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二階堂一族、鎌倉時代を賑やかに生きる。――亡き父親は転移者!  作者: これってなんだろう
第二部 鎌倉がざわめくころ、二階堂家の日々――承元二年~三年(1208~1209年)
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第20話 まつは、縁談の相手を知りたい

承元三年(1209年)、鎌倉。


昼餉が終わっても、誰もすぐには立ち上がらなかった。


二階堂家では、そういうときがある。


食べ終わった人から片づければよいのに、誰かが話を始める。すると一人が口を出し、もう一人が言い返し、気づけば最初の話とは違うところまで行っている。


今日は、まつの縁談だった。


ちよの近くには、宗直の妻ふみが座っている。忠太、たか、小次郎も、母のそばにいた。


少し離れたところでは、おりんが梅を抱いている。与一は光成のそばにいたかと思えば、今度はあやの隣へ行き、残っていた栗を気にしていた。


「それで」


宗直が言った。


「まつは、何を知りたいんだ?」


まつは少し困った。


昨日、自分で言ったのだ。


藤原季成という人のことを、まず知りたい。知らないままでは、嫁ぐとも嫁がないとも決められない。


その考えは変わっていない。


けれど。


「……何を知れば、その人のことを知ったことになるのでしょう」


宗直が黙った。


光成も黙った。


三郎だけが紙を出した。


「まず、分かっていることを書きます」


「もう書くの?」


「忘れる前に」


三郎は紙の一番上へ、藤原季成、と書いた。


その下へ、京の人。藤原北家の日野の流れにつながる家。まつより五つか六つ年上。文章生、と続ける。


文章生とは、朝廷で働くため、漢文や歴史などを学ぶ者のことだった。


まつは紙を見た。


「それだけ?」


「今のところは」


「少ないわね」


「昨日聞いたばかりですから」


名前。家。年齢。何をしている人なのか。


どれも大事なのだろう。


「でも、これが全部分かっても、季成殿がどんな人なのかは分からないでしょう」


三郎が紙を見る。


「では、何を書けばよいのです?」


「それを考えているの」


 ◇


「好きな食べ物とか?」


あやが口を挟んだ。


手には栗がある。


まつは振り向いた。


「食べ物?」


「だって、一緒に暮らすかもしれないんでしょう?」


「まだ暮らすと決まっていないわよ」


「でも、嫌いなものは知っていた方がいいでしょう」


ふみが笑った。


「食べ物は、意外と大事かもしれませんね」


宗直が妻を見る。


「そうなのか?」


「あなた、魚の骨を取るのが面倒だと言って、私の皿へ入れるでしょう」


宗直が止まった。


「それは、取ってくれるからだ」


「最初から取ってもらうつもりですね」


「太郎兄上」


まつが言った。


「何だ」


「参考になりました」


「何が」


「夫婦になると、こういうことまで分かるということです」


宗直が少し困った顔をした。


ふみは笑っている。


おりんが梅を抱き直した。


「暮らす場所も、聞いておいた方がよいと思います」


光成が、すぐにうなずいた。


「そうだ」


宗直が弟を見る。


「お前は分かりやすいな」


「何がだ」


「水と土地だろう」


「暮らすなら必要だ」


光成は真面目だった。


「京のどこに住むのか。家の周りに何があるのか。水はどこから取るのか。道はどうなっているのか」


三郎が書き始めた。


「住んでいる場所、と」


「三郎」


「はい」


「まだ、全部書かなくていいわ」


まつに言われ、三郎は筆を止めた。


おりんが夫を見る。


「暮らす場所は大事です。でも、まつ殿が先に知りたいのは、季成殿ご自身のことでしょう」


光成は少し黙った。


宗直が笑う。


「次郎は、おりんには勝てないな」


「勝ち負けではない」


ふみが宗直を見た。


「あなたも、私に同じことを言っていましたね」


「何の話だ」


「覚えていないのですか」


「……あとで聞く」


宗直は話をそらした。


まつは二組の夫婦を見た。


ふみは、宗直が何を忘れるかを知っている。


おりんは、光成が何を先に考えるかを知っている。


自分は季成について、まだ何も知らない。


「太郎兄上なら?」


まつが聞いた。


「俺?」


「何を知りたいですか」


宗直は少し考えた。


「家の者に、どんなふうに接する人なのか」


「家の者?」


「親でも、きょうだいでも、仕える者でもいい。自分より立場の弱い者にどう接するかは、気になる」


三郎の筆が動いた。


今度は、まつも止めなかった。


「太郎兄上らしいですね」


「そうか?」


「人のことばかりです」


光成が横から言う。


「俺の話も役に立つだろう」


「水の取り口を聞いて、季成殿の人柄が分かるのか」


宗直が返した。


「暮らしは分かる」


「今は、まつの相手の話だ」


「まだ、相手にすると決めたわけではありません」


まつが言った。


二人とも黙った。


あやが笑い、ふみとおりんも笑った。


 ◇


「ずいぶん増えたわね」


ちよが、三郎の紙を見た。


住んでいる場所。家族。仕事。好きなもの。嫌いなもの。人への接し方。


