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婚約破棄された悪役令嬢ですが、王国を支えていたのは私でした。辺境から始める最強国家建国記  作者: 谷本遥叶


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第8話 契約の代償

第8話 契約の代償


『承認しますか?』


 白い光に包まれた世界。


 アリアの目の前には、巨大な魔法陣が静かに回転していた。


 そして、二つの声が響く。


『契約を結べ。』


『その力は世界を変える。』


 もう一つの声は、冷たく囁いた。


『承認するな。』


『契約した瞬間、お前は普通の人間ではなくなる。』


 アリアは静かに目を閉じた。


(普通の人間……。)


 王妃候補として育てられ。


 悪役令嬢と呼ばれ。


 婚約を破棄され。


 ようやく自分の人生を歩き始めたばかりだ。


 今さら「普通」に執着する理由などない。


 ゆっくりと目を開く。


「私は――」


「守りたい人がいる。」


 その一言で迷いは消えた。


「契約を承認します。」


 瞬間。


 巨大な魔法陣が黄金色に輝く。


 守護獣の額に埋め込まれた王核から光が溢れ、アリアの右手へ流れ込んでいく。


 熱い。


 身体中を魔力が駆け巡る。


 それでも彼女は手を離さなかった。


「グアアアアアアッ!!」


 守護獣が最後の咆哮を上げる。


 赤黒く染まっていた魔石が、ゆっくりと透き通る蒼色へ変わっていく。


 暴れていた巨体が静かに震え、やがて膝をついた。


 静寂。


 遺跡を包んでいた禍々しい魔力が、まるで嘘だったかのように消えていく。


「成功……した。」


 アストラが信じられないという表情で呟く。


 守護獣はゆっくりと頭を下げた。


『申し訳……ありませんでした。』


 低く響く声。


 しかし、そこには先ほどまでの狂気はなかった。


 穏やかで、どこか誇り高い響きだった。


『我が名はグランディア。』


『今日より、あなた様の剣となります。』


 ダリルもエマも言葉を失う。


 伝説級の守護獣が。


 主として認めたのだ。


 その瞬間だった。


 都市全体へ鐘のような音が響く。


 コン――。


 コン――。


 コン――。


 アストラが驚いたように空を見上げた。


「都市認証が始まっています!」


 遺跡全体が淡い光に包まれる。


 閉ざされていた扉が次々と開き、停止していた施設が動き始めた。


「中央魔導炉、起動。」


「地下農園、起動。」


「浄水施設、起動。」


「防衛機構、正常化。」


 機械的な声が次々と響く。


 まるで都市そのものが息を吹き返したようだった。


 アストラは嬉しそうに微笑む。


「おめでとうございます。」


「これより、この都市フェルドは正式にあなたの領地となりました。」


 エマは目を輝かせる。


「お嬢様……本当に街が動き出しました!」


 しかし。


 アリアだけは違和感を覚えていた。


(何かが、おかしい。)


 契約は成功した。


 守護獣も救えた。


 なのに胸騒ぎが消えない。


 その時だった。


 都市の中央に浮かぶ巨大な水晶が突然赤く染まる。


 アストラの笑顔が消えた。


「……そんな。」


「どうしたの?」


 アストラは震える指で水晶を見つめる。


「外周警戒網に反応があります。」


「魔物?」


「違います。」


 水晶へ無数の赤い点が映し出される。


 その数は十。


 二十。


 三十――。


 いや、まだ増えていく。


「人間です。」


 ダリルが顔をしかめた。


「盗賊か?」


 アストラは首を横に振る。


「識別完了。」


「王国軍。」


「騎士団、およそ三千。」


 その場の空気が凍り付く。


 アリアは目を細める。


「……早すぎる。」


 婚約破棄からまだ数日。


 もう追手が来たというのか。


 さらにアストラは青ざめた表情のまま続けた。


「先頭には……」


 一瞬、言葉を詰まらせる。


「第一王子クロード。」


「そして――」


「聖女リシェがいます。」


 遺跡の外では、無数の松明が夜の森を赤く染め始めていた。


 王国軍三千。


 対するこちらは、まだ街を手に入れたばかり。


 戦うには、あまりにも戦力差がありすぎた。


 アリアは静かに拳を握る。


「ずいぶん早いご挨拶ね。」


 王国はもう、彼女を「悪役令嬢」ではなく、一人の脅威として動き始めていた。

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