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証人令嬢エレノアは証言をやめません ~前世が弁護士なので、この状況はむしろ好都合ですわ~  作者:


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11/22

第十一話 証拠書類の整理は、前世でも今世でも同じです

 その日の作業は、書類の整理だった。


 バルセン子爵の関連書類が新たに届き、これを既存の記録と照合する作業が必要だった。量が多い。一人で行う場合、丸一日かかるかもしれない。


 私は朝から小部屋に籠もって、黙々と作業をしていた。


 書類を一枚ずつ手に取り、記録スキルを起動し、既存の記録と照合する。矛盾があれば印をつけ、別のまとめに記録する。それを繰り返す。


 単調だが、集中できる仕事だ。


 前世でも、こういう作業は苦にならなかった。


(むしろ、好きだったかもしれない)


 証拠書類の整理。事実を積み上げること。パズルのピースが一つずつはまっていく感覚。


 前世の弁護士時代の記憶が、ふと浮かんだ。


 あれは、法律事務所に入って五年目の冬だった。


 難しい案件を一人で抱えていた。依頼人は若い女性で、職場での不当解雇を訴えていた。証拠が少なかった。相手側の会社は大きく、弁護士も優秀だった。


 毎晩遅くまで事務所に残り、書類を読んだ。


 一枚一枚。記録を照合し、矛盾を探した。


 三週間後、見つけた。


 社内の通達書類の中に、日付の改ざんがあった。ほんの小さな矛盾だった。だが、その一点が糸口になり、最終的に依頼人は勝訴した。


 あの日、事務所の窓から外を見ながら思った。


 (正しいことが証明された)


 その感触は今も、どこかに残っている。


(今世でも、同じことをしているのかもしれない)


 手を止めて、窓の外を見た。


 夏に向かう空が、明るかった。


「集中しているところ悪いが」


 部屋のドアが開いて、アルドが顔を出した。


 「何でしょうか」


 「バルセン子爵の取引先に、新しい名前が出てきた。局内で確認が取れていない人物だ。君の書類の中にその名前が出てくるかどうか、確認してもらいたい」


 「名前を教えていただければ」


 「ゴルト・クレステン。貿易商だ」


 私は書類の束を素早く確認した。記録スキルで保存した書類の映像を頭の中で再生する。


 「……あります。第三束の中ほどに一枚」


 「どんな内容だ」


 「バルセン子爵との食料品の取引記録ですが、この取引は他の記録と照合すると数量が合わない。ゴルト・クレステン名義の取引だけ、数字の桁が一つ多い」


 「桁が多い」


 「他の取引と比較すると不自然な量です。架空かもしれません」


 アルドが部屋に入ってきて、私の隣に立った。書類を受け取って確認する。


 「確かに」


 「ゴルト・クレステンという人物は、どういう方ですか」


 「三年前から王都に現れた貿易商だ。素性が不明瞭で、局でも追っていた」


 「先日の件。フォルセ子爵の書類にも、似たような構造があったかと思います」


 「そうだ。だから君に確認したかった」


 アルドが書類を机に戻した。そのまま、少し黙った。


 私も手を止めて、向き合った。


 「調査官殿、一つお聞きしてもいいですか」


 「なんだ」


 「今回の案件、バルセン子爵の横領疑惑というところから始まりましたが。これは、最初のヴィオネ嬢の件とつながっていますよね」


 「……なぜそう思う」


 「フォルセ子爵、クリスタン男爵、バルセン子爵、そしてゴルト・クレステン。全員、同じ構造の書類で繋がっています。これは組織的な動きに見えます」


 アルドが私を見た。


 「調査局として、そこは以前から疑っていた」


 「では、私がたどり着いたことは。」


 「正しい方向だ」


 短く、はっきりと言った。


 私は書類に目を落とした。


(あの日の事件と、今の事件がつながっている)


 ヴィオネ嬢の婚約破棄から始まり、フォルセ子爵の書類へ、そしてバルセン子爵の横領疑惑へ。これは一本の線でつながっている。


 糸を一本引くと、奥に大きな布が見えてくる感覚がした。


 「この件の終わりは、どこにあると思いますか」


 私は何気なく聞いた。


 アルドが少し間を置いた。


 「まだわからない。だが。君が書類から見つけてくれた糸が、いくつかある。それを追っていく」


 「役に立てているなら、よかったです」


 「立っている」


 彼は短くそう言って、書類を手に部屋を出た。


 私は再び作業を始めた。


 書類を一枚一枚、丁寧に。


 前世でも今世でも、やることは変わらない。ただ、証拠を積み上げる。真実が見えるまで。


 窓の外の空が、少しずつ夕方の色に変わっていった。


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