五
年が明けて、遠山は工業団地の物流倉庫へ行った。
なぜ行くのか、自分でもうまく言えなかった。調書に勤務先の名前があった。朝の六時、夜勤明けの従業員が通用口から吐き出されてくる時刻に、遠山は正門の脇の自販機の前に立っていた。
紺のジャンパーの胸に、あの夜見たのと同じロゴがあった。何人目かで、煙草に火をつけようとしていた若い男に声をかけた。悠斗くんの、と言うと、男はライターを止めた。
「知り合いっすか」
「少し」
男はダイスケと名乗った。悠斗とは同じ班で、同じ年に入ったと言った。遠山の顔をしばらく見ていたが、ニュースの名前と結びつけた様子はなかった。顔は出ていなかった。
「あいつ、秋から夜勤に替わったんすよ。手当がつくから。昼の倍とは言わないけど」
ダイスケは煙を横に吐いた。
「金、貯めてたんすよ。お袋さんが前に総菜屋やってて、それがつぶれて、借金が残ってて。あいつが返してたんす。お袋さんには内緒で、って言ってたけど、内緒にできるもんなんすかね、ああいうの」
遠山は缶コーヒーを両手で持っていた。まだ開けていなかった。
「自転車のライト」とダイスケが言った。「壊れてたんすよ。夏ぐらいから。直せって言ったんすよ、俺。千円もしないって。あいつ、千円がもったいないって」
ダイスケは煙草を足元で踏み消して、しばらく靴の先を見ていた。
「運転してたやつ、執行猶予つくんすかね」
「……たぶん」
「ふざけてんな」
ダイスケはそれだけ言って、駐車場の方へ歩いていった。
遠山は缶コーヒーを開けずに、正門の脇に立っていた。工場の屋根の向こうが白んでいた。千円、と遠山は思った。坂の下で胸ポケットに入ったのは、その十倍だった。
帰りにホームセンターに寄って、自転車用のライトを一つ買った。九百八十円だった。どうするつもりで買ったのか、レジを出てからわからなくなった。ライトは箱のまま、アパートの流しの上の棚に置いた。




