幕間31 ちよは、五人目の子が生まれる日を待つ
建久十年(1199年)、鎌倉。
頼朝が亡くなってから、季節が移っていた。
二階堂家の庭にも新しい葉が茂り、朝には鳥の声が聞こえるようになっていた。
直成さんは、以前と同じように仕事へ出かけていた。
広元と相談し、文書を確かめ、ときには帰りが遅くなる。
家へ戻れば、子どもたちの話を聞いた。
太郎が今日覚えたことを話せば耳を傾け、次郎が何かを壊せば一緒に見に行く。
まつが縫い物を見せれば褒め、三郎に呼ばれれば抱き上げる。
笑うことも増えた。
けれど、ときどき、話の途中で黙ることがあった。
誰かに尋ねようとして、もう、その人がいないことを思い出したように。
ちよは、そのたびに夫の顔を見た。
声をかける日もあれば、隣で待つ日もあった。
頼朝の死を悲しむ気持ちは、消えたわけではない。
それでも、夫は毎朝、仕事へ出かけていた。
そして最近、二階堂家には、以前にも増してよく訪ねてくる客がいた。
北条義時である。
* * *
その日も、義時は昼過ぎにやってきた。
「直成殿はおられるか」
ちよが出迎えると、義時はいつものように尋ねた。
「おります。今日は早く戻っておりますので」
「それはよかった」
「お仕事のお話ですか」
義時は少し考えた。
「……半分ほど」
ちよは首をかしげた。
「残りの半分は?」
「昼餉をいただければ」
奥から直成さんの声がした。
「義時殿。またですか」
「またとは何だ」
義時は、少し不満そうに答えた。
「鎌倉の先行きを案じて来たのだぞ」
「昨日も案じておられました」
「昨日より案じることが増えた」
直成さんは、困ったように笑った。
ちよは台所へ向かった。
どうやら、今日も一人分増やさなければならない。
* * *
義時が二階堂家に来るのは、今に始まったことではなかった。
頼朝が健在だったころから、仕事の帰りに立ち寄ることがあった。
直成さんと文書を広げ、何やら話し込んでいる。
話が長くなると、ちよが食事を出す。
子どもたちも、義時の顔を覚えていた。
ただ、最近は少し様子が違った。
以前は、頼朝から命じられた仕事の話が多かった。
今は、誰が何を決めるのかという話が増えていた。
ちよには、難しいことは分からない。
けれど、二人の声が以前より低くなったことには気づいていた。
その日も、食事が終わると、義時と直成さんは文書を広げた。
「頼家様は、お若い」
義時が言った。
「それは、仕方のないことです」
直成さんは答えた。
「僕たちにも、若いころはありました」
「直成殿は、今も若いだろう」
「義時殿もでしょう」
「そういう話ではない」
二人は少し笑った。
けれど、すぐに真顔へ戻った。
「頼家様は、ご自分で決めようとなさる」
義時が言った。
「鎌倉殿なのですから、当然のことでしょう」
「そうだ。だが、御家人たちにも、それぞれ考えがある」
直成さんはうなずいた。
「頼朝様は、そのことをよくご存じでした」
義時は、しばらく黙っていた。
「……あの方は、なぜ御家人たちが従うのかを、いつも考えておられた」
ちよは、少し離れたところで衣を畳んでいた。
その言葉に、手を止めた。
直成さんが、静かに答えた。
「従って当然だとは、思っておられませんでしたから」
* * *
「頼朝様は、武士たちの土地を守ろうとなさった」
直成さんが続けた。
「だから、御家人たちは鎌倉へ集まったのです」
義時はうなずいた。
「京の朝廷とも、争うばかりではなかった」
「ええ。鎌倉だけで何もかも決められるわけではありませんから」
直成さんは、広げた文書へ目を落とした。
「御家人たちの望みと、朝廷の考えと、鎌倉殿のお立場。その間で、頼朝様はずっと考えておられた」
