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代行  作者: 久賀ラトル


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6/8

六

 一月の終わり、夜の十時過ぎに、遠山のアパートのドアが叩かれた。


 航だった。タクシーを帰したところで、コートの前がはだけていた。酒の匂いがした。住所は戸川の書類で見たのだと言った。


「眠れないんだよ」


 航は玄関の上がり框に座り込んだ。


「親父がさ、来月から俺を現場に出さないって。会議だけ出てろって。専務の椅子に座ってろって。あんたが全部背負って、俺は椅子に座ってる」


「帰れ」


「警察に行く」


 遠山は台所の明かりの下で、航の頭頂部を見ていた。つむじの周りが少し薄くなりかけていた。


「行って、本当のこと言う。あんたにはちゃんと、親父から金がいく。俺がそうさせる」


 犯人隠避、という言葉を、遠山は戸川から一度だけ聞いていた。戸川は「念のため」と言って説明した。身代わりが露見すれば、身代わりになった者も罪に問われる。金は、受け取った経緯によっては没収される。莉子の学費の六十八万が、どこから来た金なのか、調べればすぐにわかる。


 遠山は航の襟をつかんで立たせた。航の体は軽かった。


「お前が楽になるために、俺をもう一回売るのか」


「売ってない。頼んだんだ」


「同じだ」


 航の目が赤く濁っていた。泣いていたのか、酒のせいなのか、わからなかった。


「あの子の手を握ってたのは俺だ」


 遠山は自分の声が低くなるのを聞いた。


「すみませんって言われたのも、俺だ。お前はハンドルに頭くっつけて震えてただけだろうが。今さら何を返してもらうつもりだ」


 航の唇が動いた。何か言いかけて、やめた。遠山は襟を離した。航は玄関のドアに背中をぶつけ、靴を半分つっかけたまま出ていった。


 翌朝、遠山は篠原建設へ行った。約束はしていなかったが、受付で名前を言うと、五分で社長室に通された。


「息子さんが来ました。夜中に。警察に行くと言ってました」


 篠原は窓の外を見ていた。資材置き場で、ユンボが砂利をすくっていた。


「止めてくれたのか」


「今回は」


 篠原が振り返った。


「三千万にしてください」と遠山は言った。「前金も、あと五百」


 篠原はしばらく遠山を眺めていた。品定めをする目だった。遠山はそれを、悪い気分ではなく受け止めている自分に気づいた。


「代行屋が、ずいぶん高くなったな」


「息子さんが、そうしました」


 篠原は内線で経理を呼んだ。


「航は、俺が見とく」

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