第二十四話 黒幕の名前が、ついに判明しました
アルドの怪我が回復するまでの数日間、私は書類室で整理を続けた。
囮作戦で確保した十三名の尋問、ゴルト・クレステンの事務所から押収した書類、そして三つの事件の全整理書。それらを横に並べた。
四日目の朝、点と点がつながった。
「アルド調査官殿、来ていただけますか」
呼びに行ったのは私だった。
治療室で書類仕事をしていたアルドが立ち上がった。
「何か分かったか」
「はい。見てください」
書類室のテーブルに、整理書を広げた。
「全体図です」
一枚の大きな紙に、三つの事件と関わった人物全員の名前を書いた。矢印でつないだ。
「中央にゴルト・クレステン。その周囲に、フィル・ガナン、フォルセ子爵、クリスタン男爵、バルセン子爵。彼らは全員、ゴルトから指示を受けていた。または資金を受け取っていた」
「それは分かっていた」
「はい。ここからです」
ゴルトの名前の上に、もう一つの名前を書いた。
「ゴルト・クレステンを動かしていた人物。その名前が、ここ数日の尋問でようやく出てきました」
「誰だ」
「ダルト・ノルディス卿」
アルドが動きを止めた。
ベルトとラインも入ってきていたが、二人も同様に止まった。
「……ダルト卿」
「知っていますか」
「王族の傍流に当たる貴族だ。王都の財政運営に関わる委員会の要職についている」
「そうです。彼が王都の復興支援事業の資金を、三年間にわたって横領していた。そのために監査の目を逸らす必要があった。アルデン侯爵の監査を妨害するために、ヴィオネ嬢の婚約破棄劇を仕組んだ。それが第一の事件の真相です」
「……全部つながった」
「全部つながりました。書類上の証拠は、すでに揃っています。あと必要なのは、ダルト卿とゴルトの直接のやりとりを示す証拠です。それは。」
「囮作戦で押さえた十三名のうちの一名が、ダルト卿の直属の人間だった」
「そうです。その人物が、ダルト卿からゴルトへの指示書を保管していました。局の保管室にあります」
「確認したか」
「確認しました。サインはダルト卿のもので、記録スキルで照合しました。本物です」
室内が静かになった。
「……三年間の横領と、三つの事件の黒幕。証明できるか」
「できます。証拠は七十三点あります。すべての事件を通じて集めました」
アルドが整理書を手に取った。
しばらく、読んでいた。
「七十三点」
「はい。一点ずつ番号を振ってあります。どれが何の事件のどの場面に対応するかも整理しました」
「……よくここまで」
「一人でやったわけではありません。ベルトさんとラインさんが調査した記録が基になっています。私は整理しただけです」
ベルトが頭を掻いた。
「いや、エルナ嬢がいなかったら俺たちは点と点のままでしたよ」
「整理は大事ですが、集める方が先です」
「でも、こんなに大きな絵が見えたのは……」
私は整理書を手に取った。
「これは最終証言になります」
アルドに向かって言った。
「王国審問会に提出するための証言書を、今から作成します。七十三点の証拠に基づいた、完全な証言を」
「……一緒に終わらせよう」
アルドが静かに言った。
「俺たちで」
「俺たち」という言葉が、初めて出た。
私は少し止まった。
「……はい」
「証拠書類は俺が正式な書類として整える。君は証言書を作成してくれ」
「わかりました」
「ベルト、ライン。最終確認の報告書を頼む」
「了解です」
「はい」
二人が動いた。
私は整理書のページをめくった。
「では始めましょう」
「ああ」
並んで、書類に向かった。
アルドが書類を整えていく。私が証言書を書き進めていく。
しばらくの間、静かな作業が続いた。
「エルナ」
「はい」
「三つの事件、最初から全部見ていたのは、君だけだ」
「たまたまそういう立場でした」
「たまたまではないと思う」
「どういう意味ですか」
「証人として召喚状が届いたあの日から、君は一度も逃げなかった」
私は手を止めた。
「……逃げる理由がありませんでした」
「普通の令嬢なら逃げる」
「私は普通の令嬢ではなかったようです」
「そうだな」
アルドが書類を一枚整えながら言った。
「だから、ここまで来られた」
「あなたたちが調査してくれたからです」
「俺たちは証拠を集めた。君は真実を見通した」
私は少し黙ってから、言った。
「……ありがとうございます」
「礼を言うことでもない。事実だ」
「事実でも、言いたいことがあります」
「そうか」
「はい」
また沈黙が来た。
今回は、落ち着いた沈黙だった。
窓の外に夕日が差し始めていた。
「もうすぐ日が沈む」
「そうですね」
「今日中に証言書の骨格を作れるか」
「はい。できます」
「なら続けよう」
「はい」
私はペンを走らせた。
七十三点の証拠。三つの事件。三年間の横領。
それをすべて一本の証言書にまとめる。
この証言書が、すべての終わりの始まりになる。
(終わらせましょう、一緒に)
心の中でそう思い、文字を書き続けた。




