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二階堂一族、鎌倉時代を賑やかに生きる。――亡き父親は転移者!  作者: これってなんだろう
第二部 鎌倉がざわめくころ、二階堂家の日々――承元二年~三年(1208~1209年)
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第21話 北条泰時は、縁談の相談と答えに困る

承元三年(1209年)、鎌倉。


翌朝、三郎は昨日の紙を持っていた。


「それ、全部持っていくの?」


まつが聞いた。


「必要になるかもしれません」


「政子様に、最初から全部見せるつもり?」


「聞かれたら見せます」


「聞かれなくても出しそうね」


「出しません」


三郎は少し間を置いた。


「たぶん」


「そこは言い切って」


ちよが二人の横で笑った。


今日は、政子のところへ相談に行く。


昨日の家族の話し合いで決まったことだった。


季成本人へ文を出すことができるのか。


出すなら、どのように届ければよいのか。


まず、それを聞く。


「準備できたか」


宗直が戸口から声をかけた。


長男の宗直も一緒に行くことになっていた。


家の縁談について外へ相談へ行くのだから、自分も行くと言ったのだ。


その後ろから、妻のふみが顔を出す。


「あなた、自分の仕事は大丈夫なのですか」


「昼までには戻る」


ふみは少し考えた。


「昨日も聞いた気がします」


「昨日とは違う」


「何が?」


宗直は答えなかった。


まつが笑った。


「太郎兄上、今日は帰ってきてくださいね」


「お前の相談について行くんだぞ」


「だから言っているのです」


少し離れたところでは、光成が草履を直していた。


「俺も行こうか」


「あなたは今日は行かなくてよいです」


すぐに、おりんが言った。


光成が妻を見る。


「なぜだ」


「昨日から、頼まれていた水路を見に行くと言っていたでしょう」


「午後でもいい」


「午後になると、また別のものを見つけます」


「見つけなければいい」


「見つけるでしょう」


光成は黙った。


まつは思わず笑う。


光成が土地や水のことを忘れることはない。


おりんが、それを忘れないこともない。


「次郎兄上は留守番でお願いします」


まつが言った。


「家にいるとは言っていない」


「では、水路を見てきてください」


「そうする」


その横で、あやが声を上げた。


「私は?」


「留守番」


まつが即答した。


「また?」


「昨日、与一と遊ぶと言ったでしょう」


「もう遊んだよ」


「今日も遊べるでしょう」


あやが不満そうに与一を見る。


与一は何も知らずに、あやの持っていた栗の籠を見ていた。


おりんの腕の中では梅が眠っている。


「帰ってきたら教えて」


あやが言った。


「何を?」


「全部」


三郎が紙を見る。


「書いておきますか」


「あなたは書かなくていいの」


まつは先に外へ出た。



四人は鎌倉の道を歩いた。


宗直が先頭。


その後ろを、ちよとまつ。


最後に三郎がついてくる。


秋の風が少し冷たくなっていた。


道端には乾いた葉が落ち、行き交う人々の衣も、夏とは少し変わっている。


鎌倉は相変わらず人が多い。


武士。


従者。


荷を運ぶ者。


寺社へ向かう者。


役所へ急ぐ者。


この町には将軍がいる。


今の鎌倉殿は源実朝。


その下で、北条義時や大江広元、和田義盛、三善康信らが、それぞれ違う役目を持って政務を支えている。


一方、まつが縁談を持ちかけられた相手は京にいる。


京には天皇がいる。


後鳥羽上皇が院政を行い、その周りには関白や大臣、公卿たちがいる。


同じ国の中でも、鎌倉とは人の並び方が違う。


「京へ文を出すなら」


三郎が後ろから言った。


「京都守護の中原季時殿に聞く方法もありますよね」


宗直が振り返った。


「まだ言っているのか」


「昨日、ちゃんと答えが出ませんでしたから」


「姉上の縁談を京都守護の仕事にするな」


「京との連絡をする方でしょう」


「だから何でも頼んでいいわけではない」


三郎は少し考えた。


「では、政子様に聞く」


「そのために今歩いているんだ」


「そうでした」


宗直はため息をついた。


まつが笑う。


