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二階堂一族、鎌倉時代を賑やかに生きる。――亡き父親は転移者!  作者: これってなんだろう
第三部 三郎の元服と、まつの縁談――承元四年〜建暦元年(1210〜1211年)
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幕間6 ちよは、新婚生活を満喫できない

元暦元年(1184年)、鎌倉。


夫婦になってから、まだそれほど日がたっていなかった。


朝になれば直成さんが仕事へ出て、夕方になれば帰ってくる。二人で飯を食べ、その日にあったことを話す。戸を閉めれば、あとは二人だけ。


ちよは、新婚の暮らしをそんなふうに思い描いていた。


最初のうちは、確かにそうだった。


けれど、ある日の夕方。

夕餉の支度をしていると、戸が叩かれた。


直成さんが顔を上げる。


「誰でしょう」

「誰か来る約束でした?」

「いいえ」


戸口に立っていたのは、三善康信だった。


「直成殿。少し確かめたいことがある」


直成さんは支度中の膳を見てから、ちよへ目を向けた。


ちよはうなずく。


「どうぞ。まだ少しかかりますから」


このときは、本当に少しで済むのだと思っていた。


     ◇


「その話は、本人から聞いたのですか」


直成さんが尋ねると、康信は首を振った。


「本人から聞いたという者がいる」

「では、その者に、いつ聞いたのかを確かめないといけませんね」

「誰へ聞けばよいか、それを相談に来たのだ」

「ああ。それなら――」


直成さんが紙を引き寄せる。


ちよは鍋を見ながら、二人のやり取りを聞いていた。


家でも細かい人だとは思っていた。

けれど、仕事の話になると、何を聞き、何をまだ聞いていないのかが、みるみる紙の上で分かれていく。


そのうち、また戸が叩かれた。


今度は中原親能だった。


「康信殿はこちらか」

「どうして分かったのです?」


直成さんが聞くと、親能は笑った。


「こちらへ向かったと聞いたのでな」


客が二人になった。


しばらくして、さらに戸が鳴る。


ちよは手を止めた。


康信が戸の方を見る。


「広元ではないか」

「ありそうだな」


親能が答えた。


直成さんが戸を開けると、本当に広元が立っていた。


「康信殿と親能殿が、こちらにいると聞いた」


直成さんは少し黙った。


ちよは鍋の中を見た。


二人分である。


     ◇


三人がそろうと、話は簡単には終わらなかった。


康信が事情を話し、親能が別の話を足す。広元が食い違うところを尋ね、直成さんが紙に書き留める。


ちよには分からない名前も出てきた。

ただ、同じ出来事について話しているのに、聞いた相手が違うだけで、ずいぶん違う話になるものらしい。


「では、こちらとこちらを同じ話として扱ってはいけませんね」


直成さんが紙の二か所を指した。


広元がうなずく。


「そこを先に確かめよう」


ようやく話がまとまりかけたころ、親能がちよを見た。


「奥方。直成殿は、家でもこの調子か」


直成さんが振り向く。


ちよは少し考えた。


「もっと短く済むときもあります」


康信が笑った。


「それはよかった」

「何がです?」

「家でも我々と同じように、あれこれ確かめられるのかと思った」

「分からないことは聞きますよ」


直成さんが真面目に答えるので、親能まで笑った。


ちよも笑った。


ただ、その間にも夕餉はできていく。

汁は煮え、飯も用意できている。


康信が、ふと鍋へ目を向けた。


「よい匂いだな」


親能もそちらを見る。


広元が膳に気づいて、腰を浮かせた。


「夕餉の前に長居をしたな。そろそろ――」


その声に、ちよは鍋の蓋を取った。


「汁なら、少し増やせます。召し上がっていかれますか」


康信の顔が明るくなる。


直成さんがすぐ立った。


「椀を出します。飯も、僕が分けますね」


ちよは夫へ小さくうなずいた。


二人の夕餉が、五人の夕餉になった。


     ◇


飯を食べ始めると、仕事以外の話も出た。


「直成殿は、外でも家のことをよく気にしているぞ」


康信が言った。


