後日談
魔物使いの男は、現場に駆け付けた兵士によって身柄を拘束された。
事情聴取の結果、男は冒険者ばかりを狙う連続殺人鬼だということが判明した。王都ル・フェでも数人の冒険者を手にかけており、死体はすべて発見されないよう燃やしたと供述している。シェイプシフターをうまく使い、銀等級冒険者すら屠っていたようだ。ゴドウィンが手に入れた冒険者プレートの持ち主も、彼に殺された被害者のひとりだった。
リデルとユノは、ジャンの墓前に立ち、手を合わせた。
穏やかな日差しの下、心地よいそよ風が吹き、さらさらと下草を揺らしていく。
「犯人が捕まったことだけが、唯一の救いです」
サリアが言う。
リデルは、自分が犯人逮捕に貢献しましたとは言わず、そうですね、と同調するだけにとどめた。
「これで彼も安心して天の国へ行けるでしょう。ほかの亡くなられた冒険者の方々も」
彼女の視線を追い、顔を上げれば、抜けるような青空が広がっていた。リデルは、彼らが死後も平穏に暮らしていけることを願った。
別れを告げ、リデルたちは帰路につく。
「サリアさん、笑顔になってくれてよかったね」
途中、洋菓子店で購入したクレープをむしゃむしゃと頬張るユノが、口の周りにクリームをつけながら嬉しそうに言った。
うん、とリデルは頷く。彼女が別れ際最後に見せた笑顔は、作り物ではない、心からの笑顔だった。
「そうだ、サリアさんにひとつお願いするのを忘れてた」あ、と間抜けな声を上げて、リデルは足を止める。
「お願い? なんの?」
リデルはしゃがみ込むと、きょとんと首をかしげるユノに真剣なまなざしを向けた。「ごめん、ユノ。悪いんだけど、明日の夜から孤児院に泊まってもらえないか。明日、どうしても出かけなきゃいけない用事があって」
「もしかして、ラフィとデート?」
ユノの爆弾発言に、リデルは吹き出しそうになるのをすんでのところでこらえた。「お、おまえ、どうしてそれを」
「え、だっていつものことじゃん。リデルが無理難題をラフィに押し付けたあと、その見返りとしておいしいお店に連れていかれるのは。どうせ、今回も同じなんでしょ。あーあ、たまにはリデルから誘えばいいのに。ほんと、ヘタレだね」
天使のような笑顔で、ぐさりと胸をえぐる容赦ない言葉を言ってのけるユノに、リデルは口をぱくぱくさせるしかない。
「いいよ。ふたりの邪魔をしちゃいけないし、サリアさんに明日泊めてもらえないか頼んでくるよ。リデルは、ラフィとのデート楽しんできてね」
そう言って来た道を戻っていくユノを、リデルは呆然と見送った。
一言、言葉を絞り出す。
「へ、ヘタレじゃないし」
精一杯の強がりは誰にも聞かれず、陽だまりの中に溶けて消えていった。
うららかな日差しが、王都を温かく照らしていた。