「三郎は、役目の名前を知ると使いたくなるのね」


「何のための役目か知りたいだけです」


「そのうち関白まで使いそうだな」


宗直が言った。


三郎がすぐ答える。


「今の関白は近衛家実殿です」


まつが三郎を見る。


「誰も聞いてない」


「太郎兄上が関白と言ったので」


「名前まで聞いてないの」


ちよが笑った。


「先へ進めすぎないの」


三郎は口を閉じた。


そのとき。


「宗直殿!」


道の向こうから声がした。


一人の武士が、宗直へ手を上げている。


宗直は足を止めた。


相手の顔を見た途端、少し困ったような表情になった。


まつはすぐ気づく。


「お仕事ですか」


「ああ」


宗直は相手のところへ行った。


しばらく話して戻ってくる。


顔が、先ほどより少し難しくなっていた。


「母上」


「何?」


「悪い。少し寄らなければならなくなった」


まつが言った。


「昼までに戻るのでは?」


「これは別だ」


「ふみ姉上にも、そう言うのですか」


「まつ」


「はい」


「帰ったら言う」


「では、帰ってきてください」


宗直が何か言い返そうとする。


その前に、仕事仲間がもう一度宗直を呼んだ。


宗直は三郎を見た。


「三郎」


「はい」


「母上と姉上を頼む」


三郎が目を丸くした。


「私が?」


「今ここにいる男はお前だけだ」


「母上と姉上なら、私がいなくても大丈夫だと思います」


「それでも頼む」


「……分かりました」


三郎は少し背筋を伸ばした。


宗直は今度はまつを見る。


「政子様の前で、変なことを言うなよ」


「それは三郎に言ってください」


「姉上」


「だって本当でしょう」


宗直は一度ちよを見る。


ちよがうなずいた。


「行ってきなさい」


「すみません」


宗直は仕事仲間の方へ向かった。


少し離れてから、まつがその背中を見る。


「太郎兄上は、本当に仕事を拾いますね」


ちよが言った。


「拾っているつもりはないのでしょうね」


三郎が言う。


「向こうから来ています」


まつは三郎を見る。


「そういうところを正確に言わなくていいの」


三人は再び歩き出した。



北条家へ着くと、政子はまだ戻っていなかった。


取り次ぎの者が言う。


「しばらくお待ちいただけますか」


「もちろんです」


ちよが答えた。


三人が待っていると、奥から若い男が出てきた。


まつも顔は知っている。


だが、これまでまともに話したことはほとんどない。


「二階堂の方々ですね」


男は頭を下げた。


ちよも頭を下げる。


「泰時殿」


北条泰時。


北条義時の息子。


政子から見れば甥である。


「伯母上は、少し遅くなるそうです」


泰時が言った。


「お待ちになりますか」


「はい」


ちよが答える。


「今日は政子様に、少し相談があって」


泰時がうなずく。


その視線が、三郎の持つ紙で止まった。


「それは?」


三郎が答える。


「姉上の縁談について、知りたいことを書いた紙です」


まつが三郎を見る。


「全部言うのね」


「聞かれましたから」


泰時が、まつを見た。


「縁談なのですね」


「はい」


「京の方だと聞いています」


「藤原季成殿です」


また三郎が答えた。


まつは三郎を見る。


「私の縁談なんだけど」


「名前を聞かれたと思いました」


「まだ聞かれてないでしょう」


泰時が少し笑った。


「藤原季成殿」


名前を繰り返して、少し考える。


「聞いたことがあるような気もします。ただ、本人を知っているとは言えません」


三郎が紙に書こうとした。


泰時がすぐに言った。


「それは書かなくてよいです」


三郎の筆が止まった。


まつは笑った。


「三郎は何でも書くのです」


「見れば分かります」


泰時も少し笑った。


まつは、思っていたより話しやすい人なのかもしれないと思った。


「それで」


泰時が聞いた。


「伯母上には、何を相談なさるのですか」


まつが答える。


「季成殿へ、私から文を出せないかと思って」


「ご本人へ?」


「はい」


泰時は少し驚いたようだった。


「何を聞くのです?」


「それを考えているところです」


「まだ決まっていないのですか」


「決まっていないから考えているのです」


泰時は少し黙った。


