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二階堂一族、鎌倉時代を賑やかに生きる。――亡き父親は転移者!  作者: これってなんだろう
第二部 鎌倉がざわめくころ、二階堂家の日々――承元二年~三年(1208~1209年)
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第23話 まつは、京から届いた返事に自分の言葉を返す

承元三年(1209年)、鎌倉。


その文は、朝のうちに届いた。


「京からだそうです」


使いの者から紙を受け取ると、ちよは礼を述べた。


その一言で、家の中の手が止まった。


「京?」


最初に反応したのは、あやだった。


「季成殿からですか」


次が三郎。


まつは二人を見た。


「まだ、そうとは分からないでしょう」


「今、京から姉上へ来る文なら、一番ありそうです」


三郎が答える。


宗直は何も言わなかった。


ただ、こちらを見た。


光成も見ている。


その横では、ふみとおりんまで、何となく手を止めていた。


「……何ですか」


宗直が首を振った。


「何でもない」


「見ていますよね」


「お前たちが話し始めたからだ」


「兄上も気になっているのでしょう」


「まだ、誰からかも分からないだろう」


ふみが笑った。


「では、分かったら教えてあげてください」


「ふみ」


「気になるままでは、仕事へ行けないでしょう?」


宗直は何も言わなかった。


おりんも少し笑った。


腕の中では梅が眠っている。与一は、大人たちが同じ方を見るので、自分もまつを見ていた。


ちよが紙を差し出す。


「季成殿から。あなた宛てよ」


まつは受け取った。


手にした途端、皆の視線がいっそう気になった。


「一人で読みます」


「どうぞ」


三郎がすぐに答えた。


「その言い方だと、あとで聞くつもりでしょう」


「はい」


「即答しないで」


あやも尋ねる。


「全部、教えてくれる?」


「どうして全部なの」


「何を聞くか、皆で考えたでしょう」


確かに、皆で考えた。


けれど、届いた文は自分宛てだった。


「読んでから考えます」


まつはそう言って、少し離れたところへ移った。


 ◇


紙を開く。


最初に目に入ったのは、整った字だった。


まつは季成の顔を知らない。声も知らない。


けれど、字だけは、これで知った。


自分の文が鎌倉を出て、京まで運ばれ、藤原季成という人の手に渡った。


その人が問いを読み、自分のために筆を持った。


まつは最初から読み始めた。


初めには、文を受け取ったことへの礼があった。


そのあと、まつ本人から文が届くとは思っていなかったので驚いた、と書かれていた。


「驚いたのね」


自分だって、少し前まで季成へ文を出すとは思っていなかった。


それは、お互いさまだろう。


まつが、――私は、分からないことをそのままにするのが苦手です。


と書いたことについても、返事があった。


季成も、分からないことは気になるという。


ただし、すぐに尋ねるより、一度考えてから聞くことが多い、と。


まつはそこで止まった。


「そこは、違うのね」


自分なら、先に聞く。


季成は、先に考える。


どちらがよいのかは分からない。


一つ、違うところが分かった。


 ◇


その下には、少しだけ家のことが書かれていた。


父の知成は、人の話を聞いてから自分の考えを話すという。


母のよしは、季成が黙っていると、待ってくれることもあれば、


「考えているだけでは、相手には分かりませんよ」


と言うこともあるらしい。


兄の信成からは、考えすぎて返事が遅いと言われる。


妹のあきには、文を読み返しているところを見つかり、


「何度目です?」


と笑われた、とあった。


まつは手を止めた。


「……何度も読んだの?」


自分の文を。


そう思った途端、少し顔が熱くなった。


すぐに続きを読む。


妹には大げさに言われただけで、実際にはそれほどではない、とも書いてある。


「それほど、ということは、何度かは読んだのね」


誰に言うでもなく、つぶやいた。


その家で季成が暮らす様子が、少しだけ見えた気がした。


父と母がいて、兄と妹がいる。


自分が文を送った相手は、その人たちの間で暮らしていた。


まつは、文の少し前へ目を戻した。


季成の父が、人の話を聞くところをもう一度読んだ。


家の奥から三郎の声がした。誰かに、何かを尋ねている。


そのあとに続く母の返事も聞こえた。


まつは文を膝へ置き、しばらく耳を傾けた。


