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二階堂一族、鎌倉時代を賑やかに生きる。――亡き父親は転移者!  作者: これってなんだろう
第五部 父を知る人たちと、新しく増える家族 建保二年〜建保六年(1214〜1218年)
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第47話 ちよは、京から届いた孫の知らせを読む

建保二年(1214年)、鎌倉。


京から文が届いた。


「母上」


最初に見つけたのは、あやだった。


「まつ姉上からです」


ちよは、持っていた布を置いた。


「まつから?」


「はい」


あやが文を差し出す。


ちよは受け取った。


すぐには開かなかった。


表を見た。


裏を見た。


もう一度、表を見る。


「あや」


「はい」


「みんなを呼んでください」


あやの顔が変わった。


「もしかして」


「まだ読んでいません」


「でも、まつ姉上からですよね」


「そうですよ」


「この前の文の続きかもしれません」


ちよは、あやを見た。


「だから、まだ読んでいません」


「呼んできます!」


あやは走っていった。


「走らなくても――」


言い終わる前に、もういなかった。


ちよは文を見た。


前の文で、まつは子どもができたかもしれないと知らせてきた。


それから、京との間で何度か文を交わした。


母になるのが怖い。


何をすればいいか分からない。


そんなことも書いてあった。


ちよは、自分が初めて子を産んだころのことを思い出しながら返事を書いた。


怖かったこと。


分からないことばかりだったこと。


自分の母にも何度も助けてもらったこと。


そして、直成さんも何も分からないまま父になったこと。


一人で母になろうとしなくていい。


そう書いた。


その返事を読んだまつが、どう思ったのか。


今、手の中にある文に書いてあるのかもしれない。


「母上!」


足音がした。


あやが戻ってきた。


一人ではない。


「みんな来ました!」


宗直が入ってきた。


その後ろから、ふみ。


光成とおりん。


行嗣もいる。


それだけではなかった。


忠太、たか、小次郎。


与一と梅までいる。


ちよは一同を見た。


「本当にみんな呼んだのですね」


「母上が、みんなを呼べと」


「言いましたけど」


宗直が文を見た。


「まつからですか」


「ええ」


光成が聞いた。


「生まれた?」


「まだ読んでいません」


「では、早く読もう」


「兄上」


行嗣が言った。


「文というものは、届いたからといって必ずしも子どもの知らせとは限りません」


「分かってる」


「前の文との間隔を考えると――」


「行嗣」


宗直が止めた。


「はい」


「今は計算しなくていい」


「計算ではありません。確認です」


「どちらでもいい」


あやが座った。


「母上、早く」


「あなたが一番落ち着きなさい」


「落ち着いています」


「膝が動いていますよ」


あやが自分の膝を押さえた。


大人たちが座ると、


子どもたちもその近くへ集まった。


何が始まるのか分かっている子もいれば、


みんなが集まったから来ただけの子もいる。


ちよは、ようやく文を開いた。


まつの字だった。


最初の一行を読む。


ちよの手が止まった。


「母上?」


あやが聞いた。


ちよはもう一度、その一行を読んだ。


そして顔を上げた。


「生まれました」


一瞬、静かになった。


「本当ですか!」


あやが立ち上がった。


「座りなさい」


「男ですか、女ですか」


「まだそこまで読んでいません」


「早く読んでください」


「だから座りなさい」


あやが座った。


ちよは続きを読んだ。


「男の子です」


今度は光成が声を上げた。


「おお」


宗直も笑った。


「そうか」


ふみとおりんは顔を見合わせた。


「まつ、無事なんですね」


ふみが聞いた。


ちよは文を追った。


「ええ。まつも元気です」


ふみがほっと息を吐いた。


おりんもうなずいた。


「よかった」


行嗣が聞いた。


「名前は?」


ちよは少し先を読んだ。


「千寿丸」


「千寿丸」


宗直が繰り返した。


あやも言った。


「千寿丸」


光成も言った。


「千寿丸か」


忠太たちも、その名を聞いている。


遠い京に、


自分たちと同じ家族につながる子が生まれた。


まだ顔も見たことがない。


声も聞いたことがない。


けれど、


名前を知っただけで少し近くなった気がした。


「母上」


あやが言った。


「また孫が増えましたね」


ちよは笑った。


「そうですね」


すでに孫の顔は、毎日のように見ている。


忠太も、たかも、小次郎も。


与一も、梅も。


けれど、今度の孫は京にいる。


すぐに抱きに行ける距離ではない。


「遠いですね」


ちよがつぶやいた。


あやが首をかしげた。


「京がですか」


「ええ」


ちよは文を見た。


孫が生まれた。


それなのに、顔を見ることもできない。


うれしいのに、


少しだけ寂しい。


その二つは、一緒にあってもいいのだろう。


「でも、文は届きます」


あやが言った。


ちよは娘を見た。


「そうですね」


「まつ姉上も帰ってきます」


「そうですね」


