第11話 最初の警告
第11話 最初の警告
「――そこから先は、私の領地です。」
アリアの澄んだ声は、夜のフェルド平原によく響いた。
城壁の上から見下ろす彼女の姿に、王国軍は一瞬だけ言葉を失う。
第一王子クロードは眉をひそめた。
「……あれが、本当にアリアなのか。」
数日前まで王都で婚約破棄された令嬢。
そのはずだった。
だが今、彼女の背後には見たこともない巨大な城壁がそびえ立ち、無数の防衛塔が青白い光を放っている。
まるで、最初からそこに存在していた古代都市のようだった。
「報告しろ!」
クロードが叫ぶ。
偵察騎士が慌てて前へ出る。
「周囲を確認しましたが、城門は一つしかありません!」
「左右は切り立った崖、後方は深い森です!」
「攻めるなら正面突破しかありません!」
クロードは笑みを浮かべた。
「好都合だ。」
「所詮は辺境の小娘。」
「三千の軍勢を前にして、何ができる。」
その言葉を聞いた黒衣の魔導師だけが、小さく笑った。
「本当にそうでしょうか。」
「何?」
「いえ……。」
男はアリアを見つめる。
「あなたが、どこまで目覚めたのか……楽しみにしていますよ。」
◇◇◇
城壁の上。
ダリルは眼下に広がる王国軍を見て、思わず息をのんだ。
「すごい数だ……。」
平原を埋め尽くすほどの兵士。
槍兵。
弓兵。
騎兵。
さらに魔導師部隊まで控えている。
「お嬢様。」
「今なら、まだ話し合いという手もあります。」
しかしアリアは首を横に振った。
「向こうは話し合うために来たんじゃない。」
「私を捕らえるために来たのよ。」
その言葉に、誰も反論できなかった。
アストラが水晶へ手をかざす。
「防衛塔、全基起動完了。」
「魔力残量九十二%。」
「迎撃準備が整いました。」
守護獣グランディアも静かに立ち上がる。
『命令を。』
アリアはしばらく王国軍を見つめていた。
そして、小さく息を吐く。
「……まだ攻撃はしない。」
「え?」
ダリルが驚く。
「最初は警告だけで十分。」
◇◇◇
一方、王国軍。
「前進!」
クロードの号令で、先頭の騎士団がゆっくりと城壁へ向かい始める。
百メートル。
九十。
八十。
その瞬間だった。
アストラが静かに告げる。
「第一警戒線、突破。」
アリアは頷く。
「警告射撃。」
「了解。」
次の瞬間。
城壁に並ぶ防衛塔の一基が眩く輝いた。
キィィィン――。
甲高い音が夜空へ響く。
「何だ!?」
騎士たちが足を止める。
そして――
ドォォォォン!!
青白い光が王国軍のはるか前方へ着弾した。
爆音とともに土煙が舞い上がる。
地面には直径二十メートルを超える巨大な穴ができていた。
もし一歩でも前へ出ていたら、先頭部隊は跡形もなく消えていただろう。
兵士たちの顔から血の気が引く。
「な、なんだ今のは……。」
「魔法か……?」
「違う……!」
誰も見たことのない攻撃だった。
アリアは城壁の上から静かに告げる。
「ここから先は私の領地です。」
「これ以上進めば、次は外しません。」
静かな声。
だが、その言葉には絶対的な自信があった。
クロードは怒りで顔を真っ赤にする。
「たかが一発撃ったくらいで!」
「怯むな!」
「全軍、突撃せよ!」
その命令に兵士たちは戸惑った。
しかし王命には逆らえない。
再び前進を始める。
その様子を見たアリアは、悲しそうに目を閉じた。
「……そう。」
「なら、仕方ないわね。」
彼女は右手をゆっくりと上げる。
その動きに合わせるように、城壁に並ぶ三十基すべての防衛塔が一斉に輝き始めた。
アストラが静かに読み上げる。
「都市防衛機構。」
「第一段階を終了。」
「第二段階――殲滅モードへ移行します。」
夜空を埋め尽くすほどの青白い光が、一斉に王国軍へ照準を合わせた。
それを見た黒衣の魔導師だけが、不敵な笑みを浮かべる。
「ようやく始まりますか。」
「千年前の戦いの続きを。」




