50 大劫の終わり(4)
身勝手な言い分だった。結局、彼は、私のことを所有物扱いし、奪うことしか考えていないのだ。だが、今だにこれほど執着されていたとは、予想外だった。翰林は、この執着ぶりをずっと目の当たりにしてきたのだろう。恨みを募らせ、邪神となってしまったのも無理はない。
「翰林はどこへ行った。あの女、一体何をしでかした。良くなるどころか、俺をこんな所へ引きずり落とすとは」
私はアギスキを見下ろした。アギスキは、両足の膝から下が崩れてしまい、もう、立ち上がれなくなっていた。
「翰林は、呪詛返しの術法を行った。その呪詛は、おそらく、マヤの神域でトフィールが行った呪詛の呪詛返しだ。ただ、あの時、呪詛者の神名がまったく入っていなかった事を、あなたは知っていたのかな?」
「呪詛者の名がないだと?」
「大劫を起こせし大悪神よ、汝、記憶を取り戻せ。大劫の罪悪の重さに打ちひしがれ、永遠の業苦を味わうがよい。我は、我が命と引き替えに、汝に大劫の真実を思い出させ、永遠の業苦を与える」
私は、静かに、あの呪い文を復唱した。復唱するうちに目から勝手に涙が流れていた。
「あなたが、彼を唆したのだから、あなただって大悪神だよ。呪詛が返ってきたって、仕方ないんだ」
「・・・・・嘘だろ、そんな、あの馬鹿、なんて事を」
邪気がさらに侵食を進め、アギスキの体がさらに崩れた。
「あなたは、ここで消えてしまうか、ここの果実になるか、邪神に変わるしかないよ。自分で選ぶことだね」
「嫌だ、ワカ、助けてくれ、おまえの力なら、俺を救えるだろう、お願いだ、助けてくれ」
私は、胸から迫り上がってきた血を吐き出した。
「グホッ」口を押さえた、手のひらが真っ赤になった。マニバドラが、私の体を抱き上げ、「もう、それ以上は」と、私を止めようとした。
「もう、私にできる事は何もないよ。私は、今は、ただの人間なんだ。ちょっと無理したら、喀血するほど弱いんだ。もう、諦めてくれ」
私はアギスキを置き去りにし、上空で待つ黒龍の元へ帰った。私たちが出発しようとした所へ、入れ替わるように、女神がひとり降りてきた。
普段は結い上げてある髪が下ろされ、無数の蛇となって蠢いていた。
ヘルメスがそれを見て、
「うわっ、ステュクス女神の髪が解けている、あれが解けるのは、この世の終わりの時だって言われているのに」と囁いた。
ノラが、私たちへ
「あとは、私が見とどけますから、早く、下界へお帰りなさい」と声をかけてくれた。
私たちは、神の墓場を後にした。




