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二階堂一族、鎌倉時代を賑やかに生きる。――亡き父親は転移者!  作者: これってなんだろう
第二部 鎌倉がざわめくころ、二階堂家の日々――承元二年~三年(1208~1209年)
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幕間3 ちよは、直成への返事を自分で決める

元暦元年(1184年)、鎌倉。


朝になっても、ちよは何度も左手を見た。


薬指に、細い組紐の輪がある。


昨夜、直成から渡されたものだった。


少しゆるいので、気づくたびに、もう片方の手で押さえた。


――僕と、家族になってもらえませんか。


思い出すと、胸の内が少し落ち着かなくなる。


直成の話は長かった。


求婚の言葉を聞くまでに、年の差や仕事、まだ話せない昔のことまで聞いた。


それでも、最後の言葉だけは短かった。


家族になってほしい。


ちよは、その言葉をもう一度考えた。


父や母には、これから話す。


直成が二階堂の家へ入るとなれば、兄たちも黙ってはいないだろう。


けれど、その前に、自分の返事は決めておきたかった。


 ◇


直成は、紙を広げていた。


ちよが近づくと、すぐに顔を上げる。


「ちよ殿」


返事が、いつもより早い。


ちよは少し笑った。


「待っていました?」


「何をですか」


「私が来るのを」


直成は少し黙った。


「……はい」


「紙を見ていたのに」


「見ていたんですが、あまり進みませんでした」


ちよは手元を見た。


何枚かの紙が、きれいに並んでいる。


仕事の話なら、次々に説明する人だった。


自分が来るのを待っていたと言われると、ちよの方まで少し落ち着かなくなった。


「昨夜の返事ですが」


直成が姿勢を正した。


「急がなくても、大丈夫です」


ちよは顔を上げた。


「もう、考えました」


「一晩しか、たっていませんが」


「一晩、ありました」


直成が口を閉じた。


ちよは、その顔を見て、少し笑った。


「でも、返事の前に、一つ聞いてよいですか」


「もちろんです」


 ◇


「本当に、二階堂の家へ入るおつもりなのですね」


「はい。そのようにお願いしたいと思っています」


「家のことも、いろいろありますよ」


「そうでしょうね。僕の知らないことも多いと思います」


直成は紙から手を離した。


「教えていただきたいことがあります。仕事との兼ね合いも、ご家族と相談しなければ」


ちよはうなずいた。


「父や母に、何を言われても大丈夫ですか」


直成は答えかけ、少し考えた。


「……何を言われるかによります」


ちよは吹き出した。


「そこは、大丈夫ですとは言わないのですね」


「できるか分からないことまで、先に約束してしまうと困るので」


「直成殿らしいです」


「よい意味ですか」


「今は、そういうことにしておきます」


直成も少し笑った。


ちよは指の輪へ触れた。


もう一つ、確かめたいことがあった。


昨夜も聞いた。


それでも、もう一度聞きたかった。


「家の者が、よいと言っても、私が嫌なら駄目なのですか」


直成がちよを見る。


「はい」


「うちの家にとって、都合がよくても?」


「ちよ殿と、僕が夫婦になる話ですから」


返事は、昨夜と同じだった。


直成は少し迷ってから、続けた。


「もちろん、ご家族のことも大切です。ただ、あなたの気持ちを、聞かずに進めたくはありません」


ちよは黙って聞いた。


直成は、こちらの顔を確かめるように見ている。


その様子を見ているうちに、朝から考えていたことが、ようやく言葉になった。


この人と、まだ話していたい。


分からないことも、尋ねたいことも、たくさんある。


それを、明日も、その先も聞けたらよい。


ちよは顔を上げた。


 ◇


「返事をします」


直成の背筋が、少し伸びた。


「はい」


「私は、直成殿と夫婦になりたいです」


言ってしまうと、短かった。


直成は何も言わない。


ちよは待った。


まだ、返事がない。


「聞こえました?」


「はい。聞こえました」


「では、何か言ってください」


直成は、少し息をついた。


それから、ようやく笑った。


「嬉しいです」


ちよの手が、膝の上で止まった。


昨夜、自分もそう答えた。


同じ言葉を返されると、今度は自分が、何を言えばよいか分からなくなった。


直成が、もう一度言った。


「ありがとうございます」


ちよは少し目を伏せた。


「昨夜は、あんなに長く話していたのに」


「今日は、言いたいことが、まだうまくまとまらなくて」


「これから、家に話すのですよ」


直成が顔を上げる。


「そうでした」


ちよは、とうとう声を出して笑った。


「そちらは、覚えていてください」


「はい」


 ◇


直成が紙を片づけ始めた。


ちよは立ち上がり、数歩進んでから振り返った。


「今から行きますよ」


「少し待ってください。これだけ、しまいます」


紙を重ね、折れないように包む。


いつもなら、手間をかけるものだと思うところだった。


今日は、少し待っていてもよかった。


直成は片づけ終えると、ちよの前へ来た。


「お待たせしました」


ちよはうなずいた。


「父が何と言うかは、私にも分かりません」


「はい」


「兄たちも、何か言うと思います」


「覚悟しておきます」


ちよは家の方を見た。


まだ、決まっていないことは多い。


住む場所も、仕事も、家との関わりも、これから相談しなければならない。


けれど、自分がどうしたいのかは、もう伝えた。


ちよは左手の輪を押さえ、直成と並んで歩き始めた。

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