ほど前だ」


 「一時間前というと、まだ私が残ると言う前では」


 「そうだな」


 「なぜ私の分まで」


 「残りそうだったから」


 「根拠は」


 「まだ作業が続いていた」


 私は少し止まった。


 「……一時間前から、私が残ると思っていたんですか」


 「そうだ」


 「なぜ」


 「君は、作業が終わらなければ帰らない。昨日も一昨日も、区切りがつくまで残っていた」


 「……観察されていたんですか」


 「同じ部屋にいるから、分かる」


 「なるほど」


 私は盆に向かって座った。


 向かいにアルドも座った。


 「体を壊されたら困る」


 「はい?」


 「夕食を抜いたまま作業をすると、体を壊す可能性がある。証言書が完成する前にそうなっては困る」


 「業務上の懸念ですね」


 「そうだ」


 「なるほど」


 スープを一口飲んだ。


 温かかった。


 「美味しいですね」


 「そうか」


 「あなたの分も頼んでくれた、ということですか」


 「当然だ」


 「一時間前から考えていた」


 「食事の手配は早い方がいい」


 「……そうですね」


 また少し沈黙があった。


 「アルド調査官殿」


 「なんだ」


 「一つ記録しておいてもいいですか」


 「何を」


 「今日の、この夕食の話を。記録スキルで映像として残しておきます」


 「なぜ」


 「後で見返したいと思ったので」


 アルドが少し止まった。


 「……証言書の証拠として使うのか」


 「違います。個人的な記録です」


 「個人的な」


 「はい。食事を用意していただいた場面として」


 「……そういうことに使えるのか、そのスキルは」


 「使おうと思えば使えます」


 「普段は証拠の記録に使っているが」


 「はい。でも、証拠以外のことも記録できます」


 アルドが少し眉を動かした。


 「……どういう基準で記録するんだ」


 「記録に残しておきたいと思ったものを記録します」


 「今日の夕食の場面が、それに当てはまるということか」


 「はい」


 アルドがパンをちぎりながら、少し考えているようだった。


 「……困った人だ」


 「そうでしょうか」


 「記録するなら、させておけばいい」


 「記録します」


 「……ああ」


 スキルを起動させた。


 この部屋の光の具合、二人分の食事、アルドの横顔。


 全部、記録した。


 「証拠として記録しておきます」


 「何の証拠だ」


 「あなたが親切な人だということの証拠です」


 アルドが少し止まった。


 「……俺は親切ではない」


 「でも今日、一時間前から私の分まで考えていた」


 「業務上の懸念だと言った」


 「そう言っていましたね」


 「そういうことだ」


 「では、業務上の懸念として、食事をありがとうございました」


 「……どういたしまして」


 珍しく、素直に返ってきた。


 私は少し笑った。


 「珍しいですね、素直に」


 「……言われたから言った」


 「そうですか」


 「そうだ」


 でも、耳が少し赤かった。


 私はそれを見なかったことにした。


 食事を食べながら、証言書の話を続けた。


 温かいスープは、冬の始まりの夜に、よく似合っていた。


 (これを記録できてよかった)


 心の中でそう思い、スープを飲み干した。


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