第6話 目覚めた守護獣
第6話 目覚めた守護獣
ォォオオオオオオオッ!!
咆哮が地下遺跡を震わせる。
空気が揺れ、天井から砂や小石が降り注いだ。
アークは一歩前へ出ると、槍を構えた。
「敵性反応、接近。」
「距離三百メートル。」
「二百五十……二百……。」
その声に合わせるように、地響きが大きくなる。
ダリルは剣を抜き、アリアの前へ立った。
「お嬢様、私から離れないでください。」
エマも青ざめた表情で頷く。
しかし、アリアだけは落ち着いていた。
「アストラ。」
「はい。」
「目覚めたのは何?」
アストラは一瞬だけ視線を伏せる。
「この都市の最終防衛機構――《守護獣グランディア》です。」
「本来は都市を守る存在ですが、長い年月で制御を失っています。」
「つまり……。」
「現在は、すべてを敵と認識しています。」
その瞬間。
ドォォォン!!
奥の通路が吹き飛び、巨大な影が姿を現した。
全長は十メートルを超える。
漆黒の毛並みを持つ四足獣。
額には青く輝く巨大な魔石が埋め込まれ、黄金の瞳が侵入者を睨みつけていた。
「なっ……!」
ダリルの額から汗が流れる。
今まで数え切れないほどの魔物と戦ってきた。
だが、本能が告げている。
勝てない。
絶対に。
守護獣は一歩踏み出しただけで石畳を砕いた。
そして、一瞬で距離を詰める。
「速い!」
ダリルが剣を振るう。
ガキィィン!!
金属音が響き、剣は守護獣の爪によって簡単に弾き飛ばされた。
「ぐぁっ!」
ダリルは壁へ叩きつけられる。
「ダリル!」
エマが叫ぶ。
守護獣はそのままアリアへ向かって駆け出した。
あと数歩。
その爪が届けば終わりだった。
「アリア様!」
アストラが叫ぶ。
その瞬間だった。
アリアは逃げることなく、一歩前へ出る。
「止まりなさい。」
静かな声が遺跡へ響く。
右手の甲に刻まれた紋章が、黄金色に輝いた。
守護獣の身体がピタリと止まる。
爪先はアリアの目の前。
あと数センチで届く距離だった。
全員が息を呑む。
「なぜ……。」
ダリルが呟く。
守護獣は苦しそうに唸り始めた。
黄金の瞳と、禍々しい紅い瞳が何度も入れ替わる。
まるで二つの意思が争っているようだった。
「グルルルル……。」
アリアはゆっくりと手を伸ばす。
「あなたは人を傷つけたいんじゃない。」
「ずっと、この場所を守り続けてきたのでしょう?」
その言葉に反応するように、守護獣の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
しかし次の瞬間。
額の魔石が禍々しく赤黒く染まる。
バチバチッ!
黒い稲妻が走り、守護獣は苦しそうな咆哮を上げた。
「ガァァァァァァッ!」
アストラの表情が変わる。
「いけません!」
「封印の呪いが暴走しています!」
「このままでは守護獣は完全に暴走し、自壊します!」
「助ける方法は?」
アリアは即座に尋ねた。
アストラは一瞬だけ迷い、静かに答える。
「あります。」
「ですが、一度しか使えません。」
「何をすればいいの?」
「守護獣の心臓部にある《王核》へ直接触れ、契約を結び直してください。」
「成功すれば都市はあなたを主と認めます。」
「失敗すれば……。」
その続きを、アストラは口にできなかった。
代わりにアークが低い声で告げる。
「継承者様は命を落とします。」
沈黙が流れる。
エマは首を横に振った。
「駄目です!」
「そんな危険なこと……!」
ダリルも立ち上がり、血を流しながら叫ぶ。
「私が時間を稼ぎます!」
しかし、アリアは静かに笑った。
「ありがとう。」
「でも、ここは私が行くわ。」
そう言って守護獣へ向かって歩き出す。
一歩。
また一歩。
暴走する守護獣との距離が縮まっていく。
その時だった。
守護獣の背後、暗闇のさらに奥から、不気味な笑い声が響いた。
「ククク……。」
その場にいた全員の背筋が凍る。
アストラの顔から血の気が引いた。
「そんな……。」
「あり得ない……。」
アリアが振り返る。
「知っているの?」
アストラは震える声で呟いた。
「封印されていたはずです……。」
「都市を滅ぼした”あの男”が……まだ、生きています。」
暗闇の中で、一対の紫色の瞳がゆっくりと開いた。




