城門前の嵐
「ウィラード様!」
王城の巨大な石造りの門を出たところで、鋭く、それでいて鈴を転がすような高らかな声に呼び止められた。
今日は王城に務める父上とクラウス兄上への届け物があっただけなので、用事はすぐに済んでいた。 城門の前では、買い食いの約束をしていたジークとグンターが待っている。最近の俺が学園で囲まれがちなのを察してか、二人は騎士科の成績上位者らしい素早さで俺を守るように立ち位置を変えた。
「……?」
二人に遅れて俺が振り返った瞬間、視界に飛び込んできたのは、淡い緑色の長い髪をなびかせた絶世の美少女だった。
ぱっちりとした漆黒の瞳。広がる薄青のドレス。
あまりの美しさに、「隈が綺麗に消えているな」などと、俺の脳は一瞬、現実逃避を始めた。
(――いや、なんでこの人がここにいるんだ?)
どこかで聞いたことがあるような声。だが、目の前の人は楽しそうに笑っているのに、目が全っ然笑っていない。
やっばい、めっちゃ怒ってるよこの人。え、俺、何かしたっけ?
『察知』スキルが反応するより先に、生存本能が「こえぇぇえ……」と悲鳴を上げていた。
「エアエスト様から聞かれていませんか? 本日は私に付き合うように、と」
「聞いて、ない、ですね……」
グンターが訝しげに俺と「彼女」を見比べてくる。無理もない。一見すれば平民の娘である目の前の人に、貴族である俺が圧倒されているのだから。ジークは首をかしげ、バグっているような様子で俺と彼女を交互に見ている。
「エアエスト様が馬車を貸してくださったんです。よろしければ後ろのお二人も一緒にいかがです?」
「え」
いいのか? と目線で尋ねると、彼女の笑みがさらに深まった。……何でさ。
「もう。お約束されていらっしゃったのでしょう。ご友人は大事にされなければいけませんわ」
「……あー、エリス嬢と一緒でもいいか?」
俺はひとまずこの場を離れたい一心で、二人を促して家紋のない馬車へと乗り込んだ。
エリス嬢に腕を組まれ、密着された時には思わず遠い目をした。人通りの多い王城前でこんな真似……今の俺に逆らう権利など一ミリも存在しなかった。
馬車が動き出した途端、外で「あの文官、拉致されたぞ!?」という悲鳴のような叫び声が聞こえた気がしたが、俺は全力で耳を塞いだ。




