第9話 王国軍三千
第9話 王国軍三千
「王国軍三千……。」
ダリルは思わず息を呑んだ。
「こんな辺境に、なぜこれほどの兵を……。」
アストラが水晶へ手をかざす。
すると、遺跡の天井に巨大な光の地図が映し出された。
フェルド地方一帯。
森。
川。
廃村。
そして、無数の赤い光。
「これは……。」
「都市の監視網です。」
アストラが説明する。
「現在、王国軍は三方向からフェルド地方へ侵攻しています。」
赤い光はゆっくりと包囲を完成させようとしていた。
「逃げ道を塞ぐつもりか。」
ダリルが舌打ちする。
アリアは静かに地図を見つめていた。
違和感がある。
(早すぎる。)
婚約破棄からまだ数日。
普通なら辺境へ来たことすら把握できない。
それなのに、まるで最初から目的地を知っていたような動きだった。
(誰かが情報を流している。)
その時だった。
アストラが新たな映像を映し出す。
先頭を進む白銀の鎧。
第一王子クロード。
その隣には純白のローブを纏ったリシェ。
さらに、その後方。
黒い外套を羽織った、一人の男。
「……。」
アリアの表情が変わる。
さきほど遺跡で姿を見せた、あの魔導師だった。
「どうして、あの男が王国軍に……。」
アストラも信じられない様子で首を振る。
「あり得ません……。」
「あの者は千年前の人間です。」
「それが王国軍と行動を共にするなど……。」
アリアは目を細める。
(偶然じゃない。)
あの男は、最初から王国を利用している。
◇◇◇
一方その頃。
王国軍本陣。
第一王子クロードは険しい表情で地図を見つめていた。
「確かなのだな?」
「はい。」
報告する騎士が頷く。
「公爵令嬢アリアは、このフェルド地方へ入ったことが確認されています。」
「ふん。」
クロードは鼻で笑う。
「何もない辺境へ逃げたつもりか。」
その隣で、リシェが小さく口を開く。
「殿下……本当に討伐しなければならないのでしょうか。」
「もちろんだ。」
「彼女は黒い魔法を使い、危険な古代遺跡へ立ち入った。」
「放置するわけにはいかん。」
その言葉を聞いていた黒衣の男が、小さく笑う。
「ククク……。」
「何がおかしい。」
クロードが睨む。
「いえ。」
男は目を細めた。
「あなた方は何も知らないまま進んでいるのだと、そう思っただけですよ。」
「どういう意味だ?」
「すぐに分かります。」
男は夜空を見上げる。
「彼女はもう……。」
「この都市の主になっているでしょうから。」
◇◇◇
遺跡では、アストラが深刻な表情で報告を続けていた。
「王国軍がここへ到着するまで、およそ半日。」
「半日か。」
ダリルが苦笑する。
「兵は私を含めても十数名。」
「相手は三千。」
「普通なら降伏するしかありません。」
エマも不安そうにアリアを見る。
「お嬢様……。」
しかし。
アリアだけは微笑んでいた。
「ねえ、アストラ。」
「はい。」
「この都市には、防衛設備があるのよね?」
その質問に、アストラは一瞬だけ固まった。
「……あります。」
「ですが。」
「長い年月で停止しており、一度も起動したことがありません。」
アリアは笑みを深くする。
「なら、試してみましょう。」
「三千人相手に?」
ダリルが驚く。
「ええ。」
「せっかく私の街になったんだもの。」
「歓迎くらいしないと。」
その言葉と同時に、アリアは中央制御台へ右手を置いた。
黄金の紋章が輝く。
すると都市全体へ鐘の音が鳴り響いた。
『管理者権限を確認。』
『防衛機構、第一段階を解放します。』
ゴゴゴゴゴ……。
遺跡だけではない。
地上全体が大きく揺れ始める。
「な、何だ!?」
ダリルが外を見る。
荒れ果てた平原のあちこちで、大地が盛り上がっていた。
次の瞬間。
土の中から、白銀の塔が一本、また一本と姿を現す。
十本。
二十本。
三十本。
その数は止まらない。
アストラが驚きの声を上げた。
「そんな……!」
「都市防衛塔が……。」
「すべて、再起動しています!」
そして遺跡最深部から、さらに重い音が響く。
ガシャン。
ガシャン。
巨大な何かが歩き出す足音。
アークが静かに呟いた。
「主様。」
「どうやら……。」
「本当の守護者たちが、お目覚めになったようです。」