まつは、昨日の家族の話を思い出した。


好きなもの。


暮らす場所。


家族への接し方。


季成が自分をどう聞いているか。


なぜこの縁談を受けようと思ったのか。


いろいろ出た。


でも、まだ決めきれない。


まつは目の前の泰時を見た。


「泰時殿なら」


「はい」


「知らない人と夫婦になるかもしれないとき、何を知りたいですか」


泰時が止まった。


三郎も顔を上げた。


ちよは何も言わない。


「……私に聞くのですか」


「北条家の方なら、こういう話にも慣れているのかと思って」


「それは、ずいぶんな思い込みですね」


まつは少し驚いた。


思ったよりはっきり言う。


「違うのですか」


「少なくとも、私は慣れていません」


「そうなのですか」


「そうです」


泰時は真面目な顔だった。


それから少し考えた。


「家のことなら、人に聞けば分かると思います」


三郎の筆が動く。


泰時がちらりと見る。


しかし今度は止めなかった。


「家柄も。役目も。どこに住んでいるのかも」


「はい」


「でも」


泰時は少し黙った。


すぐには答えない。


まつは待った。


「その人が困ったときに、どうする人なのかは」


泰時がゆっくり言う。


「本人を知らないと分からない気がします」


「困ったとき?」


「怒る人なのか」


泰時は指を折った。


「黙る人なのか。誰かのせいにする人なのか。自分で考える人なのか」


三郎が全部書いている。


泰時が気づいた。


「全部書くのですか」


「はい」


「今のは、私が正しいと言ったわけではありません」


「それも書きますか」


「書かなくてよいです」


まつが笑った。


「泰時殿は、自信がないのですか」


泰時はまた考えた。


「あります、と言えるほど人を見てきたわけではありません」


まつは、少し意外に思った。


北条義時の息子。


政子の甥。


それだけ聞けば、もっと迷わず答える人かと思っていた。


だが泰時は、分からないことを分からないと言う。


三郎が尋ねた。


「では、泰時殿は困ったときにどうするのですか」


泰時が三郎を見る。


「私ですか」


「はい」


「なぜ私の話になるのです」


「今のお話なら、自分が困ったときに何をする人なのかも大事でしょう」


泰時は黙った。


まつが三郎を見る。


「三郎」


「何です?」


「そういうところよ」


「何がです」


泰時はしばらく考えた。


それから言った。


「……今、困っています」


三郎が笑った。


まつも笑った。


ちよも笑った。


泰時は眉を寄せる。


「そんなにおかしいですか」


「いえ」


まつは首を振った。


「でも、少し分かりました」


「何がです?」


「泰時殿が、困ったときにどうする人なのか」


泰時は、ますます困った顔をした。


「どうする人でした?」


「考える人です」


泰時はしばらく黙った。


やがて、小さく息を吐く。


「それなら」


「はい」


「季成殿にも聞いてみたらよいのではないですか」


「何を?」


「困ったとき、どうする人なのか」


まつは三郎の紙を見る。


すでに書いてあった。


――困ったとき、どうする人なのか。


「三郎」


「はい」


「それは残しておいて」


「もちろんです」


泰時が紙を見る。


「今度は消さないのですね」


「姉上が残せと言いましたから」


「なるほど」


そのとき、奥で人の声がした。


泰時がそちらを見る。


「伯母上が戻ったようです」


まつは紙を見た。


藤原季成。


名前。


家。


年齢。


文章生。


分かっていることはいくつかある。


けれど、それだけでは人は分からない。


昨日より、季成について分かったことは増えていない。


その代わり。


何を聞けば、その人が少し見えてくるのか。


まつには、一つだけ新しい問いができていた。



――――――――――


【北条泰時】


北条泰時(1183年~1242年)は、北条義時の子。


北条政子から見れば甥にあたる。


のちに鎌倉幕府第三代執権となり、1232年には御成敗式目の制定を主導した。


1209年の泰時は、後世に知られる執権となる以前の若い時期にあたる。

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