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二階堂一族、鎌倉時代を賑やかに生きる。――亡き父親は転移者!  作者: これってなんだろう
第三部 三郎の元服と、まつの縁談――承元四年〜建暦元年(1210〜1211年)
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幕間7 ちよは、夫の客が増える理由を知る

元暦元年(1184年)、鎌倉。


二階堂家の椀は増えた。


それでも、足りない日があった。


最初は、仕事の相談だった。

広元、康信、親能が紙を持ってくる。直成さんと話す。話が済むと、夕餉を食べて帰る。


そのうち、紙の代わりに魚や野菜を持ってくる日が増えた。


二人きりの朝、ちよは夫に聞いた。


「直成さん。今日は誰か来ます?」

「今のところ、聞いていません」

「では、今日は二人ですね」

「そうですね」


直成さんが笑う。


その顔を見て、ちよは夕餉を少し楽しみにした。


     ◇


夕方、直成さんは一人で帰ってきた。


ちよは戸口から外を見た。


誰もいない。


「何かありました?」

「いえ。後ろにも、誰もいないなと思って」


直成さんが笑いかけた、そのときだった。


戸を叩く音がした。


二人で戸を見る。


外に立っていたのは、北条時政と、その子の義時だった。


「近くまで来たのでな」


時政はそう言って、包みを持ち上げた。


「魚だ」


隣で義時が頭を下げる。


「突然うかがって、申し訳ありません」


ちよは二人を見比べた。


父はもう、家の中をのぞいている。

息子は、まだ戸口で待っている。


「どうぞ」


ちよが言うと、時政は笑った。


「そうか。では遠慮なく」


義時が小さく息をついた。


     ◇


時政は座ると、さっそく直成さんへ話しかけた。


初めは土地や人の話だった。

ちよには分からないことも多かったけれど、直成さんがすぐに答えないことだけは分かった。


「甲斐の者は、どうだ」

「どなたのことでしょう」

「大きく聞けば、そうなるか」


時政が笑う。


「直成殿は、うまい話を持っていっても、すぐには喜ばんからな」

「確かめずに喜んで、違っていたら困ります」

「そういうところだ」


時政は指を折った。


「聞いた話を、すぐ外でしゃべらん。分からんところは分からんと言う。最後には、婿殿が使える形にして返す」


婿殿というのは、娘の政子の夫である鎌倉殿のことらしい。


「自分のところで話を止めんのだ」


時政が直成さんを見る。


「使いやすい男だ」

「父上」


義時が口を挟んだ。


「言い方が」

「では、頼りになる」

「最初から、そう言えばよいでしょう」


ちよは思わず笑った。


直成さんは少し困った顔をしていたけれど、ちよはうれしかった。


家では紙の置き場所を気にし、戸を二度確かめる人だ。

外では、その細かさを頼りにされているらしい。


「それで、嫁を取ったと聞いてな」


時政がちよへ目を向けた。


「どんな奥方なのか、一度見てみたかった」

「そちらが用向きだったのですか」

「半分はな」


ちよが直成さんを見ると、夫もこちらを見ていた。


二人で困っていると、時政がますます面白そうに笑った。


     ◇


夕餉の間、義時はよく周りを見ていた。


時政の椀が空けば気づく。

直成さんが話し始めると、父へ向けていた顔を戻す。

ちよが料理を運ぶと、何も言わずに足を引いて道を空ける。


しばらくして、ちよは聞いた。


「義時殿。疲れませんか」

「何がでしょう」

「ずっと、皆さんを見ていらっしゃるので」


時政が大きく笑った。


「ほら、分かる者には分かる」

「父上が、先に動かれるからです」

「動かねば始まらん」

「そのあとを見ている者も必要でしょう」


父と息子は、ずいぶん違って見える。

けれど、このやり取りは慣れたものらしかった。


ちよは義時の前へ湯を置いた。


「おかわりでしたら、言ってくださいね」

「ありがとうございます」

「こちらが気づくまで、待たなくていいですから」


義時が顔を上げた。


ちよが笑うと、義時も少し笑った。


「では、もう少しいただいても」

「どうぞ」


時政が自分の椀も出した。


「わしもだ」

「父上は、言わなくても出されるでしょう」


結局、その日は二人とも長居した。


     ◇


それからは、北条親子だけではなくなった。


ある日は、和田義盛が大きな包みを抱えて来た。


「肉だ。皆で食おう」


後ろから三浦義澄が言った。


「人の家を、勝手に皆へ入れるな」

「叔父上も来たではないか」

「お前が誘ったのだろう」


さらに後ろには、梶原景時がいた。


こちらは紙を持っている。


ちよは少し安心した。


「景時殿は、お仕事ですか」

「そのつもりでした」


景時が義盛を見る。


「途中から、夕餉の話になりました」


義盛はもう包みを開けていた。


