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二階堂一族、鎌倉時代を賑やかに生きる。――亡き父親は転移者!  作者: これってなんだろう
第二部 鎌倉がざわめくころ、二階堂家の日々――承元二年~三年(1208~1209年)
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幕間4 ちよは、自分の返事のあとで家の話を聞く

元暦元年(1184年)、鎌倉。


父と母へ話した翌日、ちよは板敷に並んだ顔を見た。


父の行正。


母のさわ。


長兄の行房。次兄の行重。そして、いちばん年の近い兄の行兼。


その向かいに、直成が座っている。


「兄上たちも、いるのですね」


ちよが言うと、行兼が顔を向けた。


「気になるだろう。お前が夫にしたいと言った男だぞ」


「昨日、父上と母上には話しました」


「だから、今日は俺たちも聞く」


「もう、決めていたの?」


行房が口を挟んだ。


「始まる前から言い合うな」


さわが笑った。


「直成殿が、お困りでしょう」


ちよは、隣を見た。


直成は背筋を伸ばしていた。


一昨日、求婚されたときより、肩が固く見える。


ちよは口を閉じ、父へ向き直った。


 ◇


行正が、直成へ尋ねた。


京では、誰のもとで働いていたのか。


鎌倉へ来てから、何をしているのか。


直成は一つずつ答えた。


大江広元のもとで、文書や数字を扱う仕事をしている。


人の話を書き留め、訴えの内容や土地に関する書付を整理することもある。


父は黙って聞いていた。


やがて、問いが昔の家や氏のことへ移った。


直成は、すぐには答えなかった。


「そのことは、今は申し上げられません」


ちよは、膝の上で手を重ねた。


自分にも、そう答えたことがある。


直成は父を見て、続けた。


「申し訳ありません。ただ、別の家の出だと、偽ってお話しすることもできません」


父は、少しの間、直成の顔を見ていた。


「鎌倉で、頼れる親類は」


「おりません」


「広元殿とは、長く仕事をしているのだな」


「はい。僕がどのような仕事をしているかは、広元殿にもお確かめいただけます」


父がうなずいた。


ちよは、少しだけ息を吐いた。


家の話で、確かめられることと、まだ話せないことがある。


父も、そのままにしてよいと決めたわけではないだろう。


それでも、今は次の問いへ進んだ。


 ◇


「同じ名の者が二人いたら、どう書き分ける」


行正が尋ねた。


ちよは父の顔を見た。


少し身を乗り出している。


仕事の話が、面白くなってきたときの顔だった。


「家や土地、誰から聞いた話かを、分けて書きます」


直成が答える。


「本人から聞いたことと、ほかの者の話も?」


「分けます。あとで、どこまで確かめたか分からなくなるので」


「どのように」


直成は少し考え、懐へ手を入れた。


ちよが目を丸くする。


「持っているのですか」


直成が手を止めた。


「自分で使うための、覚え書きです。お見せできるものだけですが」


父が言った。


「見せてくれ」


「父上」


「少しだけだ」


直成が紙を広げた。


父がのぞき込む。


行房まで、少し近づいた。


「この印は?」


「自分で確かめたところです」


「こちらは?」


「まだ、人から聞いただけのところです」


父がうなずく。


隣で、行兼が小さく言った。


「楽しそうだな」


ちよは兄を見た。


「今日は、婚姻の話でしょう」


さわが夫へ声をかけた。


「あなた。続きは、またにしては?」


行正が顔を上げる。


「分かっている」


直成は、急いで紙を畳んだ。


「すみません」


ちよは首を振った。


「直成殿だけのせいではありません」


行重が笑った。


父も、少し咳払いをした。


 ◇


話が、ようやく戻った。


「夫婦になったあと、どこで暮らすつもりだ」


行房が尋ねた。


直成は姿勢を正した。


「お許しいただけるなら、僕が、二階堂の家へ入ることをお願いしたいと思っています」


「ちよを連れていくのではなく?」


「はい」


ちよは、直成を見た。


本人から聞いていた話だった。


それでも、家族の前で口にされると、その先の暮らしが少し近づいた気がした。


父が、仕事との兼ね合いを尋ねる。


兄たちは、家や土地、暮らしに使うものについて聞いた。


直成は、多くは持っていないと答えた。


それから、少し考えて言った。


「紙は、あります」


行兼が首を傾けた。


「紙?」


「かなり」


行重が吹き出した。


父だけが、何の紙か尋ねかけた。


ちよが顔を向けると、父は口を閉じた。


母が、とうとう声を出して笑った。


「話の合う人が来たようですね」


直成は少し困った顔をしていた。


ちよも、笑ってしまった。


 ◇


行兼が、直成へ尋ねた。


「ちよのことは、どのくらい知っている」


「お話しするたびに、少しずつ」


「思ったことを、すぐ口にするぞ」


「はい」


「分からないことは、何度でも聞く」


「それも、知っています」


「怒ると、早口になる」


「行兼兄上」


ちよが呼ぶと、兄は平然としていた。


「これから一緒に暮らすのだから、大事だろう」


「ほかにも、話すことがあるでしょう」


直成が小さく笑った。


行兼は、その顔を見た。


「何度も聞かれて、嫌にならないか」


直成は少し考えた。


「僕も、よく尋ねる方なので。お互いに、聞ける方がよいと思っています」


ちよは直成を見た。


兄は、しばらく黙ったあと、うなずいた。


「なら、よい」


「それだけですか」


思わず、ちよが尋ねた。


行兼がこちらを見る。


「まだ、言ってほしいのか」


「もう十分です」


行重が、また笑った。


 ◇


最後に、父がちよへ尋ねた。


「お前の気持ちは、昨日と変わらないのだな」


「はい」


「直成殿と、夫婦になりたいのだな」


ちよは、隣を見た。


直成も、こちらを見ている。


「なりたいです」


父が、ゆっくりうなずいた。


「分かった」


直成の肩が、少し下がった。


父は、そこで話を終えなかった。


婿に入るうえで決めること。


家の中で担うこと。


広元のもとでの仕事との兼ね合い。


まだ、相談することは多かった。


ちよも、途中で口を挟んだ。


自分にも関わる話だった。


直成は、ちよが話すと顔を向けた。


父も母も、最後まで聞いた。


その中に座っていると、求婚を受けた夜とは違う形で、夫婦になるのだという実感が湧いてきた。


 ◇


話が一段落し、ちよは直成と外へ出た。


家の中では、まだ兄たちが何か話している。


母が、もう二人を行かせるようにと言った。


その向こうから、父の声が聞こえた。


「直成殿。あの覚え書きは、今度また――」


「父上」


ちよが振り返ると、直成が隣で笑った。


先ほどまでの、困ったような笑い方とは違っていた。


「賑やかですね」


「いつもです」


「そうですか」


直成は、家の方を見たまま、しばらく立っていた。


「疲れました?」


ちよが尋ねる。


「少し。でも、こうして皆で同じことを話すのは、久しぶりで」


ちよは直成を見た。


どこの、誰とのことを思い出しているのだろう。


尋ねかけて、やめた。


今は、家の方を見る直成の顔を、もう少し見ていたかった。


行兼が戸口から声をかけた。


「ちよ。夕方までには戻れよ」


「分かっています」


「直成殿、ちよを頼む」


ちよはすぐに言い返した。


「一緒に出るだけでしょう」


後ろで、行重が笑った。


直成も、笑っていた。


これから、その笑い声が家の中へ増えるのかもしれない。


ちよは、それを少し楽しみに思った。

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