義時は、腕を組んだ。
「危ういものだな」
「はい」
「一つ間違えば、御家人たちが離れる。京とも争いになる」
直成さんは、しばらく黙っていた。
「頼家様は、鎌倉があることを、当たり前だと思っておられるのかもしれません」
義時が顔を上げた。
「当たり前、か」
「頼家様がお生まれになったときには、もう頼朝様が鎌倉におられました」
直成さんは続けた。
「御家人たちが集まり、仕事が進み、京からも使いが来る。そういう鎌倉を見て育たれたのです」
義時は、何も言わなかった。
「でも、初めからそうだったわけではありません」
直成さんは、文書をそっと押さえた。
「頼朝様たちが、一つずつ積み上げてこられたものです」
義時は、ゆっくりうなずいた。
「知っておられるだろう。父上のご苦労も」
「ええ。知識としては」
直成さんは、少し考えた。
「ただ、失う怖さは、まだご存じないのかもしれません」
義時は、庭へ目を向けた。
そこでは、太郎が三郎の相手をしていた。
三郎は兄の後ろを追いかけ、何度も転びそうになっている。
「……子というものは、親が用意したものの中で育つからな」
義時が言った。
直成さんも庭を見た。
「そうですね」
「だから、親が何を苦労したか、知らぬまま育つ」
「ええ」
直成さんは、少し笑った。
「僕も、子どもたちに何を伝えればよいのか、考えなければなりません」
義時は、直成さんを見た。
「まだ早いのではないか」
「そうでしょうか」
「まずは、五人目が無事に生まれることを考えよ」
直成さんは、少し困った顔をした。
「……それも、ずっと考えております」
義時は笑った。
「ならば、今日はもう仕事をやめておけ」
* * *
義時が帰ったあと、ちよは夫のそばへ座った。
「直成さん」
「何だい、ちよさん」
「義時殿は、最近よくいらっしゃいますね」
直成さんはうなずいた。
「頼朝様が亡くなってから、考えることが増えたのでしょう」
「直成さんも、ですか」
「うん」
夫は、少し黙った。
「義時殿は、よく見ておられるんだ」
「何をですか」
「御家人たちが、何を考えているのかを」
直成さんは、庭へ目を向けた。
「頼朝様も、そこを大切になさっていた」
ちよは、夫の顔を見た。
「お二人は、似ていらっしゃるのですか」
直成さんは、少し笑った。
「性格は、あまり似ていないかな」
「そうでしょうね」
ちよも笑った。
頼朝と義時では、話し方も、振る舞いも違う。
けれど、夫は静かに続けた。
「何を守らなければならないか。そのことは、似ていると思う」
ちよは、もう一度夫を見た。
「だから、よくお話しになるのですね」
直成さんはうなずいた。
「義時殿とは、意見が違うこともあるけれど」
「ええ」
「同じものを守りたいと思っているのは、分かるんだ」
ちよは、その言葉を覚えておこうと思った。
* * *
翌朝、まつが小さな衣を広げていた。
三郎が生まれたときに使ったものだった。
「母上。これ、本当に三郎が着ていたの?」
「ええ」
まつは、庭にいる弟を見た。
三郎は、次郎の後ろについて歩いていた。
兄がしゃがむとしゃがみ、立つと立つ。
「いまは入らないね」
「大きくなりましたから」
まつは、小さな袖へ自分の指を入れた。
「今度の子も、こんなに小さいの?」
「生まれたばかりのころはね」
娘は、ちよの腹を見た。
それから衣を見た。
「では、早く直しておかないと」
袖の縫い目が、少しほつれていた。
ちよが手を伸ばすと、まつは衣を引き寄せた。
「私がやります」
「お願いできますか」
まつは、嬉しそうにうなずいた。
隣へ座り、針に糸を通そうとする。
なかなか通らなかった。
ちよは待っていたが、つい口を出した。
「もう少し、糸の先を——」