父なら、どこで口を挟んだだろう。


三郎の声がまた聞こえた。まつは目元へ手をやり、指先でそっと押さえた。


 ◇


まつは、最後の問いへの返事を読んだ。


――困ったことがあったとき、どうなさいますか。


季成は、まず黙ることが多いと書いていた。


考えているつもりなのだが、周りから見ると、何を考えているのか分からないらしい。


あとになって、


「それなら先に言ってくれればよかった」


と言われることもある。


自分で分からなければ、人に尋ねる。


父に聞くことも、母に話すことも、兄へ相談することもある。


妹へ話して、先に笑われることもある。


それでも答えが出ないこともある、と。


まつは、そこを二度読んだ。


何でも解決できる人だとは書いていない。


黙りすぎて注意され、妹には笑われ、聞いても分からないことがある。


少し格好の悪い話まで、なぜ書いたのだろう。


自分なら、書く前に迷いそうだった。


文の最後には、季成からの問いが一つあった。


――まつ殿は、困ったことがあったとき、どなたに話されますか。


「誰に……」


すぐには答えが出なかった。


 ◇


人の気配がした。


まつが顔を上げると、宗直がいた。


「太郎兄上」


「何だ」


「何をしているのですか」


「通りかかった」


「さっきも、通りませんでした?」


宗直が黙る。


後ろから、ふみが顔を出した。


「三度目ですよ」


まつは兄を見た。


「三度?」


「通りかかったのが」


宗直は、ふみへ何か言おうとした。


その後ろから光成も来た。


「次郎兄上まで?」


「俺は、兄上を見に来た」


「なぜ」


「同じところを何度も歩いているから」


宗直が弟を見る。


「お前は何をしていた」


「だから、兄上を――」


おりんの声がした。


「水路を見に行く支度をしていたでしょう」


光成が振り返る。


おりんは梅を抱いたまま立っていた。


「文が気になるなら、そう言えばよいのに」


光成も黙った。


まつは、だんだんおかしくなってきた。


三郎とあやまで顔を出す。


「皆、いるではありませんか」


三郎が言った。


「あなたたちも来たでしょう」


まつが返した。


ちよだけは、少し離れたところで皆を見ていた。


まつは文を畳んだ。


「少しだけ、話します」


三郎が、すぐに座る。


あやも座った。


宗直は、


「無理に話さなくてよい」


と言いながら座った。


光成も、その隣へ腰を下ろした。


 ◇


「季成殿は、困ったとき、まず黙るそうです」


あやが尋ねた。


「どうして?」


「考えるから」


「黙って?」


「そう書いてあるわ」


宗直がうなずいた。


「分かる気はする」


ふみが夫を見る。


「そうでしょうね」


「何だ」


「あなたも、言わずに考えていることがありますから」


「俺とは違うだろう」


「どこが?」


宗直が黙った。


あやが言う。


「今、黙った」


光成が笑った。


すると、おりんが光成を見る。


「あなたもですよ」


「俺は違う」


「水路のことを考えていると、返事をしなくなるでしょう」


「聞こえていないだけだ」


「それも困ります」


また笑いが起きた。


まつは、手元の文を見た。


季成は、自分の書いたことが、これほど大勢の話になるとは思っていないだろう。


「ほかには?」


三郎が聞いた。


まつは少し考えた。


家族に話してもよさそうなところを選ぶ。


「分からないことは、知っていそうな人に聞くそうです」


三郎がうなずいた。


「よいと思います」


宗直が言う。


「お前は、広元様に聞きすぎる」


「知っていそうな方なので」


「自分でも考えろ」


まつが言った。


「季成殿は、一度考えてから聞くそうよ」


三郎は少し止まった。


「では、私もそうします」


「できる?」


あやが聞いた。


「できます」


「少し考えて、すぐ聞きに行くの?」


三郎は妹を見た。


まつも、とうとう笑ってしまった。


 ◇


「季成殿から、何か尋ねられたの?」


ちよが口を開いた。


まつは母を見る。


「はい。困ったとき、誰に話すのか、と」


あやがすぐに言った。


「母上でしょう?」


「いつもではないわ」


「太郎兄上?」


「話による」


「次郎兄上?」


「それも、話による」


「三郎兄上?」


まつは少し考えた。


「紙に書いてほしいときには」


「話を聞くこともできます」


三郎が言った。


「知っているわ」


「では、私?」


あやが自分を指した。