「千寿丸も連れて」


「それは、まつたちが決めることですよ」


「はい」


あやは素直に答えた。


少し間を置いて、


「でも、来てほしいです」


「それは母も同じです」


忠太が聞いた。


「千寿丸は、俺たちの何になるの?」


宗直が答えようとした。


その前に行嗣が口を開いた。


「いとこです」


「いとこ?」


「お前たちの父である宗直兄上と、まつ姉上はきょうだいです。だから、その子ども同士は――」


光成が言った。


「行嗣」


「はい」


「そこまで説明しなくても、いとこでいいだろう」


行嗣は少し考えた。


「そうですね」


あやが笑った。


「行嗣兄上、短く説明できましたね」


「私だってできます」


「今、光成兄上に止められましたけど」


行嗣は黙った。


子どもたちが笑った。


ちよはまた文に目を落とした。


まつは出産のことを、思ったより細かく書いていた。


とても疲れたこと。


生まれた子が、思っていたよりずっと小さかったこと。


初めて抱いたとき、どう持てばいいのか分からなかったこと。


かやに教えてもらったこと。


よしがそばにいてくれたこと。


そして――


ちよの目が止まった。


「どうしました?」


ふみが聞いた。


「いえ」


ちよは続きを読んだ。


季成も、初めて千寿丸を抱くとき、


どうやって抱けばいいのか分からなかったらしい。


ちよは少し笑った。


「何と書いてあるんです?」


宗直が聞いた。


「季成殿も、千寿丸を抱くのが怖かったそうです」


光成が笑った。


「分かる気がする」


おりんが光成を見た。


「あなたも最初はそうでしたね」


光成の顔が止まった。


「そうだったか?」


「与一を抱くとき、ずっと私に『これでいいのか』と聞いていました」


「……そうだったかもしれない」


今度は宗直が笑った。


ふみが宗直を見る。


「あなたもですよ」


宗直の笑いが止まった。


「俺も?」


「忠太を抱いたとき」


「覚えていない」


「私は覚えています」


あやが兄二人を見比べた。


「みんな同じですね」


「最初はな」


宗直が言った。


ちよも笑った。


直成さんもそうだった。


初めての子を抱くとき、


ずいぶん慎重な顔をしていた。


父親になるというのは、


誰にとっても最初は初めてなのだ。


あやが身を乗り出した。


「それだけですか?」


ちよは、あやを見た。


「何がです?」


「季成さまのことです」


「ほかにも書いてありますよ」


あやの目が輝いた。


「読んでください」


「あなたは何を期待しているのですか」


「何も」


「その顔で言われても信じられません」


あやは、にこにこしていた。


何か言いたそうな顔だった。


ちよには分かった。


前の文を読んだときから、


この末娘は姉夫婦の様子をよく見ている。


面白がっているところもある。


でも、それだけではない。


まつが京で幸せに暮らしていることが、


うれしいのだ。


ちよは文を読み進めた。


「季成殿が――」


あやが待っている。


「『私も初めて父になります。まつ殿だけに、先に母になってもらうわけにはいきません』と言ったそうです」


あやの笑顔が大きくなった。


ふみが、


「あら」


と言った。


おりんもうなずいた。


ちよも、うなずいた。


三人とも、何となく分かったような顔をした。


宗直が周囲を見た。


「何が?」


光成も聞いた。


「何かおかしいか?」


行嗣は考えている。


「内容としては、父親として子育てに関わる意思を示したものだと思いますが」


あやが兄たちを見た。


「違います」


「何が違うんだ」


宗直が聞いた。


あやは答えず、ちよを見た。


「そのあと、まつ姉上は?」


ちよは続きを探した。


そして、


少し笑った。


「『そういうことを急に言わないでください』と」


あやが両手を合わせた。


「やっぱり!」


宗直が驚いた。


「何が?」


「ほら!」


「何が、ほらなんだ」


「前の文と同じです」


光成が首をかしげる。


「怒っているんじゃないのか?」


「違います」


「でも怒ってるだろ」


「先に赤くなったはずです」


行嗣が聞いた。


「文にはそう書いてあるのか?」


「書いてなくても分かります」


「なぜ?」


あやは、にこにこした。


「まつ姉上ですから」


宗直、光成、行嗣の三人は黙った。


ふみ、おりん、ちよはうなずいた。


宗直が首を振った。


「やっぱり分からん」


「兄上たちには分からなくていいんです」


あやは満足そうだった。


ちよは文に戻った。


最後の方には、


まつらしい言葉が並んでいた。


千寿丸はよく泣く。


季成は泣くたびに理由を考える。


考えても分からないと、すぐによしに聞く。


かやには、二人とも最初から何でも分かるつもりだったのか、と笑われた。


そして。


――母上。


――あのときの返事の意味が、少し分かりました。


ちよの目が止まった。


――私は、子どもが生まれたら、その日から母になるのだと思っていました。


――でも、まだ分からないことばかりです。


――季成さまも、分からないことばかりです。


――二人で覚えていこうと思います。


ちよは、しばらく黙っていた。


「母上?」


あやが呼んだ。


「なんでもありません」


ちよは続きを読んだ。


