第6話 地球消滅作戦「ドゥームズデイ」
「バカなっ!本当にそんな作戦を実行するのか!上は正気なのか!」
(……ここは?)
見たことのない甲冑を着た男達が大勢集まり、怒号が飛び交っている。どこかの建物の中だろうか? マリーはパヴィヨンの館に居たことを思い出す。そして——
(イヤーーーーー!!!)
目の前に差し出された男の生首を思い出してしまった。自分を恨めしそうに睨んでいる、その生気を失った目も……。
(何てことを……)
でも、ここは明らかにパヴィヨンの館ではない。装飾の無い金属の壁に囲まれていて、天井には光る板のような物がはめ込まれている。甲冑を着た男達――おそらく兵士達が向いている方向を見ると、同じ甲冑を着た一人の男が壇上に立って何かを説明していた。
「シャルル隊長!そんな作戦を本当に実行するんですか!?地球帝国を倒すことに異論は無い!悪逆皇帝や貴族どもには裁きを受けさせる!だが、地球には無関係の市民が何億も居るんだぞ!」
男の一人が壇上に向かって叫び声を上げた。
(シャルル?)
壇上に立つ男は唇を噛んで苦渋の表情をしている。そして、重々しく口を開いた。
「統合幕僚本部の決定だ。地球を消し去ってでも、火星同盟は生き残る。民主主義の火は決して絶やさない。それだけのことだ」
(この声……シャルル……)
それは自分の頭の中で響いていた声の持ち主に間違いなかった。男は見上げるほどの長身で、無骨だが軍人らしい凜々しさを持っている。少しクセのある金髪で、一見フランス人のように見えた。周りの男達を見回すと、そこに居る兵士の半分以上は黒い肌や褐色の肌をしている。肌の色の違う人など見たことの無かったマリーだが、東方や南方大陸の人は肌の色が濃いと聞いたことがある。そんな地域からの傭兵だろうか?そんな考えを頭に巡らせながらシャルルの顔を見つめていると、彼は俯いて目を閉じた。そしてその瞬間、マリーの世界も真っ暗になる。地面が消失し、上も下も解らないどこかにマリーは放り出されてしまった。
(あれは……月?)
そこには、遠くに光り輝く太陽と、吸い込まれそうな真っ黒な空。そして見慣れた月があり、その向こうには見たこともない美しく眩い青い半球体が浮かんでいた。
(月に太陽……あの青く美しいものは……私たちの大地?)
全く音の無い空間だった。そして、マリーのすぐ横を、闇を切り裂いて巨大な物体が現れた。帆も漕ぎ手もなく、波を立てる水すらない暗闇を滑っていく、巨大な鉄の城塞——。そしてその傍らには、大聖堂の偶像よりも遥かに巨大な「鉄の巨人」が立ち並び、冷たい光を放っていた。
向こう側から同じような城塞と鉄の巨人が迫ってくる。鉄の巨人は大きなマスケット銃を構えて発射した。漆黒の闇の中に光り輝く線がきらめく。しかし、音は一切聞こえない。
そして鉄の巨人達はお互いに光る剣を抜いて斬り合いを始めた。声もなく斬られ、炎の光となって弾け飛ぶ鉄の巨人達。
マリーにも解った。これは戦争だ。
その時、十体ほどの鉄の巨人がシュテファン大聖堂よりも大きい謎の物体を引っ張って突進していくのが見えた。その先頭に立っている巨人がこちらの方を振り向いた。そして、その巨人の無機質な目とマリーの視線が交錯する。
(シャルル……)
激しい攻撃を退けて、シャルル達は月に近づいていく。マリーの視界もシャルル達を追うように月へと向かう。
(これが……月?)
遠目に見ていたときは、夜空に優しく浮かぶ月そのものだった。しかし、近づくにつれて見えてきたその表面は、荒涼とした色の無い、死の世界だった。
シャルル達は激しい攻撃を退けて、大聖堂のような物体を月面に降ろした。そして何かの作業を始める。
「お前達!起爆準備は出来た。すぐに退避するんだ」
シャルルの声がマリーの中で聞こえた。
「シャルル隊長を置いていくわけにはいきません!」
「解るだろ。オレのマシンはメインノズルとスタビライザーがやられた。月の重力圏を脱出できない。お前達に引っ張ってもらっては、制限時間を超えてしまう。命令には従え」
短いやりとりの後、シャルルを残して鉄の巨人達は飛び立っていった。
いつの間にか敵影は消えていて、全くの無音の世界が広がっている。シャルルは手元のパネルカバーを押し上げて、赤いボタンに手を伸ばした。
シャルルは、懐から古い純金のロケットペンダントを取り出した。蓋を開き、その中に収められた美しい金髪を、しばし見つめる。
そして、シャルルは青い半球体に視線を戻して呟いた。
「これも命令だ。悪く思うなよ」
その瞬間、世界が割れた。




