表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
証人令嬢エレノアは証言をやめません ~前世が弁護士なので、この状況はむしろ好都合ですわ~  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/40

第十五話 護衛をつけるのは過保護です、でも断れません

 翌日の朝、調査局に出向くと、アルドがいつもと違う顔をしていた。


 「座ってくれ」


 「はい」


 「護衛をつける」


 開口一番そう言った。


 「……護衛、ですか」


 「昨日の脅迫状の件だ。昨晩、届け主の特定ができた。王都の外れを拠点にする、小規模だが組織的な集団だ。過去にも、調査局が追っていた連中と関わりがある」


 「それは……思ったより本格的ですね」


 「そういうことだ。だから護衛をつける」


 「お気持ちはわかります。ただ、私には必要ないかと思います」


 アルドが私を見た。


 「理由を聞こう」


 「護衛がついていれば目立ちます。それよりも、注意して行動する方が実際は安全ではないでしょうか。それに、刺繍の時間も確保したいですし、護衛がいると。」


 「それは理由にならない」


 「でも」


 「つける」


 「護衛の必要性が、実際の脅威と釣り合っているかどうかを。」


 「エルナ」


 初めて、名前を呼ばれた。


 姓でも「クレイン嬢」でもなく、名前だけで。


 思わず黙った。


 アルドが立ち上がって、窓の前に移動した。背を向けたまま、少し間を置いてから話した。


 「俺は以前、一人、守れなかった者がいた」


 静かな声だった。


 「五年前だ。当時、俺が担当していた案件に、証言者として協力してくれた人物がいた。証拠を持っていた。組織に狙われる可能性があると分かっていた」


 「……」


 「護衛をつけることを提案した。断られた。必要ないと言われた。俺も押しきれなかった」


 彼が少し止まった。


 「三日後、その人物は怪我をした。重傷ではなかったが。俺が護衛を押しきれなかったことで、防げた怪我だった」


 振り返ったアルドの顔は、いつも通りの静かな表情だった。だが、目の奥に何かがあった。


 「俺は、同じことを繰り返さない」


 「……」


 「だから護衛をつける。これは業務上の判断だ」


 私はしばらく、彼を見ていた。


 五年前の話。守れなかった人。


 それを話したのは、初めてのことだと思う。


 「……わかりました」


 「いいのか」


 「はい。調査官殿のご判断を尊重します」


 アルドが少し止まった。


 「素直に受け入れるのか」


 「あなたがそこまで言うのなら、理由があると思います。理由がある判断に、私が私の都合だけで反対するのは、フェアではない」


 「……フェア」


 「前世の言葉です。公平、という意味です」


 アルドがまた少し止まった。


 「わかった」


 「護衛の方はいつから」


 「今日から。ラインに同行してもらう」


 「ラインさんに、ご迷惑をかけて申し訳ないです」


 「業務だ、迷惑ではない」


 「でも、私の仕事のために動いてもらうわけですから」


 「それが調査局の仕事だ」


 彼は短くそう言って、書類を手に取った。


 話が終わった、という合図だった。


 私は席につき、作業を始めながら、アルドの言葉を思い返した。


 五年前。守れなかった人。同じことを繰り返さない。


 この人は、自分のことを言葉にするのが苦手だ。日常の気遣いも言葉にしない。感情も言葉にしない。


 けれど、あの言葉は。言葉にしないわけにいかなかったから、話したのだろう。


(私に護衛をつけるための理由として言ったのだろうが)


 それでも、あの話を打ち明けることは、彼にとって簡単ではなかったはずだ。


 「ありがとうございます」


 小声で言った。


 アルドは書類から目を上げなかった。


 だが、「ああ」と短く答えた。


 それで、十分だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