「分かっています」
娘の返事が早かった。
ちよは口を閉じた。
しばらくして、まつが顔を上げた。
「母上」
「はい」
「通していただけますか」
ちよは、針を受け取った。
糸を通して返すと、まつは小さく言った。
「縫うのは、私がします」
「ええ。お願いします」
ちよは笑った。
* * *
三郎が戻ってきた。
まつの手元をのぞき込み、衣をつかもうとする。
「待って。針があるの」
まつが手を遠ざけると、三郎はちよを見た。
「三郎の?」
「三郎が、小さいころに着ていた衣です」
三郎は、自分の袖を見た。
それから、小さな衣を見た。
「きる」
次郎が後ろから言った。
「もう入らないよ」
「はいる」
「手が出ないぞ」
三郎は、それでも袖へ手を伸ばした。
ちよは、その手を取った。
「今度生まれる子に、着てもらおうと思っているのです」
三郎は、ちよの腹を見た。
「ここ?」
「ええ」
「三郎の」
ちよは、もう一度衣を見た。
使えるものだから、次の子に使おう。
それだけを考えていた。
三郎がどう思うかは、尋ねていなかった。
「そうですね。三郎の衣でしたね」
弟の顔を見て、まつも縫う手を止めた。
ちよは尋ねた。
「小さくなった衣を、次の子にあげてもよいですか」
三郎は、すぐには答えなかった。
庭へ目を向け、それから、ちよの腹へ手を置いた。
「ちいさい?」
「三郎より、ずっと小さいです」
三郎は考えていた。
やがて、まつへ言った。
「あげる」
まつは、衣を少し持ち上げた。
「では、きれいにしておくね」
三郎はうなずいた。
次郎が、その頭をなでた。
「兄上になるんだな」
三郎は顔を上げた。
「兄上?」
「そう。今度は、お前も」
三郎は、次郎をじっと見た。
「ぼく?」
「そうだよ」
三郎は、しばらく考えていた。
それから、太郎のところへ走っていった。
「兄上!」
太郎が振り向いた。
「どうした」
「三郎も、兄上!」
太郎は、少し驚いた顔をした。
それから笑った。
「そうだな」
三郎は、満足そうにうなずいた。
ちよは、その様子を見ていた。
子どもたちは、こうして少しずつ、自分の役目を覚えていくのだろう。
* * *
昼過ぎ、産婆が訪ねてきた。
出産を手伝ってくれる、年配の女だった。
ちよの体の様子を聞き、家人と部屋の用意を確かめる。
その途中で、直成さんが帰ってきた。
いつもより早かった。
「広元殿が、今日はもう帰るようにと」
夫はそう言って、文書の包みを置いた。
産婆を見ると、そばへ来た。
「何か、足りないものはございますか」
「使う布を、こちらへ」
直成さんはうなずき、家人と一緒に取りに行った。
戻ってきた腕には、布が積まれていた。
ちよは夫を見た。
「あなた。それほど使いますか」
「足りないと困るから」
産婆が、上から一枚ずつ確かめた。
必要なものを取り分ける。
残りは、夫の腕へ戻された。
「こちらは、しまっておいてくだされ」
「承知しました」
直成さんは、来た方へ戻っていった。
まつが、その後ろ姿を見た。
「父上、半分も使わなかったね」
「用意してくださったので、助かりました」
ちよが言うと、産婆も笑った。
「ええ。あとは、お子たちを見ていただければ」
戻ってきた直成さんは、すぐにうなずいた。
庭では、三郎が次郎の枝を取り上げようとしていた。
夫は二人の間へ座った。
まず次郎に尋ね、それから三郎の話を聞いている。
産婆が戸を閉めるまで、ちよは、その様子を見ていた。
* * *
夕方、ちよはまつが縫った衣を手に取った。
縫い目は、少し曲がっていた。
それでも、ほつれたところはきちんと留まっている。
「どうでしょう」
娘が尋ねた。
「これなら、着てもらえます」
まつは、ほっとした顔をした。
