50 大劫の終わり(5)
読み通してくださった方、本当にありがとうございました。今回で、完結です。
下界へ帰った。その後、ビー玉サイズに縮んだ大天正覆蓋を、毘沙門天に預けた。
私の体は、邪気を浴びすぎて、すっかり具合が悪くなり、一週間寝込んでしまった。律子さんからは、なぜか、今回は、大目玉を落とされることもなく、具合が良くなったら禊へいきなさいと言われただけだった。
天帝失踪の報に、大至急天界へ戻ったヤーマが、私の禊が終わった頃、飛竜頭山にふらりと戻ってきた。
その日、私は、ダーキニーと炬燵に入ってみかんを食べていた。そこへ、ヘルメスと一緒にやって来たヤーマが、大ニュースがあるのだと、興奮した面持ちで話しかけてきた。
「ワカミアヤ、凄いニュースです。何と、大帝が、閉関を解かれ、復位なさいました」
私は、みかんの筋をとりながら
「ふうん、そう、よかったね」と言った。
ヤーマは眉尻を下げ、私の顔をうかがった。
「あの、驚かれないのですか?」
私は、みかんを一つ、ダーキニーの口へ入れてやりながら
「どうせ、狸寝入りしていたんだろ。因果の決着がついたから、出てきたのさ」と言った。
ヘルメスが、炬燵の上の籠からみかんを一個とり、
「狸寝入りって、大帝に失礼だろ?」と眉をくいと上げて言った。
「失礼も何も、大帝が動いたら、因果が新たに発生してしまう。動くに、動けなかったと思うよ」
ヘルメスもヤーマも頷いた。けれど、ダーキニーは、口を尖らし
「それって、薄情なんじゃないの。ちょっとくらい助けてくれたっていいじゃないの」と、言った。
私はダーキニーを見て
「助けないことが、助けなんだろうね」と返した。私は、師父から薫陶を受けた者だから、彼の考えそうなことなら大体の所は理解できるつもりだ。
「色々と取り返しのつかない事が多かった。ただ、私にとっての大劫は、天帝となった彼との因縁を完全に断ち切らなければ、乗り越えることができなかった。私とアギスキの問題に留めておくために、大帝は敢えて閉関を選んだのだろうと思う」
私にとって、大帝は師父であり実の父親でもある。師父として尊敬する気持ちはあるが、親子の情は感じることがなかった。私が情を本当に理解したのは、顯の体に入ってからなのかもしれない。新たな情を知ったおかげで、無意識に引きずっていた情を断ち切れたのだから、私に誓の機会を与えてくれた顯の魂には、ただ感謝の念しかなかった。
ヤーマが、遠慮がちに切り出した。
「あの、もう一つお知らせがあります」
「何?」
「ワカミアヤへ、近々立太子の令が出るそうです」
「・・・・・何で?神体ないし、下界にいるのに」
「誓が終わり次第、天界へ上がるようにと仰せです。神体については、天界の方で何とかするそうです」
「・・・・・・・」
誓が終わったら、セノーテへ逃走しようと思った。もう、本当に勘弁してほしい。
(おわり)




