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証人令嬢エレノアは証言をやめません ~前世が弁護士なので、この状況はむしろ好都合ですわ~  作者:


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19/22

第十九話 令嬢が調査局に入り浸っているのは、そんなに珍しいですか

 ある朝のことだ。


 私がいつものように調査局の書類室に入ると、ベルトが振り返った。


 「……また来た」


 「おはようございます、ベルトさん」


 「いや、そういう話じゃなくて」


 「何か問題がありましたか」


 「問題というか。エルナ嬢、最近毎日来てますよね」


 「調査が続いていますので」


 「いや、そうなんですけど」


 ベルトが何かを言いかけて、止まった。


 「もしかして、迷惑でしたか」


 「迷惑じゃないんですよ! 迷惑じゃないんですけど」


 「では」


 「なんか、気づいたらもう席が決まってるじゃないですか、エルナ嬢の席が」


 「はい。第二の事件の途中から、あの席を使わせていただいています。整理書類を置かせてもらっているので」


 「ずっと置いてある」


 「毎日作業しますから」


 「普通の嘱託証人って、こんな感じじゃないんですよ」


 「そうなのですか」


 「証言のときだけ来て、あとは帰る人がほとんどで」


 「ああ、そうか」


 私は少し考えた。


 「迷惑であれば、席を移しますが」


 「いやだから迷惑じゃないって言ってるじゃないですか!」


 「ではどうすればいいですか」


 「……なんか、こっちが聞きたいです」


 ベルトが肩を落とした。


 「いつの間にか局の半住人みたいになってて、お茶の場所も知ってて、局内の書類の置き場所も把握してて、局員の名前も全員覚えてて」


 「書類の置き場所は仕事のためです。お茶の場所は、ラインさんに教えていただきました。名前は、調査のために必要ですので」


 「全部理由があるんですね……」


 ラインが廊下から入ってきた。


 「あれ、エルナ嬢また来たんですか。早いですね」


 「おはようございます。ラインさんはいつもより遅くないですか」


 「朝礼が延びて……そうか、エルナ嬢は朝礼より早く来てるのか」


 「書類の整理を朝のうちにしておきたいので」


 「朝礼より早く来るって、もう局員じゃないですか」


 「そうですか」


 「嘱託なんですけど」


 「嘱託調査員ですので、一応は調査局の方だと思っていますが」


 ラインがベルトと目を見合わせた。


 「……俺たちの方が、混乱してる」


 「申し訳ありません」


 「謝らなくていいんですけど」


 その頃、廊下からアルドが入ってきた。


 いつもの静かな歩き方で部屋に入り、書類を机に置いて、そのまま自然に動いた。


 そして一歩進んだところで止まった。


 「……来ていたのか」


 「おはようございます」


 「ああ」


 彼は席についた。書類を開いた。


 作業が始まった。


 (なんだろう、この感じ)


 アルドは特に何も言わなかった。私がいることに対して、驚きも困惑もなかった。ただ、「来ていたのか」と言って、それだけだった。


 まるで当然のことのように。


 「局長、今日のエルナ嬢の対応どうします」


 ベルトが小声でアルドに聞いた。


 「対応?」


 「いや、なんかもう、すっかり居ついてる感じなんですけど」


 「問題あるか」


 「……問題はないですけど」


 「なら気にしなくていい」


 「局長は気にならないんですか」


 「ならない」


 「……なんで」


 アルドが少し止まった。


 「さあ」


 それだけ言って、書類に目を戻した。


 ベルトが私の方を向いた。


 「……なんか局長が穏やかになった気がするんですけど、エルナ嬢、何かしましたか」


 「私は何もしていません」


 「気のせいですかね」


 「そうかもしれません」


 「でも以前より怖くなったというか……正確には、ちゃんと人間になった? 感じがして」


 「それはつまり以前が人間ではなかったということですか」


 「違います違います! こう、なんというか、表情が、少し、あるというか」


 「ベルトさん、言いたいことがまとまったら教えてください」


 「まとまらないんですよ!」


 ラインが笑った。


 「エルナ嬢がいると、空気が変わる気がします」


 「どういう意味ですか」


 「局長がちゃんと、人に気を遣うようになった、というか。以前は仕事の話以外は全部切ってたんですよ。でも最近、夕方に「今日は早く帰れ」とか言うようになって」


 「それはいいことでは」


 「いいことなんですけど、理由が分からなくて」


 私はアルドの背中を見た。


 書類に向かって静かに作業している。


 (理由を聞いても、「さあ」と言いそうだ)


 でも、この場所が居心地よく感じるのは、私も同じだった。


 仕事ができる環境と、信頼できる人がいる場所。


 前世でも、そういう事務所にいたことがある。疲れても戻りたいと思える場所。


 今の調査局は、少しそれに似ている気がした。


 「エルナ嬢、書類の整理が終わったら教えてください。午後からゴルト・クレステンの取引先調査を手伝ってほしい」


 アルドが書類を見ながら言った。


 「了解しました。午前中に終わらせます」


 「急がなくていい」


 「大丈夫です。朝の方が集中できます」


 「……そうか」


 また沈黙になった。


 ベルトが小声でラインに言った。


 「……なんか普通に馴染んでる」


 「うん、馴染んでる」


 「いつからこうなったんだ」


 「気づいたらなってた」


 私はそれを聞きながら、整理書を開いた。


 (ここが居心地いい、というのは、事実です)


 心の中だけでそう思って、ペンを走らせた。


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