第十七話 第三の事件は、最初の事件と同じ匂いがします
第三の案件の書類が届いたのは、脅迫者が捕まった翌朝のことだった。
調査局に出向くと、アルドが大きなテーブルの上に書類を広げていた。
「これだ」
手渡された書類を受け取って、内容を読んだ。
「……商会の横領、ですか」
「そうだ。王都の大手商会が、下位の取引先を食い物にしている疑いがある。被害を受けた商会が調査局に申し立てを行ってきた」
「第二の事件と似た構造ですね」
「そう見えるか」
「はい。ただ。」
私は書類をもう一度見た。
「これは、最初の事件とも似ています」
アルドが動きを止めた。
「最初の事件」
「第一章の婚約破棄劇のことです。あのとき、婚約破棄の裏に横領の隠蔽工作があると分かりましたね。その構造と、この商会横領案件の構造が、似ています」
「……具体的に」
「資金の動かし方が同じです」
テーブルの上に第一の事件の整理書と、今回届いた書類を並べた。
「見てください。第一の事件では、架空取引を通じて資金を迂回させていました。今回の商会横領も、同じ手口を使っています。取引記録に実在しない品目を入れて、差額を吸い上げている」
アルドが書類を手に取り、比べた。
「……同じだな」
「それだけではありません。第一の事件で出てきたゴルト・クレステンという名前。第二の事件でも浮上しましたね。今回の商会横領の書類にも、その名前が出てきます」
「どこだ」
「二枚目の末尾です。書類を受け取った商会の名前として記録されています」
アルドが確認した。
しばらく、沈黙があった。
「……三つの事件が、つながっている」
「そう思います」
「確証はあるか」
「まだ推測の段階です。ただ、三つの事件すべてに同じ名前が出てきて、同じ手口が使われている。これは偶然ではないと思います」
アルドが腕を組んだ。
ベルトが入ってきた。
「局長、エルナ嬢が来ていると聞きましたが。あ、もうここにいるんですね」
「三つの事件が一本の糸でつながっているかもしれない、という話をしていた」
「え」
ベルトが書類を覗き込んだ。
「ゴルト・クレステン……第二の事件でも名前が出てたやつですよね」
「はい。そして第一の事件でも」
「三回出てきたら、もうこいつが核心ってことじゃないですか」
「そうかもしれません。ただ、名前が出てくるだけでは証拠になりません。このゴルトがどういう役割を果たしているかを示す証拠が必要です」
ラインが資料を持って入ってきた。
「ゴルト・クレステンの調査記録、持ってきました。王都で中規模の貿易商を営んでいる人物です。表向きは問題のない商人に見えます」
「表向きは」
「はい。ただ、過去に二度、調査局への申し立てに名前が出てきています。いずれも不起訴になっていますが」
「不起訴になった理由は」
「証拠不十分。とあります」
私は整理書を手に取った。
「証拠不十分というのは、証拠がなかったということではなく、証拠が消えたということかもしれません」
「証拠を消す手段があるとすれば」
「内部に協力者がいる可能性があります」
静かな言葉だった。
だが、室内の空気が変わった。
「調査局の内部に、という意味か」
「可能性の話です。ただ、三つの事件にわたって同じ人物が出てきて、そのたびに証拠が不十分で終わっているのは。」
「組織的な動きだ」
「そう思います」
アルドが私を見た。
「ここまで分析できたのは、最初からすべての事件の書類を見ていたからだ」
「そうかもしれません。第二の事件から参加していれば、気づかなかったかもしれません」
「だから第一の事件で、君が巻き込まれたことに意味があった」
「……なかなか都合よく考えていただいてありがとうございます」
「事実だ」
アルドが書類を一枚手に取った。
「引き続き、三つを合わせた整理書を作成してもらいたい。全体像を一枚に収める」
「わかりました」
私は席について、新しい整理書を広げた。
三つの事件、三本の糸。
それが一人の人物へとつながっているとすれば。この調査は、私が最初に想定していた以上に大きなものになる。
(でも、証拠があれば怖くない)
前世でも、そうだった。
どんなに大きな相手でも、証拠が積み上がれば崩せる。
ペンを手に取り、書き始めた。




