表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そう、だから君を奪うことにした  作者: 瑞月風花
第二章『変化』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/15

「窓辺のロゼッタとミモザの夫人」②(ロドウェル/ハウエル)

『ロドウェル卿、少し御耳に入れたきことがあります』

 あの男は、そう言って儂に耳打ちをした。


 ロドウェルの最近はそのハウエルが言った言葉で埋め尽くされている。

 ――やっと手に入れたのだ、失ってたまるものか……。

 そして、そんな感情に呑み込まれていた。


 孤立無援のセドリックから後ろ盾になって欲しいと頼まれた時、わざわざ泥船に乗るものがどこにいよう、そう言って、ロドウェルは断っていた。

 しかし、セドリックが提示したものは、ロドウェルにとって垂涎物だった。

 美しかった二番目のミモリアによく似た少女。それもそうだ。ミモリアの姪の子なのだから似ていて当然だ。

 しかも、その少女は貴き血を持つ者だった。

 ロドウェルが何をしても手に入らないものまで持つ少女だ。

 それをくれると言うのだから、ロドウェルが頷かずにいられるわけがなかった。

 さらに、その貴き血の少女は、今の王家にとって最大の恥部だ。セドリックにとっても隠したい過去なのだろう、ロドウェルはそう思ったのだ。

 ――隠す。

 ……それを手伝ってやるのだ。

 セドリックの弱みも握ったと愚かにも思っていた。


 与えられたものは、自分がそれを好きにできる権利。

 そう、それはロドウェルの権利だった。


 ロドウェルはそう思っていた。


 しかし、ロドウェルが留守中に物乞いの女が『娘を返せ』とやってきたのだ。

 夜になってそれを耳にしたロドウェルは慌てた。ロドウェルが隠してやっている王家の過去を、別のルートから漏れる可能性を恐れたのだ。

 だから、下男たちを伴い『物乞い狩り』をした。

 まだ屋敷周りをうろついていた物乞い女は、結局追い詰められた結果、川に身を投げたらしい……というところまでは知っていた。


 だが、あの男が言ったのだ。

 怪しい女がいたと。

 さらにはロゼッタには物乞いの姿が――実際はミモリアを示唆するものだったが、見えていると。

 死体は上がっていない。

 そう、死体は……。


 そう思い、ロドウェルはハンティング用の銃を担いだ。


 狩らなければ……狩らなければ……狩らなければ……。


 ――儂のすべてが失われてしまう。



 ※※※


 ロゼッタには幽霊が見えるのだろうか?


 手元灯りを頼りに、羊皮紙にペンを走らせていたハウエルの頭にふと過ったことだった。

 

 あの庭のミモザの下に、白いドレスの女性が見えるのだそうだ。その風体を聞いていると、どうやらここの二番目の奥さまのようだが、ハウエルは見ていないので、実際のところ分からない。

 しかし、ロゼッタには彼女が見えて、話をしているのだそう。


 そのミモザの夫人は探し物をしているらしい。

 そして、二言三言おしゃべりをすると、静かに消えていく。


 ロゼッタの様子でおかしなところは、"見える"ということ以外なにもない……とは思う。


 しかし、どれだけ考えを巡らせてみてもはっきりしない。

 そもそも、現実逃避気味であったロゼッタの"普通"が、ハウエルには想像つかなかったのだ。

 おそらく自身の置かれている状態は理解したのだろうが、今もロゼッタの自己は少し乖離気味だとも思ってもいるし、彼女の普通がかなり異常であることも、ハウエルは理解しているつもりだった。


 ただ、ハウエルはロドウェルに大きなカマをかけたのだ。


「ロドウェル卿、少し御耳に入れたきことがあります」と。


 ――奥さまは毎晩あの木の下に紅い髪の女性を見るそうです。


 その言葉にロドウェルが動揺しているように思えた、いや、恐れているのだろうか。その後からロゼッタを部屋に軟禁し、自らはその部屋から遠退いたのだ。


 書類仕事を終えたロドウェルは、ここのところ毎晩、ハンティング用の銃を持って屋敷回りを警戒している。

 本人自らが。

 本来、警備など爵位も高い御仁のすることではない。

 それなのに、欠かさず。

 ……だとすれば、本当に狩りをしているのかもしれない。


 幽霊狩り……なのか? 

 非現実的だが、ハウエルにはそうとしか思えなかった。

 あの木々が彼の歴代の奥方さまになぞらえられていることは、なんとなく知っていた。

 黄色いドレスを好んで……かどうかは知らないが、身につけることが多かった二番目の奥さまは、黄色い花のミモザ。

 雪のように輝く銀髪が美しいと言われていた一番目の奥さまが、空に向けて白い花を開くマグノリア。

 空想と現実、または生と死の狭間でふわふわしているロゼッタならば、いずれ薔薇の花あたりが植えられそうな予感がする。


 死してもまだ囚われ続ける女たち。

 そして、姿を現したことで、ふたたび捕らわれる。そう思えば身の毛がよだった。


 ――異常でしかない。


 そして、考えをめぐらせた後、ハウエルは羊皮紙を削り始めた。

 伝えるべきことを変更した方が良いのではないか、と思ったのだ。

 相手はセドリック陛下だ。


 ハウエルとセドリックのこのやりとりは、ロゼッタがここに輿入れをした日からずっと続いていた。これは、ロゼッタの監視に関するものではなく、主にロドウェルの動向についてを知らせているものだ。

 後ろ盾になって調子づいているロドウェルの様子を知らせろとだけ、セドリックはハウエルに指示している。

 そして、ロゼッタに関しては、逃がすな。

 そのたった一つ、……のみだ。


 これを動かさなければ、ロゼッタの未来はあの幽霊と同じになってしまう。


 羊皮紙を削り終わったハウエルは、ふたたびペンを走らせていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘッダ
総合評価順 レビュー順 ブクマ順 長編 童話 ハイファン 異世界恋愛 ホラー
↓楠木結衣さま作成(折原琴子の詩シリーズに飛びます)↓
inu8gzt82qi69538rakm8af8il6_57a_dw_6y_1kc9.jpg
― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。ミモザの夫人を気にするロドウェル、自ら外へ警備に出るほど焦っている様子が伝わってきます。王家の秘密、それは王家だけでなく、ロドウェルにとっても決して外へ出したくないもの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