第二十話 黒幕は、私たちの身近にいます
アクセス記録の調査は、三日かかった。
ベルトとラインが丁寧に洗い出した結果、一つの傾向が見えてきた。
「第一の事件から第三の事件にかけて、同じ書類に複数回アクセスした人物が一人います」
ラインが記録の束を広げた。
「閲覧記録が残っているのは正規ルートですが、特定の書類に対して、必要以上に頻繁にアクセスしている」
「名前は」
「フィル・ガナン。外部委託の書類管理者です。三年前から調査局の書類整理を担当していて、正式な書類へのアクセス権限を持っています」
「書類管理者が書類にアクセスするのは業務の範囲では」
「普通はそうです。ただ、アクセスした書類が、調査中の案件に関連するものに集中しています。しかも、それが証拠として提出される直前のタイミングが多い」
私は記録を確認した。
(これは、見覚えがある)
「少し確認していいですか」
「どうぞ」
記録書類を手に取った。
「このフィル・ガナンが最後にアクセスした書類は、第二の事件の証拠書類ですね。日付は先月の十七日」
「そうです」
「十七日」
私は自分の整理書を開いた。
「先月の十七日。私が記録スキルで調査局内を記録していた日と一致します」
「え」
アルドが顔を上げた。
「どういうことだ」
「説明します」
私は整理書から一枚取り出した。
「十七日の朝、調査局に着いた際、廊下で鉢合わせた人物がいました。書類を持って、書類室から出てきた男性です。顔は知りませんでしたが、記録スキルが自動的に映像として記録していました」
「……それを今まで言わなかったのか」
「特に異常とは思っていませんでした。調査局には書類管理の方がいますので、廊下で書類を持った方がいても不自然ではないと」
「記録は残っているか」
「はい。スキルで記録した映像は、私が参照すれば証拠として提出できます」
アルドが私を見た。
「最初からこれを予見していたのか」
「いいえ」
「では何のために記録を」
「予見ではなく記録です。見たものをすべて記録する性質のスキルなので、意図していなくても記録されます。ただ、今回のアクセス記録と照合したところ、日付が一致したので」
「……つまり偶然に記録していたのに、証拠になった」
「そういうことです」
ベルトが額に手を当てた。
「すごいのか、偶然なのか、分からなくなってきた」
「偶然です。ただ、記録に残っていたのは事実なので」
アルドが書類をテーブルに置いた。
「フィル・ガナンを呼べ」
「はい」
「内部への通報前に、まず私が話を聞く」
「わかりました」
ラインが動いた。
私は整理書を手に取った。
「フィル・ガナンがゴルト・クレステンとつながっている可能性がある。調査局の書類管理者が情報を漏らしているとすれば、過去の二件が証拠不十分で終わった理由も説明できます」
「そうだな」
「ただ、彼が単独で動いているとは思えません。三つの事件にまたがる工作を一人で行うのは難しい」
「黒幕が別にいる」
「はい。フィル・ガナンは末端の一人ではないかと思います」
アルドが腕を組んだ。
「順を追って追い詰める」
「はい。急いで証拠を積み上げるより、確実な証拠を積んで一つずつ崩す方が確かです」
「そうだな」
「前世でも、そうでした。大きな組織を崩すには、末端から確実に」
「……君の前世の知識は、よく役立つな」
「今世にも役立っているので、少し感謝しています」
アルドが少し止まった。
「前世に感謝する、か」
「不思議な言い方ですが、事実です」
「……そうだな」
廊下で足音がした。
ラインがフィル・ガナンを連れてくる音だった。
アルドが姿勢を正した。
私も整理書を手元に置いた。
(ここからが、本当の調査の始まりだ)
心の中でそう思い、ペンを構えた。




