表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
証人令嬢エレノアは証言をやめません ~前世が弁護士なので、この状況はむしろ好都合ですわ~  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/22

第十四話 エルナ嬢を狙う者がいます

 翌朝、封書が届いた。


 調査局からではなかった。差出人の名前がなかった。


 差出人のない封書が届くこと自体、珍しい。侍女が玄関で受け取ったとき、郵便配達ではなく、誰かが直接置いていったらしいということだった。


 中を開けると、一枚の紙が入っていた。


 「調査を止めるか、痛い目を見るか、どちらか選べ」


 それだけだった。


 私は少しの間、その紙を見つめた。


(脅迫状、か)


 正確には、こういうものを脅迫状という。選択肢を提示して行動を強要しようとしている文書だ。前世でも、依頼人がこういうものを受け取ったことが何度かあった。


 まずすべきことは。証拠として保管することだ。


 封書ごと、書類入れに丁寧に収めた。配達経路も後で確認が必要だ。


 次に、調査局に連絡する。


 「すぐ参ります」とだけ書いた返信を書いて、馬車を呼んだ。


 調査局に着くと、受付でアルドを呼んでもらった。


 会議室に入ると、彼がすでに待っていた。


 「急に来たが、何かあったか」


 「はい。これを」


 私は封書を取り出して、テーブルに置いた。


 アルドが手に取り、中の紙を読んだ。


 読んでいる間、彼の表情が変わった。


 「……いつ届いた」


 「今朝です。侍女が玄関で受け取りました。郵便配達ではなく、誰かが直接置いていったようです」


 「配達した人物の描写は」


 「確認中です。侍女が見ていた範囲では、青いマントを着た男性とのことでした」


 アルドが封書を机に置いた。


 「証拠として保管するつもりで持ってきたか」


 「はい。封書ごと。受け取った時間と状況も記録してあります」


 彼が私を見た。長めに見た。


 「……怖くなかったか」


 「少し驚きました。ただ、脅迫状を受け取ったときの対応は、前世で依頼人に教えていたことがありましたので。とにかく証拠として保管して、然るべき機関に届ける。それが最初にすべきことだと思って」


 「その通りだ」


 「ですよね」


 アルドがベルトとラインを呼んだ。


 三人で短く協議した。


 「配達した人物の特定を急ぐ。クレイン邸の周辺の警戒も強化する」


 「はい」


 「クレイン嬢、しばらくの間、一人での外出は控えてもらいたい」


 「先日も同じことをおっしゃっていましたね」


 「今度は冗談ではない。それなりに本気の連中が動いている可能性がある」


 「……わかりました」


 素直に答えた。今回は、軽く流せる話ではないと分かっていた。


 ベルトとラインが部屋を出た。


 アルドが一人、封書を再び手に取った。


 「この文面は、調査が核心に近づいていることを意味する」


 「そうだと思います。誰かが焦っている」


 「焦らせているということは、こちらが正しい方向に動いているということだ」


 「そうですね」


 私はテーブルの上に整理書を広げた。


 「では、引き続き進めましょうか」


 アルドが私を見た。


 「怖くないのか」


 「怖いです。でも、止まる理由にはなりません」


 「……なぜ」


 「証言を止めることは、真実を止めることです。それは私にはできません」


 しばらくの間があった。


 アルドが封書を書類袋に入れて、棚に収めた。


 その背中を見ながら、私は気づいた。


 さっきから、アルドの動きが、いつもより少し速い。


 普段は落ち着いた所作をする人が、今日は違う。


 焦っているわけではない。だが、何かが張り詰めている。


(この人は、今、怒っているのかもしれない)


 脅迫状を誰かが送ってきたことに対して。


 それに気づいたとき、胸の中に不思議な温かさが生まれた。


 「アルド調査官殿」


 「なんだ」


 「ご心配をおかけして、申し訳ありません」


 「……俺は心配などしていない」


 「そうですか」


 「心配ではなく、業務上の懸念だ」


 「そうですか」


 「そういうことだ」


 「わかりました」


 私は整理書に目を落とした。口元が少し、動いていたかもしれない。


(業務上の懸念。なるほど)


 心の中で静かに繰り返した。


 アルドが席についた。


 「続けよう」


 「はい」


 二人で、作業を再開した。


 その日のアルドは、一度だけ私の手元を確認するように視線を向けた。何かを言うわけではない。ただ、確認していた。


 (俺が守る)


 その言葉は、声に出ていなかった。


 けれど。なんとなく、そういう意思が伝わってくる気がした。気のせいかもしれない。


 前世の感覚が、「気のせいではない」と言っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