仕事が始まると、景時と直成さんはよく話した。


誰が見たのか。

いつ聞いたのか。

その話を、誰へ伝えるのか。


景時が尋ね、直成さんが紙を見直す。

直成さんが聞き返すと、景時も考える。


義盛が途中で口を挟んだ。


「まだ飯にならんのか」

「間違えた話を持っていくよりよい」


景時が答える。


直成さんもうなずいた。


義盛が義澄を見る。


「似た者同士だ」

「だから二人で確かめるのだろう」


義澄の短い言葉に、義盛は口を閉じた。


ただし、長くは続かなかった。


     ◇


畠山重忠は、戸口できちんと止まった。


「突然うかがって、申し訳ありません」


手には野菜があった。


「いただきものですが、よろしければ」


ちよが受け取ると、先に来ていた義盛が横から言った。


「固いな、お前は」

「人の家だ」

「俺も人の家だぞ」

「だから、少し遠慮しろ」


義盛がちよを見る。


「俺は遠慮していないか」

「初めてのときよりは」


重忠が口元を緩めた。


直成さんも笑った。


義盛は少し考え、それから自分でも笑い出した。


賑やかな人たちだった。


けれど、皆同じではない。


時政が先に話を動かせば、義時が周りを見る。

景時が言葉を問い直し、義澄が短く収める。

義盛はよく笑い、重いものがあれば先に手を出す。

重忠は、話の途中でも「それで困る者はいないか」と一度止める。


ちよは飯を運びながら、その違いを少しずつ覚えていった。


     ◇


ある晩、皆がそろった。


椀を置く場所を空けてもらいながら、ちよは、ふと気になったことを口にした。


「皆さんは、どうして鎌倉殿についていかれたのですか」


部屋が少し静かになった。


時政が先に笑う。


「奥方は、急に大きなことを聞くな」

「皆さん、考え方がずいぶん違うので」


同じ話をしていても、言い合いになる。

それなのに、同じ人のもとで働いている。


時政は手元の椀を置いた。


「わしは舅だからな」

「それだけですか」


時政の笑い方が、少し変わった。


「それだけなら、石橋山で終わっていたかもしれん」


ちよは黙った。


「外せば、家ごと潰れた。だが、あの人なら何かを変えるかもしれんと思った」

「分かっていたのですか」

「分からん。だから、賭けたのだ」


義澄が静かにうなずいた。


「我らも、初めから先が見えていたわけではない」


義盛が頭をかいた。


「俺は、そこまで難しく考えてはいなかったな」

「少しは考えろ」


義澄が言うと、笑いが戻った。


景時が口を開く。


「鎌倉殿は、自分と同じ考えの者だけを近くへ置く方ではありません」


時政が笑った。


「そうでなければ、わしと景時が同じところにはおらん」

「父上と姉上も、ずいぶん違います」


義時が言った。


「余計なことを言うな」


また、皆が笑った。


ちよは直成さんを見た。


「あなたも、そうなのですか」


直成さんは少し考えた。


「僕は、広元殿に仕事をいただきました。鎌倉殿にも、できることを任せていただいています」

「それで、こちらへ?」

「ええ。僕の知っていることが、役に立つかもしれないと思って」


大きなことを言う声ではなかった。


けれど、時政は何も笑わなかった。

景時も、黙って聞いていた。


ちよはもう一度、座敷を見回した。


よく食べ、よく笑い、くだらないことで言い合う人たちだ。


その人たちにも、先の分からないまま決めた日があったのだと、初めて思った。


     ◇


皆を送り出し、戸を閉める。


二人だけになってから、ちよは並んだ椀を見た。


「直成さん」

「うん」

「最初は、直成さんを見に来たのかもしれませんね」

「僕を?」

「どんな人なのか、信用してよいのか」


直成さんは少し考えた。


「そういうことも、あったかもしれません」

「それで分かったなら、来なくなると思うでしょう」

「……そうですね」


ちよが椀を指す。


「どうして増えるんでしょうね」


直成さんも椀を見た。


「居心地がよいのかもしれません」

「皆さんにとって?」

「ちよさんには?」


聞き返され、ちよは少し考えた。


「賑やかで、面白いです」

「それなら、よかった」

「でも、二人の日も欲しいです」


直成さんがうなずきかけた、そのときだった。


戸を叩く音がした。


二人の目が、同時に戸へ向く。


今度は、使いの者だった。


「鎌倉殿より。明日、お越しいただきたいとのことです」

「承知しました」


直成さんが答える。


使いはさらに続けた。


「奥方も、ご一緒に」


ちよは動かなかった。


使いが帰り、戸が閉まってから、夫を見る。


「直成さん。どうして私まで?」


直成さんは、本気で考え始めた。


その顔を見て、ちよは思った。


どうやら、家へ来る客の数だけを気にしていればよいわけでは、なくなったらしい。

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