ちよは顔を上げる。


直成さんの箸も止まった。


「どんなふうにです?」

「仕事が長引けば、遅くなると知らせたいと言う」

「それは、待たせますから」

「妻が待っている、とも言うな」


親能が付け足した。


直成さんは少し困った顔になった。


「毎回ではありません」

「毎回とは言っておらん」


康信が笑う。


ちよは直成さんを見た。


家へ帰ってくると、疲れていても紙をしまい、戸を確かめ、こちらの話を聞く。

外では外のことばかり考えているのかと思っていたけれど、そうでもないらしい。


「ここでは、ずいぶん柔らかい顔をするな」


親能が言った。


「外では違うのですか」

「もっと難しい顔だ。誰かの話を聞いているか、考えているか、そのどちらかだな」


広元が少し笑った。


「ここでは、よく笑っている」


直成さんが三人を見回す。


「今日は仕事のお話だったはずですが」

「仕事は済んだ」


康信が平然と答えた。


ちよは笑いながら、夫の椀へ目を落とした。


直成さんは、少し耳が赤かった。


     ◇


食事の途中、康信の目がちよの左手に止まった。


「奥方。その指の輪は?」


薬指には、直成さんからもらった細い組紐の輪がある。


ちよはそっと指を動かした。


「夫から、もらいました」


三人の視線が直成さんへ向いた。


親能が首をかしげる。


「何かの習わしか」

「二人で決めたことです」


直成さんが答えた。


それ以上、言葉が続かない。


康信が面白そうに見る。


「説明はないのか」

「説明すると、少し長くなります」

「では、今日はよい」


返事が早かった。


「まだ何もお話ししていませんが」

「直成殿が長いと言うなら、本当に長いだろう」


親能が笑った。


広元は、ちよへ静かに尋ねた。


「大切なものなのだな」


ちよはうなずいた。


「はい」


それだけで、広元はそれ以上聞かなかった。


     ◇


それから、三人はときどき家へ来るようになった。


仕事の相談を持ってくる日もあれば、仕事が済むとすぐ帰る日もある。


けれど、夕餉までいる日も増えた。


康信は魚を持ってきた。


「この前は、急に食わせてもらったからな」


親能は野菜を持ってきた。


広元が一人で来た日、ちよが用向きを尋ねると、少し考えてから答えた。


「今日は、少し休みに来た」


ちよは驚いた。


「ここへ、ですか」

「ああ。邪魔でなければ」


ちよが直成さんを見ると、夫はもう湯を用意しようとしていた。


外では、それぞれ役目がある。

人の話を聞き、紙を扱い、簡単には間違えられない仕事をしている。


ここへ来ると、湯を飲み、飯を食べ、直成さんと言い合う。

仕事の話をしていたはずが、いつの間にか笑っている。


そんな客が、少しずつ増えていた。


     ◇


最後の客を送り、戸を閉める。


ようやく二人だけになった家で、ちよは並んだ椀を見た。


「直成さん」

「うん?」

「私、新婚なんですけど」


直成さんの手が止まった。


「……そうですね」

「分かっています?」

「分かっていますよ」


ちよが椀を指すと、直成さんもそちらを見る。


「二つでよかったはずなのに」

「僕も、そう思っていました」


ちよは笑った。


直成さんも少し笑ってから、こちらの顔を見る。


「今日は、疲れましたか」

「少し」

「急に増えましたからね。片づけは僕がします」

「二人でした方が早いでしょう」


椀を一つ渡すと、直成さんは素直に受け取った。


「皆さんが来るのは、嫌ではないんです」

「うん」

「でも、二人で飯を食べたい日もあります」

「僕もです」


すぐに返ってきたので、ちよは夫を見た。


直成さんは椀を持ったまま、少し照れた顔をしていた。


「では、来ると分かったら先に教えてくださいね」

「そうします」

「二人で食べたい日は、そう言ってください」

「……それも、そうします」


ちよは満足して、次の椀を渡した。


夫婦二人で始まった家だった。


椀は、もう増え始めている。


それでも今夜の片づけは、二人だった。

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