表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
証人令嬢エレノアは証言をやめません ~前世が弁護士なので、この状況はむしろ好都合ですわ~  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/22

第十六話 信用してもいいと思い始めたのは、あの夜からです

 護衛がついて三日が経った。


 ラインは仕事がやりやすい同行者だった。余計な口出しをせず、かつ必要なときは素早く動く。私の行動を妨げることなく、自然に傍にいる。


 慣れてきた頃、それは起きた。


 その夜、調査局での作業を終えて、クレイン邸へ帰る途中のことだった。


 馬車が路地を抜けようとしたとき、ラインが急に馬を止めた。


 「少し待ってください」


 低い声だった。


 「何かありましたか」


 「後ろに馬車が一台、ずっとついてきています」


 馬車の窓から外を見た。夜の路地は暗く、後ろの馬車の姿はぼんやりとしか見えない。


 「どのくらい前から」


 「調査局を出たところから」


 「……連絡は」


 「すでに局に送りました」


 素早い判断だった。


 「私はどうすればいいですか」


 「馬車の中に。動かないでください」


 「わかりました」


 ラインが馬を路地の脇に寄せた。


 しばらくして、後ろの馬車が追いついてきた。男が二人、降りてきた。


 「お前か、調査局の証人は」


 荒い声だった。


 私は馬車の中から状況を観察した。記録スキルを起動させた。映像として記録する。顔、体格、服の特徴。


(記録している。落ち着け)


 ラインが前に立った。


 「クレイン伯爵令嬢に何か御用でしょうか」


 「用があるから来た。一緒に来い、という話だ」


 「それはできません」


 「ならお前を先に。」


 馬の蹄の音が響いた。


 路地の反対側から、馬が一頭駆けてきた。


 アルドだった。


 暗い中でも分かった。あの背筋の伸びた乗り方は、他の誰でもない。


 「その者たちを止めろ」


 短い命令だった。彼の声は平静だったが、どこか低く張り詰めていた。


 男二人が一瞬動揺した。その隙に、ラインが動いた。


 前世で何度かこういう場面に出くわしたことがある。とは言い難いが、映像で記録しながら、私は不思議と冷静だった。


 あっという間だった。


 男二人は取り押さえられ、局の衛兵が到着した。


 馬車のドアが開いた。


 アルドが立っていた。


 「怪我はないか」


 「はい」


 「怖かったか」


 少し、問いかけが短かった。いつもより言葉が少なかった。


 「……少し。でも記録を取っていましたので」


 「この状況で記録を取っていたのか」


 「スキルが自動的に、というのもありましたが。顔と体格と服の特徴を記録しました。お役に立てれば」


 アルドが私を見た。長い時間、見ていた。


 「……本当に、君という人は」


 何か言いかけて、続けなかった。


 衛兵たちが男二人を連行していく。ラインが状況を報告している。


 私は馬車から降りて、地面に立った。


 夜の空気が冷たかった。


 「ありがとうございました」


 アルドに向かって、素直にそう言った。


 今日は、いつもと違う感謝だった。


 「仕事だ」


 「それでも」


 「……」


 アルドが少し黙った。


 「護衛をつけると言ったとき、素直に受け入れてくれてよかった」


 「あなたが理由を話してくれたからです」


 「そうか」


 「来てくれると思っていましたか」


 「何が」


 「連絡を受けて、ここに来ること」


 「当然だ」


 「私のために」


 「業務だ」


 「……はい」


 私は小さく笑った。


 「業務として、助けていただいてありがとうございました」


 アルドが少し、視線を動かした。


 「帰れ。送る」


 「はい」


 馬車に乗り込む前に、もう一度振り返った。


 「信用していいですか」


 アルドが動きを止めた。


 「何を」


 「あなたを、信用していいですか。これからも」


 間が、あった。


 短くなかった。長くもなかった。


 「……ああ」


 たった一言だった。


 だが、その言葉がとても重かった。


 馬車に乗り込んでから、夜の街を眺めた。


(信用してもいいと思い始めたのは、あの夜からだ)


 後になって、何度もそう思った。


 あの夜を境に、何かが変わった。


 それが何なのか、その夜の私にはまだわからなかった。


 翌朝。


 朝食を終えたところで、アルドから書状が届いた。


 「第三の案件が動き出した。来てほしい」


 それだけだった。


 私は立ち上がり、支度をした。


 これが、本当の敵の始まりだと気づいたのは、もう少し後のことだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