――それから、母上。


――父上も、本当にこんなふうだったのですか。


ちよは笑った。


「何です?」


あやが聞いた。


「まつが、お父上も本当にこんなふうだったのか、と聞いています」


「どんなふうです?」


「初めての子を前にして、何も分からなかったのか、と」


宗直がちよを見た。


光成も。


行嗣も。


あやも。


ちよは少し考えた。


宗直が生まれたころの直成さんを思い出した。


赤子の抱き方が分からない。


泣く理由も分からない。


それでも、自分の子なのだからと抱いた。


夜中に泣けば起きた。


濡れていれば着物や布を替えた。


ちよの母に、変わった人だと言われても、


本人には何が変なのか分かっていなかった。


「ええ」


ちよは言った。


「何も分かっていませんでしたよ」


宗直が目を丸くした。


「父上が?」


「あなたを初めて抱いたときなんて、ひどいものでした」


「覚えていません」


「覚えていたら怖いですよ」


光成が笑った。


あやが聞いた。


「父上も怖がったんですか」


「怖がっていました」


「それでも抱いたんですね」


「自分の子だから、と」


あやは笑った。


「季成さまと少し似ていますね」


ちよは、すぐには答えなかった。


直成さんと季成は違う人だ。


生きた場所も違う。


考え方も違う。


けれど、


似ているところはあるのかもしれない。


「そうですね」


ちよは言った。


「少しだけ」


宗直が文を見た。


「返事を書くんでしょう」


「もちろんです」


「俺も書く」


光成も言った。


「俺も」


行嗣もうなずいた。


「私も書きます」


あやが手を挙げた。


「私も!」


ふみとおりんも笑った。


「では、私たちも」


忠太たちも声を上げた。


「俺も!」


「私も!」


ちよは全員を見た。


「そんなに送ったら、まつが読むだけで疲れますよ」


一同が止まった。


「一つにまとめるか」


宗直が言った。


「それがいいでしょう」


行嗣が答えた。


「では、誰が書く?」


光成が聞く。


全員の目が行嗣へ向いた。


「……私ですか」


「一番字を書くのが好きだろ」


「好きだから書いているわけではありません」


「でも書くだろ」


「書きますが」


あやが言った。


「行嗣兄上が書いて、みんなで言うんです」


「分かりました」


行嗣は紙を用意した。


宗直が最初に言った。


「まつと千寿丸が無事でよかった」


行嗣が書く。


光成が続けた。


「今度、鎌倉へ来たら抱かせてくれ」


「いつ来られるか分かりませんよ」


「いいから書け」


ふみとおりんも祝いの言葉を伝えた。


忠太たちからは、


「千寿丸に会いたい」


「一緒に遊びたい」


という声が次々に出た。


「まだ遊べないでしょう」


行嗣が言った。


「大きくなったらだよ」


忠太が答える。


「それなら、そう書きます」


行嗣は律儀に書き直した。


そして、あやの番になった。


あやは少し考えた。


「まつ姉上へ」


「はい」


行嗣が筆を構える。


「千寿丸に会える日を楽しみにしています」


「はい」


「それから」


あやは、にこにこした。


何か言いたそうな顔だった。


「季成さまにも、よろしくお伝えください」


行嗣が筆を止めた。


「それだけか?」


「はい」


「普通だな」


「普通ですよ」


宗直があやを見た。


「本当に?」


「もちろんです」


ちよには分かった。


これは、何かある。


けれど、聞かないことにした。


いつかまつが鎌倉へ帰ってきたとき、


この末娘はきっと、


今と同じ顔で姉を見るのだろう。


にこにこしながら、


何か言いたそうな顔で。


そして、まつはきっと、


「何よ」


と言う。


その日を想像すると、


ちよまで少し笑ってしまった。


最後に、ちよが言った。


「まつへ。おめでとう」


行嗣が書く。


「千寿丸が生まれたことも、もちろんうれしいです」


行嗣の筆が進む。


「でも、それ以上に」


ちよは少し考えた。


「あなたが、一人で母になろうとしていないことに安心しました」


行嗣が書き終える。


「以上ですか」


「ええ」


ちよは、もう一度まつの文を見た。


鎌倉には、


忠太も、たかも、小次郎もいる。


与一も、梅もいる。


孫が増えることそのものは、初めてではない。


それでも、


千寿丸は千寿丸だった。


京にいるから代わりになるわけでもない。


遠くにいるから家族ではなくなるわけでもない。


会ったことのない小さな孫が、


今日から確かに、この家の話の中へ入ってきた。


忠太が聞いた。


「千寿丸、いつ鎌倉に来るかな」


「さあ」


ちよは笑った。


「それは、まつたちに聞いてみないと分かりませんね」


「来たら、家を見せてやる」


「何を?」


「全部」


「全部は多いんじゃない?」


たかが言った。


「じゃあ、庭から」


「まだ赤ちゃんですよ」


行嗣がまた言った。


「大きくなってから!」


部屋に笑い声が広がった。


ちよは、その声を聞きながら文をたたんだ。


京にいる孫は、まだ抱けない。


けれど、


帰ってくる場所なら、


ここにある。

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