「あなたにも話すわよ」


「何を?」


「今、季成殿の話をしているでしょう」


あやはうなずいた。


「そうだった」


ふみが笑う。


まつは、家族を見回した。


「たぶん、そのとき近くにいる人です」


宗直が眉を上げた。


「ずいぶん、簡単な答えだな」


「でも、本当でしょう? 太郎兄上に話すことも、ふみ姉上に話すこともあります。次郎兄上に聞くことも、おりん姉上に相談することも」


「私も入りますか」


三郎が尋ねた。


「入るわ」


あやも手を挙げた。


「私も?」


「入ります」


「じゃあ、皆だね」


まつは少し考えた。


「そうかもしれない」


ちよがうなずいた。


「それなら、そう書けばいいでしょう」


まつは文を見た。


季成は、家族の中で暮らす自分のことを教えてくれた。


自分も、その返事を書けそうだった。


 ◇


夕方、まつは紙を一枚出した。


今度は、家族が集まっていないところを選んだ。


――お返事をありがとうございました。


そこまで書くと、後ろから声がした。


「書き始めた?」


あやだった。


「どうして、ここにいるの」


「静かだったから」


「書いているから静かなのよ」


「見ても?」


「書き終わるまで待って」


あやは少し口をとがらせたが、今度は戻っていった。


まつは足音が遠ざかるのを待ち、続きを書いた。


――私は、困ったことがあると、家族の誰かに話します。誰に話すかは、そのときによって違います。


母に話すこともある。兄や、兄の妻たちに聞くこともある。


弟や妹にも話す。


そこまで書いて、手を止めた。


三郎やあやに話すと、かえって騒がしくなることもある。


少し迷ってから、書き足した。


――弟や妹に話して、話が大きくなることもあります。


まつは笑った。


三郎が読めば、抗議するだろう。


あやなら、何のことか聞きに来るかもしれない。


――家族が多いので、一人で考えていても、誰かが気づいて口を出します。うるさいと思うこともあります。


書いてから、昼のことを思い出した。


三度も通りかかった宗直。


兄を見に来たと言い張った光成。


二人の言い分を、すっかり分かっていたふみとおりん。


最初から隠す気のない三郎とあや。


少し離れて見ていた母。


まつは、その下に一行を加えた。


――でも、誰も何も言わない家は、たぶん寂しいと思います。


しばらく、その文字を見た。


消さずに残した。


 ◇


最後に、こちらからも一つ尋ねることにした。


好きな食べ物。京の暮らし。文章生として学んでいること。


聞きたいことは、まだたくさんある。


けれど、今、気になるのは、文の中に出てきた人たちだった。


――季成殿のお家では、皆さまはどのようにお過ごしになりますか。


父の知成。母のよし。兄の信成。妹のあき。


名前だけなら、もう知っている。


季成は、その人たちと、どんな話をして暮らしているのだろう。


まつは文を読み返した。


 ◇


翌朝、文を持って出ていくと、三郎がすぐに気づいた。


「できましたか」


「できたわ」


「見ても?」


「駄目」


「誤字があったら――」


「自分で読み返しました」


宗直が横から言った。


「諦めろ。まつの文だ」


「そうよ」


まつがうなずく。


光成も近くにいた。


「何を聞いたんだ」


「教えません」


「昨日は教えたじゃないか」


「昨日は昨日です」


ふみが笑い、おりんも笑った。


あやが尋ねた。


「また、返事が来る?」


まつは少し止まった。


「来るといいけれど」


ちよが文を受け取った。


「政子様のところへ、お願いしておくわ」


「はい」


まつは紙から手を離した。


少しだけ、名残惜しかった。


最初の文は、季成という人を知るために送った。


今度は、聞かれたことへ、自分が答えた。


まだ、嫁ぐとは決めていない。


ただ、もう一度、返事を読みたいとは思っていた。


文は、その日のうちに二階堂家を出た。


昼を過ぎて、まつは一度、今ごろどこまで行っただろうと考えた。


京までは、まだ遠い。


それでも、今度は自分の家の話が、その道を進んでいた。


* * *


【今回、文の中に登場した人物】


藤原季成と、その家族


季成、父の知成、母のよし、兄の信成、妹のあきは、本作の創作人物です。京都の公家の一家で、互いの話を聞くことを大切にしています。季成は、その家族との日常を通じて、少しずつまつへ自分のことを伝えていきます。

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