二
宮下悠斗、二十一歳。物流倉庫の夜勤に向かう途中だった。翌朝、病院で死んだ。
遠山は二日で出た。ローカルニュースは「代行運転中の男(46)を逮捕」と実名で流し、遠山の勤めていた代行会社はその日のうちに電話をよこして、もう来なくていいと言った。
取調べは堀という交通課の巡査部長だった。五十過ぎで、ワイシャツの袖口が黒ずんでいた。
「ライトは点いてなかった。それはいい。自転車の兄ちゃんにも落ち度はある」
堀は調書をめくりながら言った。
「随伴の杉浦くんも、あんたが運転席にいたって言ってる。それもいい」
「はい」
「代行ってのはな、客が最後だけ自分で運転したがるって話、よく聞くんだよ。車庫入れだの、家の前だの」
「うちは、やりません」
「そうか」
堀は顔を上げなかった。
「助手席の兄ちゃん、ずいぶん震えてたな。同乗してただけにしちゃ」
「人が轢かれるのを見たんです。誰だって震えます」
「あんたは震えてなかった」
遠山は答えなかった。堀はビニール袋に入った所持品の目録を指でたどった。
「財布。携帯。車のキー二本。それと、胸ポケットに一万円。財布とは別に」
「チップです」
「何のチップだ」
「あの客は、いつもくれるんで」
堀はしばらく遠山の顔を見ていた。それから目録を閉じた。
「篠原建設の息子だろ。あそこの社長は、うちの署にも顔が利く」
それが嫌味なのか、忠告なのか、遠山にはわからなかった。




