第十八話 証人をつぶすための罠、とはなかなか手が込んでいます
三つの事件を一本の整理書にまとめて、翌日に調査局へ持参した。
アルドとベルトとラインに内容を説明していると、局の使いが入ってきた。
「外から書類が届いています。エルナ・クレイン様へのご依頼書、とのことです」
「私に?」
受け取ると、封書が二通あった。
一通は普通の依頼書のように見えた。
もう一通は、「証拠書類の写し」と書かれていた。
「……これは」
中を開けると、書類が数枚入っていた。
「バルセン子爵横領案件に関する証拠書類」と書かれていた。
だが、見た瞬間に違和感があった。
「おかしい」
「何が」
アルドが書類を覗き込んだ。
「これは偽物です」
「断言できるか」
「はい。理由は三点あります」
私は書類を机に広げた。
「まず一点目。この書類の書式が、調査局の正式書式と一致していません。コラム幅と区切り線の入れ方が違います。本物の調査局書類は、私が何十枚も見ていますので、見分けられます」
アルドが確認した。
「……たしかに、若干違う」
「二点目。日付の書き方が実際と異なります。この書類には第二の事件の証拠として、先月の二十日に某所で取引があったと書かれています。ただ、先月の二十日、私はアルド調査官殿と書類確認をしていました。その確認書には、その時点で第二の事件に関する取引記録はすべて回収済みと記録されています。つまり、この書類は後から作られたことになります」
「三点目は」
「三点目が最も重要です。この書類に登場する取引相手の名前。ヴィネ商会という名前があります。ヴィネ商会は実在しません。私が先ほど整理書を作成する際に確認しました。王都の商会台帳を借りていたので。ヴィネ商会という名前は台帳のどこにもありません」
室内が静かになった。
ベルトが口を開いた。
「……つまり、偽証拠を作って、それを証拠として提出させようとした?」
「おそらく。もしこれをそのまま信じて整理書に加えていたら、調査局が偽造証拠に基づいて動いていたことになります。後で発覚すれば、私だけでなく調査局の信頼も傷つく」
「君を罠にはめようとした」
アルドの声が、いつもより低かった。
「証人をつぶすための罠、ですね。なかなか手が込んでいます」
「笑える話じゃない」
「笑っていません。ただ、手が込んでいるということは、それだけ追い詰められているということでもあります。こちらの調査が核心に近づいているのかもしれません」
「……そうだな」
「ただ、気になるのは別のことです」
「何が」
「この偽書類、届け主の名前がありません。つまり、誰かがわざわざ偽造してまで私に送ってきた。その手間をかけてまで私を陥れたい理由がある人物。それを特定できれば、黒幕に近づけるかもしれません」
「偽書類の作成者を特定できるか」
「書類の作りを見れば、ある程度は分かります。この書式は、調査局の内部書類を参考にしているはずです。細かいところが本物に似ているから」
「内部書類を入手できる人物」
「あるいは、内部書類を見せてもらえる立場の人物」
アルドが腕を組んだ。
「……確認する。ラインとベルト、内部書類への最近のアクセス記録を調べてくれ。誰がどの書類を閲覧したか」
「はい」
二人が動いた。
「エルナ」
「はい」
「よく気づいた」
「書類を見るのが仕事ですので」
「普通の人間なら、受け取った瞬間に本物だと思う。それを三点で論理的に偽物と判断するのは。」
「前世でも、偽造書類の見分け方は習いました」
アルドが私を見た。
「君の前世が、ここでも役立っているな」
「今世のスキルと合わさると、なかなか使えます」
「そうだな」
彼が少し止まった。
「……怖くなかったか」
「怖かったです。でも、正直に言えば、腹が立ちました」
「腹が立った」
「こういうことをする人間が許せません。証拠を偽造するというのは、真実を歪めることです。前世でも今世でも、それだけは許せない」
アルドが、何かを言いかけた。
だが言葉には出なかった。
代わりに、低く静かに言った。
「同じだ、俺も」
その声の温度が、いつもと少し違った。
私はそれ以上聞かず、書類を整理書の横に置いた。
「これも証拠として保管します。偽造書類そのものが、相手の意図を示す証拠になります」
「そうしてくれ」
「わかりました」
私はペンを手に取った。
この書類を仕込んだ人物が、必ずどこかにいる。
前世で何度も学んだことがある。
証拠を偽造する者は、必ずどこかで本物の痕跡を残す。
(見つけ出してみせます)
心の中で静かに、そう思った。




