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そう、だから君を奪うことにした  作者: 瑞月風花
第三章『自由な空へ』

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グランバル(王による王のための大舞踏会)④

 ハウエル様に言われた通り、ロドウェル卿とは反対側の壁際に立っていた。

 私の見る景色は、とても華やかで煌びやか。私の目に映る景色は、どれも真新しいものばかりだった。

 調度のすべては見たこともないほどに繊細で、頑丈で。お食事を置いてあるテーブルでさえ、綺麗な彫り物がされてあった。隣にある壺に活けられている花は、薔薇のようでいて薔薇ではなく、棘もない。たくさんの柔らかそうな花びらが重なり合って鞠のようになっている深紅や橙、紫色に黄色の色の花。小さな鞠のようなそれらがこんもりと活けられていた。

 これもとても貴重なものなのかもしれない。

 そして、改めて見渡したこの会場は、色に満ち溢れていると、思った。


 会場自体が色を映えさせる造りになっているのかもしれない。だから、色が目に付くのかもしれない。

 お衣裳の色だけでなく、彼らの中にあるそれぞれの色。

 目の前を通り過ぎていくご婦人も、遠くでおしゃべりをしているご婦人も、どこか自信に満ち溢れ、どこか嬉しそうで、きらきらしているように思える。

 ――お綺麗な方ばかりだわ。

 だけど私には、色がない。


 そう思って、誰に対しての言いわけなのかも分からないまま自己弁護をしていた。

 違うの……このお色はとても素敵なの。ハウエル様のお色。このお色はとても好き。

 だけど、私がそれに見合う“色”を持っていないような。

 そんな風に思ってしまうのはどうしてだろう。


 今までこんなにたくさんの方たちに会うことがなかったからだろうか?

 それとも、……。

 さっきのことを思い出すからだろうか。


 私がハウエル様の腕に掴まっていた時、私がもっと綺麗な方だったら良かったのに、と思ったからかしら……。


 それなのに、たくさんの人の中から、一番にハウエル様を見つけてしまう。

 お皿にはたくさんの食べ物も載っているようなのに、全然ふらつかないハウエル様。

 私なんかとは釣り合わない……。

 だけど、どうしてそんなことを思うのだろう。


「どうかなされましたか?」

 彼は、いつも私を心配していて、……。

「いいえ、ちょっと見ていただけです」

「そうですか……あちらの椅子が()いています。そちらへ」


 促され、付いて行く。言われた通り椅子に座る。困らせてはいない……わよね。先ほどのご婦人の言葉が脳裏に浮かぶ。

『従順がいちばんですことよ』

 そうよね……。こんなにお優しいハウエル様を困らせてはいけないわ。


「やはり、もっと色鮮やかなものがよかったのでしょうか?」

 私がそんな風に思っていると、意味の分からないハウエル様の声が聞こえてきた。

 ご飯のこと?

 思わずそう思ってしまった。


 ハウエル様のお持ちになる大きなお皿の中には、すでに色鮮やかな食べ物がたくさん載っている。

 パンにお肉、それからアマンブール。温野菜に苺に柑橘。葡萄に林檎に梨とほんとうに色とりどり。

 そして、そのまま私の隣に腰を下ろしたハウエル様が、続けた。


「奥さまは先ほど他のご婦人たちを眺めていらっしゃったでしょう? 生地選びの際に、お伝えすべきであったかと思いまして。あまり社交の場には出たことはありませんが、皆無ではございませんでしたから」

 えっ?

 そして、思わず耳を疑ってしまった。


「そんなこと……だって」


 だって、この生地はハウエル様の瞳のお色で、……。

 は、どうしても繋げられなかった。


「でも、ロジェの色合いでしたので、お選びになったのですよね」

 私はハウエル様のほんの少し寂しそうなお顔を眺めてから、目をぱちくりさせてしまった。

 ロジェの色合い……。

「ほんとう……だわ」

 気づいていなかった。だけど、気づけて嬉しかった。


「ハウエル様、ロジェの色ですね。だから、ここにロジェがいるのですね」

「気づかれていましたか。お恥ずかしい」

 と、はにかみながら、

「たくさん食べてくださいね。そのドレス、そんなにお腹を縛らないように作らせたはずですので、食べられると思うのですよ……その辺りはどうですか?」

 と私を眺める。


 ハウエル様は、とても優しい。優しいのに……。

――優しいから悲しくなるの?


「はい、とても」

 とても……。悲しくて、嬉しい。

「嬉しいです」

 自然と笑顔が作られる。それなのに、自然と瞳の奥がじんわりとしてくる。気づかれてはいけないと、笑顔を保っているけれど、……。上手くやれているかどうか、自信はない。


「良かった。じゃあ、たくさん食べてください。ロドウェル卿は、今ご歓談中です。給仕も向かわせておりますから、しばらくゆっくり食べていても、少なくとも空腹からは叱られないでしょう」

「あの……ハウエル様は?」

 ほら、やっぱり、どうしてそんなに優しく微笑むの?

「先ほど食べてしまいましたので、お気になさらずに」

 そう言って、遠くを眺めてしまわれた。


 私は渡されたお皿に視線を下ろして、一つずつフォークで突き刺して食べていった。

 ナイフが用意されていないのだから、きっとこの食べ方で良いのよね……。

 幼い頃はこうやって食べていたのだし。

 一口食べる。


 最初に突き刺したのは、柔らかなニンジン。

 葉野菜に続いて、ラディッシュ、それから鴨肉も。

 パンも噛み齧って、果物も突き刺す。片手で食べるのだから、きっとこれが一番、零さず食べられる。

 大切なドレスを汚さず食べられる。

 そうやって、最後のお肉を口に入れる。


 悲しい気持ちだったことも、嬉しい気持ちだったことも、実は空腹だったからなのかもしれない。そう思えるほど、どれも美味しかった。

 そして、遠くを見つめたままのハウエル様がぽつりと言葉をこぼした。


「奥さま、今奥さまがロドウェル卿にさせられていることは、本来ならば給仕がすべき仕事です。そして、あなたは嫌がるでしょうが、あなたは歴とした陛下の姪御様であり、王族の血を持つもの。これから、何があろうともそれを覚えておいてください」

その言葉に、ハウエル様を見上げる。


「アマンブール、気に入っていただけて良かった。そろそろ陛下が玉座に就かれます。皆が挨拶を終えれば、舞踏会が始まりますので、私もそろそろ陛下の元に戻りますね」

……はい。

 は、言えなかった。


 言えなかったのに……、言わなかったのに、……ハウエル様は行ってしまわれた。


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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。ロドウェル卿という存在に心を鎖で繋がれているようなロゼッタに、ハウエルがさしのべる手。その彼女の瞳に映るテーブルの上に活けられた色とりどりの花たちは、まるで会場に溢れる…
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