直成さんも、横からのぞいた。
「まつが直したの?」
「はい」
「ありがとう」
まつは衣を受け取り、畳み直した。
夫は、それを見ていた。
ちよが尋ねた。
「何か、気になりますか」
「いや」
直成さんは首を振った。
「まつも、こんなに小さかったと思って」
娘が顔を上げた。
「私も?」
「うん」
「父上は、覚えているの?」
「抱いたときのことをね」
直成さんは、自分の腕へ目を落とした。
「泣かれると、どうすればいいか分からなくて」
次郎が、庭から入ってきた。
「三郎のときも、困ってたよ」
「そうだったね」
夫が笑うと、次郎も笑った。
まつは、畳んだ衣をそっと置いた。
「今度は、私もいます」
直成さんが娘を見た。
「泣いたら、呼んでください」
「ありがとう。でも、まつも眠っているときは、寝ていていいんだよ」
「起きていたらです」
娘は、そこをはっきりさせた。
直成さんはうなずいた。
「では、起きていたら、お願いします」
ちよは、二人を見ていた。
夫の顔が、さっきより柔らかくなっていた。
* * *
その夜、子どもたちが眠ってから、ちよは直成さんと二人で座った。
夫が、足元の敷物を直してくれた。
ちよは礼を言い、ゆっくり腰を下ろした。
「直成さん」
「何だい、ちよさん」
「今日、産婆に、少し怖いと申し上げました」
夫は、こちらを向いた。
「うん」
「四度産んでいても、やはり、近づくと気になります」
直成さんは黙って聞いていた。
ちよは、自分の腹へ手を置いた。
「今度も、無事に会いたいです」
夫の手が、ちよの手へ重なった。
「僕も」
短い返事だった。
しばらくして、直成さんが言った。
「何を用意すればよいか、考えてばかりいた」
ちよは昼間の布を思い出した。
「たくさん運んでくださいましたね」
「うん」
夫は、少し目を伏せた。
「何かしていれば、安心できると思って」
ちよは、その顔を見た。
「直成さんも、怖いのですね」
夫はうなずいた。
「ちよさんにも、子どもにも、無事でいてほしい」
握られた手に、力が入った。
ちよは、夫の指をなでた。
「怖いときは、そうおっしゃってください」
直成さんはこちらを見た。
「布を運んでいただくのも助かります。でも、私も、お話を聞きたいです」
夫の口元が、少し緩んだ。
「今日は、布が多かったね」
「ええ。産婆が困っていました」
二人で笑った。
笑ったあとも、直成さんは手を離さなかった。
* * *
「ちよさん」
しばらくして、夫が呼んだ。
「はい」
「今日、義時殿と話していて、考えたんだ」
ちよは、夫の顔を見た。
「何をですか」
「頼朝様は、鎌倉を残してくださった」
直成さんは、少し黙った。
「でも、鎌倉がどうして必要だったのか。そのことまで、残せたのだろうかって」
ちよは、昼間の会話を思い出した。
「頼家様のことですか」
「うん」
「頼家様は、頼朝様の子だ。鎌倉殿のお立場を継がれた」
「ええ」
「でも、頼朝様が何を心配し、何を守ろうとしていたのか。それを同じように考えておられるかは、分からない」
ちよは、夫の手を握った。
「義時殿は、分かっていらっしゃるのですか」
直成さんは、少し考えた。
「全部ではないと思う」
夫は、静かに続けた。
「でも、何が危ういのかを、考えておられる」
ちよはうなずいた。
「だから、直成さんとお話しになるのですね」
「うん」
直成さんは、少し笑った。
「義時殿は、厳しいことを言われることもあるけれど」
「ええ」
「頼朝様がつくられたものを、守りたいと思っておられるのは分かるんだ」
ちよは、夫の顔を見た。
「直成さんも、同じですね」
夫は、すぐには答えなかった。
それから、ゆっくりうなずいた。
「そうだね」