まつは紙を見下ろした。


「母上なら、何を聞きます?」


「私?」


「はい」


ちよは少し考えた。


「まつのことを、どう聞いているのかしら」


まつは顔を上げた。


「私のこと?」


「向こうにも縁談の話は届いているのでしょう。季成殿が、あなたをどんな人だと思っているのかは気になるわ」


まつは黙った。


自分は昨日から、季成のことばかり考えている。


向こうからすれば、自分も知らない相手なのだ。


「……私のことを、何と聞いているのでしょう」


「そこまでは、私も知らないの」


「政子様は、何とお伝えになったのでしょうか」


「次にお会いしたら、尋ねてみましょう」


三郎が書いた。


――まつ姉上をどう聞いているか。


まつは、その文字をしばらく見ていた。


ふみが言った。


「でも、まつのことを全部聞かれても、私なら困ります」


「どうして?」


「優しいと言ってよいのか、世話焼きと言った方がよいのか」


「ふみ姉上」


「よく気がつくけれど、気がついたらすぐ言うでしょう」


宗直が吹き出した。


まつが兄を見る。


「太郎兄上」


「俺は何も言っていない」


「顔が笑っています」


おりんも口元を隠した。


「おりん姉上まで」


「すみません」


「謝りながら笑わないでください」


あやが言った。


「姉上は怒ると分かりやすいって書けば?」


「書かない!」


三郎の筆が動きかけた。


まつは、その手を止めた。


「今のは書かなくていい」


「分かりました」


三郎は少し残念そうだった。


 ◇


笑いが収まってから、まつはもう一度紙を見た。


「季成殿は、どうして、この縁談を受けようと思ったのでしょう」


今度は誰も、すぐには答えなかった。


ちよがまつを見る。


「それは、ご本人に聞いてみたいわね」


まつはうなずいた。


家のことなら、政子に聞けば分かるかもしれない。


文章生が何をするのかなら、広元に尋ねれば教えてもらえるだろう。


京の暮らしなら、京を知る人に聞ける。


けれど、なぜ自分との縁談を受けようと思ったのか。


何を好きで、何を嫌うのか。


どんなときに怒り、何を面白いと思うのか。


そんなことは、家柄を調べても分からない。


まつは紙の一番下を指した。


「三郎。そこに一つ書いて」


「何をです?」


「本人に聞きたいこと」


三郎は言われたとおりに書いた。


あやがのぞき込む。


「季成殿に会うの?」


「京にいるのよ」


「では、どうやって聞くの?」


「文なら届くでしょう」


三郎が顔を上げた。


「文を出すのですか?」


「駄目なの?」


「駄目とは言っていません」


「では、出せる?」


三郎は、すぐには答えなかった。


宗直を見る。


宗直も少し困った顔をした。


「縁談の相手に、本人から文を出すとなると……俺も、どうするのがよいか分からない」


光成が言った。


「広元様に聞けばいい」


三郎がうなずく。


「私もそう思います」


宗直が弟を見る。


「お前は、すぐ広元様に持っていくな」


「知っていそうな方に尋ねようと思ったのです」


ちよが口を開いた。


「まず、政子様に相談してみましょう。持ってきてくださったお話なのだから、どう届けるのがよいかも、ご存じでしょう」


「はい」


「でも、母上。何を聞くかは、私も考えます」


「もちろん。そのために話していたのでしょう」


宗直が言った。


「俺たちも考えてよいのか」


まつは少し考えた。


「勝手に決めなければ」


「まだ怒っているのか」


「少し」


宗直が苦笑した。


光成が言う。


「では、水のことも――」


おりんが夫を見た。


「まつ殿が聞きたいならね」


光成がまつを見る。


まつは笑った。


「京へ行くことになったら、聞きます」


「なら、覚えておく」


「三郎兄上が書くでしょう」


あやが言った。


三郎が紙を見る。


「書いておきますか」


「今は、書かなくていいわ」


まつが答えると、また笑いが起きた。


与一も皆の顔を見て、一緒に笑った。


梅は、おりんの腕の中で眠っていた。


 ◇


まつは三郎から紙を受け取った。


「これは、私が持っておきます」


「まだ書きかけです」


「だからです」


「続きを書くなら、私が持っていた方が――」


「私の縁談でしょう?」


三郎は黙った。


あやが、まつの手元をのぞく。


「姉上。何を一番聞くの?」


まつは紙を見た。


名前。家。年齢。何をしている人なのか。


昨日より、聞きたいことは増えた。


それでも、どれを聞けば季成という人が分かるのかは、まだ分からなかった。


「まず、どんな人なのか知りたいの」


「それ、最初と同じだよ」


「そうね」


まつは少し笑った。


「でも、何を聞けばよいのかは、前より考えられそう」


紙を畳む。


京にいる季成には、まだ会えない。


今度は、自分の言葉を届けられるかもしれなかった。


* * *


藤原季成


本作の創作人物です。京都の中級公家の家に生まれ、学問や文章を学んでいます。まつより五、六歳ほど年上。北条政子を通じて、まつとの縁談が持ち上がっています。

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