第12話 王国軍、崩壊
第12話 王国軍、崩壊
「第二段階――殲滅モードへ移行します。」
アストラの声が静かに響く。
三十基の防衛塔が一斉に青白い光を放ち始めた。
王国軍三千の兵士たちは、その光景に足を止める。
「殿下……!」
「まずいです!」
「これ以上進めば……!」
前線の騎士が叫ぶ。
しかし、クロードは怒りに支配されていた。
「構わん!」
「撃てるものなら撃ってみろ!」
その瞬間だった。
「発射。」
アストラが静かに告げる。
キィィィィン――。
三十本の光が夜空へ伸びる。
兵士たちは思わず目を閉じた。
だが。
ドォォォン!!
爆発したのは王国軍の頭上だった。
光は誰一人傷つけることなく、空で巨大な光の壁となって弾ける。
「……え?」
兵士たちがゆっくり目を開く。
自分たちは生きていた。
アリアは城壁の上から静かに告げる。
「これが最後の警告です。」
「私は王国軍を敵にするつもりはありません。」
「命令に従っているだけの兵士を傷つける気もありません。」
静かな声。
それなのに、戦場全体へはっきりと届いた。
「ですが。」
「次に一歩でも進めば、本当に撃ちます。」
沈黙。
最前列の兵士たちは顔を見合わせる。
誰も前へ進もうとしない。
その空気を壊したのは、クロードだった。
「怯えるな!」
「進め!」
だが、誰も動かない。
一人の老騎士がゆっくりと前へ出た。
「殿下。」
「何だ。」
「私は三十年、この国のために剣を振るってまいりました。」
「ですが……。」
老騎士は城壁の上のアリアを見つめる。
「今の攻撃で分かりました。」
「あの方は、本気で我々を殺す気がありません。」
「一方で、我々は命令一つで攻め込もうとしている。」
「私は、この戦いに正義を見いだせません。」
「貴様……。」
クロードの顔が引きつる。
老騎士は静かに剣を鞘へ納めた。
「私は戦いません。」
その一言をきっかけに、あちこちで武器を下ろす音が響く。
カラン。
カラン。
一人。
二人。
十人。
百人。
兵士たちは次々と槍や剣を地面へ置き始めた。
「馬鹿な……!」
クロードは目を見開く。
「命令だぞ!」
しかし、その時だった。
パンッ――。
乾いた拍手が戦場へ響く。
「実に見事です。」
黒衣の魔導師だった。
彼は笑いながら前へ歩き出る。
「人の心を掴む。」
「それこそが、あなたの本当の才能なのですね。」
アリアは目を細める。
「あなたの目的は何?」
「目的?」
男は空を見上げる。
「そんなもの、千年前から変わっていません。」
「世界を、あるべき姿へ戻すこと。」
次の瞬間。
男は右手を空へ掲げた。
黒い魔法陣が夜空いっぱいに広がる。
「何だ、あれは!」
兵士たちがざわめく。
アストラの顔色が一変した。
「いけません!」
「アリア様!」
「止めてください!」
「何をする気なの?」
アストラは震える声で叫ぶ。
「魔物を呼ぶつもりです!」
「それも……。」
「フェルド地方中の魔物を!」
男は笑みを浮かべたまま詠唱を終える。
「さあ。」
「見せてください。」
「あなたは三千人を救いますか?」
「それとも、自分の街を守りますか?」
その瞬間。
遠くの森から、無数の咆哮が響いた。
ォォォォォォォォッ!!
ガァァァァァッ!!
ドドドドドドッ!!
地面が震える。
森の奥から現れた赤い光は、一つや二つではない。
百。
千。
いや、数え切れない。
アストラが青ざめたまま呟く。
「魔物の大暴走……。」
「推定、一万体以上。」
王国軍三千。
フェルドの守備隊。
そのすべてを飲み込むほどの黒い津波が、夜の森から一斉に姿を現した。
そして黒衣の魔導師は、楽しそうに笑う。
「さあ、選びなさい。」
「救世主か。」
「それとも、悪役令嬢か。」
アリアは静かにその光景を見つめ、ゆっくりと右手を握り締めた。
その瞳には、一切の迷いはなかった。