* * *
腹の中で、子が動いた。
ちよは息を止め、それから夫を見た。
「今、動きました」
直成さんの目が、腹へ向いた。
「触ってもいい?」
「どうぞ」
夫の手を、動いたところへ添える。
二人で待った。
しばらく、何も起こらなかった。
直成さんは、じっと手元を見ていた。
「僕が来ると、やめてしまうね」
「昼間も、三郎が触ると静かでした」
「似ているのかな」
「まだ分かりませんよ」
夫が笑った。
そのとき、腹の内側から押される感じがした。
直成さんの手が止まった。
「今?」
「ええ」
夫は、顔を上げた。
驚いたような、確かめたいような顔だった。
「もう一度、動くかな」
ちよはうなずいた。
「少し、待ってみましょう」
直成さんは、手を置いたまま座っていた。
仕事の話をするときとも、頼朝を思い出すときとも違う顔だった。
ちよも急かさずに待った。
やがて、もう一度動いた。
夫が笑った。
今度は、ちよに促されて笑ったのではなかった。
自分から腹へ顔を近づけ、もう一度、手の場所を確かめていた。
ちよは、その横顔を見ていた。
* * *
「どんな声で泣くのだろうね」
直成さんが言った。
ちよは、夫を見た。
「大きな声かもしれません」
「三郎より?」
「三郎も、初めは大きな声でした」
「そうだったね」
夫は、少し笑った。
「三郎が驚きそうだ」
「自分の声も大きいのですけれど」
直成さんはうなずいた。
それから、また腹へ目を向けた。
「早く、会いたいな」
ちよは、その言葉を聞いていた。
返事をしようとして、喉が詰まった。
夫が顔を上げる。
「ちよさん?」
ちよは首を振り、笑った。
「私もです」
頼朝が亡くなってから、直成さんが明日の話をするときには、仕事や心配が先にあった。
今は、生まれてくる子の声を聞きたがっている。
ちよは、夫の手へ自分の手を重ねた。
直成さんは、もう一度、腹の中の子が動くのを待っていた。
* * *
翌朝、三郎がちよのそばへ来た。
「まだ?」
「まだです」
三郎は、少し残念そうだった。
そこへまつが、小さな衣を持ってきた。
「もう、着るものはできています」
次郎も言った。
「父上も、帰ってくるんでしょう」
直成さんは、出かける支度をしながら答えた。
「知らせてもらったら、帰るよ」
太郎が、三郎の肩へ手を置いた。
「それまでは、俺たちと待とう」
三郎は、兄たちを見た。
まつを見て、直成さんを見て、最後にちよの腹を見た。
「みんな?」
「ええ」
ちよが答えると、三郎は腹へ顔を近づけた。
「みんな、いる」
直成さんが、支度の手を止めた。
ちよも、三郎を見ていた。
弟は、それだけ言うと、太郎の手を取った。
朝餉の方へ歩いていく。
次郎とまつが、そのあとを追った。
直成さんは、ちよのそばへ来た。
「何かあったら、すぐに知らせて」
「はい」
夫は、ちよの腹へそっと手を置いた。
「待っているよ」
声をかけてから、立ち上がる。
ちよは、その顔を見上げた。
直成さんは笑っていた。
「では、行ってくる」
「行っていらっしゃいませ」
夫を送り出してから、ちよは自分の腹へ手を当てた。
中の子は、今は静かだった。
奥から、三郎がちよを呼んだ。
まつの声もする。
ちよは返事をして、ゆっくり立ち上がった。
夫が何を子どもたちに残せるのか。
その答えは、まだ分からない。
けれど、太郎が三郎の手を取り、まつが小さな衣を直し、次郎が弟に兄の役目を教えている。
父が何かを教えようとしなくても、子どもたちは、父と母のしてきたことを見て育っている。
ちよは、そっと腹をなでた。
もうすぐ、ここにもう一人加わる。
「みんな、待っていますよ」
小さく声をかけると、腹の中で子が動いた。
ちよは笑った。




