50 大劫の終わり(3)
黒龍は猛スピードで降下し、毘沙門天、ダーキニー、顯を横抱きしたマニバドラが飛び降りた。
時空を超えた衝撃で、猛烈な眩暈に襲われたが、無理に神気を流し込んで抑え込み、マニバドラに下ろしてもらった。
翰林は、もう術を作動させてしまった。太極球は、青白い光を発し脈動し始めていた。私に、陽の神気が十分備わっていれば、太極球の力を封じることができたが、それをするには、陽の神気がまったく足りなかった。邪神化しつつある翰林と、太極球の力の発動を止めるには、もう手段が一つしかなかった。
私は、首からぶら下げ隠し持っていた大天正覆蓋を天へ投げ上げた。
「開け、四方陣を覆い、包み込めっ」と、叫んだ。
大天正覆蓋が四方陣の真上で広がった。が、それより一瞬早く、太極球から光の筋が天空へ突き抜けていった。マニバドラがヘルメスへ突進し、四方陣から引き摺り出した。
「来てくれたんだ。もう、死ぬかと思ったよ」
ヘルメスにしては、珍しく弱気な発言だった。
大天正覆蓋が、四方陣に覆いかぶさり、翰林と太極球を包み込んだ。
「縮まれ、極小せよ」
私の命令に、大天正覆蓋はみるみる縮まり、最後は、ビー玉ほどの大きさとなり、邪神と化した翰林は、その中へ呑み込まれ、姿を消した。
ところが、天空に大音響とともに裂け目が現れ、そこから何かが、隕石のように急降下してきた。それは、先ほどまで四方陣のあった場所へ墜落した。マニバドラが障壁をつくり、私とダーキニーを守った。
もうもうと砂埃が舞い上がり、最初のうちは何も見えなかった。しばらくしてそれが落ち着くと、衝撃で大きな窪地となった中央あたりに、何かが蹲り、呻いていた。
「まさか・・・そんな、この為に太極球が必要だったのか?」
私は、ふらふらとそれへ近寄った。信じられなかった。邪気が、もう全身にまわっていた。変わり果てた彼が、私に気がついた。
「お、おまえは、ワカなのか?」
「アギスキ?」
黄金の髪こそ変わらなかったが、皮膚は爛れて、すっかり醜くなっていた。今上天帝は、太極球の力で、天界から引きずり堕とされてしまったのだ。
アギスキはよろよろと立ち上がり、私へ近寄った。
「ワカ、ワカなんだな?ははっ、おまえはやはり復活していたのか。大帝の血を直接受け継いだおまえは、やはり怪物だな・・・」
「アギスキ、太極渾天儀を開くように、彼を唆したのか?」
「今さら、そんな事を聞いてどうする?ああ、唆したとも、あいつは、馬鹿な単細胞だったからな、簡単に暗示にかかったよ」
「どうして、そんな事をしたんだ。そのせいで、常世国は、大劫で滅亡したんだぞっ」
「どうしてだと、俺の方こそ聞きたい。どうして、おまえは女神に生まれてこなかったんだ。女神でさえあってくれたら、そもそもこんな事にはならなかった。おまえを愛して、手元に置いて、俺は満足していただろう。大帝は、俺を差し置いて、おまえを日嗣の皇子に据えようともしなかったはずだ」




