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二階堂一族、鎌倉時代を賑やかに生きる。――亡き父親は転移者!  作者: これってなんだろう
第二部 鎌倉がざわめくころ、二階堂家の日々――承元二年~三年(1208~1209年)
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第19話 まつは、京から来た縁談と自分の気持ちに戸惑う

承元三年(1209年)、鎌倉。


政子が帰ったあと、まつは家の中が少しおかしいことに気づいた。


いや。


家がおかしいのではない。


兄たちがおかしい。


宗直は、さっきから何度かまつを見ている。


その後ろでは、光成が妙におとなしい。


そして三郎は、もっと分かりやすかった。


まつと目を合わせない。


「三郎」


「はい」


「こっちを見なさい」


「聞いています」


「聞いているかどうかではなくて」


三郎は、ようやく顔を上げた。


まつと目が合う。


そして、すぐにそらした。


「……何かあるでしょう」


「ありません」


「今ので、あると分かりました」


三郎は黙った。


宗直が小さく息をついた。


光成は何も言わない。


その横で、あやだけは何も気にせず栗を食べていた。


「姉上も食べる?」


「……もらう」


まつは栗を一つ受け取った。


そして四人を見比べた。


宗直。


光成。


三郎。


三人ともおかしい。


あやだけ、いつも通りだ。


「三人とも、何か知っていますね」


あやが首をかしげた。


「何を?」


「あやは知らないのね」


「知らないよ」


「そう」


それで、まつにはだいたい分かった。


政子が来ていた間に何かあったのだ。


しかも、どうやら自分に関係している。


「兄上」


宗直が少し身構えた。


「何だ」


「何を知っているのです?」


「母上から聞いた方がいい」


まつの目が細くなる。


「母上から?」


宗直は答えなかった。


それで十分だった。


「私の話なのですね」


今度は誰も答えない。


まつは三郎を見る。


「三郎」


「はい」


「何を聞いたの?」


「全部ではありません」


「何を聞いたの」


三郎は少し迷ってから答えた。


「京、という言葉です」


「ほかには?」


「姉上の名前と……縁談という言葉を」


まつは思わず声を上げた。


「十分でしょう!」


「ですから、全部ではありません」


「それだけ聞けば十分です!」


宗直が額に手を当てた。


「三郎、お前は少し黙っていろ」


「聞かれたので答えただけです」


「そういうところだ」


光成が小さく口を開いた。


「俺たちは、聞こうと思って聞いたわけではない」


まつは光成を見る。


「では、聞いたのですね」


光成は黙った。


まつは三人を順に見た。


「私の話なのに」


その声には、さっきまでとは違うものが混じっていた。


「どうして私が知らないのですか」


あやが栗を持ったまま目を丸くする。


「姉上の話なの?」


「そうみたい」


「何の話?」


「だから私も知らないの!」


「私に怒らないでよ」


そこへ、ちよが奥から出てきた。


「どうしたの?」


まつはすぐに母を見る。


「母上」


「何?」


「私に話がありますね」


ちよはまつの顔を見た。


それから宗直、光成、三郎を見る。


少し間を置いて、


「……聞いたの?」


と言った。


「私は聞いていません」


まつは兄たちを見る。


「この三人が知っています」


ちよは宗直を見た。


「私はあなたたちには話していないわよ」


「分かっています」


宗直が答える。


「政子様と母上のお話が、少し聞こえてしまって」


「三人とも?」


「たまたまです」


光成が言った。


三郎も続く。


「私も、姉上の名前と京と縁談というところだけです」


まつが振り向いた。


「もう一度言わなくていい!」


「申し訳ありません」


ちよは少し困った顔をした。


「まつ」


「はい」


「あなたには、これから話すつもりだったの」


まつは黙った。


「政子様から聞いたばかりだったから。まず、ちゃんとあなたに話してからと思っていたのよ」


「……兄上たちには?」


「話していないわ」


ちよは三人を見る。


「この人たちが聞いてしまっただけ」


宗直が申し訳なさそうに頭を下げた。


まつは少しだけ息を吐いた。


自分だけ除け者にされていたわけではなかったらしい。


それでも、まだ気持ちは落ち着かない。


「母上」


「うん」


「話してください」


ちよはうなずいた。


「ここでいい?」


まつは兄たちを見る。


三人とも、明らかに続きを聞きたそうな顔をしている。


あやだけは、本当に何も分かっていない。


「二人で聞きます」


「そうね」


ちよは三人の息子を見る。


「続きは待っていて」


三郎が尋ねた。


「あとで聞けますか」


「まつが話したければね」


三郎は、今度は素直に黙った。


二人きりになると、ちよは少し間を置いてから話し始めた。


「政子様が、まつに縁談を持ってきてくださったの」


分かっていたはずなのに、実際に聞くと胸の奥がざわついた。


「……京の方ですか」


「そうよ」


「どなたです?」


「藤原季成という方」


「すえなり……」


まつは知らない名を口の中で繰り返した。


「藤原北家の日野の流れにつながる家の人だそうよ。年は、まつより五つか六つ上だったと思う」


「何をしている方なのです?」


「今は文章生だと聞いたわ」


文章生とは、朝廷で働くために漢文や歴史、文書の作り方などを学ぶ者である。


まつはすぐに聞き返した。


「どんな方なのです?」


ちよは少し考えた。


「そこまでは、まだよく分からないの」


「分からないのですか」


「ええ。私は会ったこともないもの」


「政子様は?」


「お名前や家のことは聞いているみたい。でも、まつが気にしているようなことまでは、今日の話だけでは分からなかったわ」


「私が気にしていること?」


「どんな話し方をする人なのかとか、何が好きなのかとか」


まつは少し驚いた。


「そういうことまで?」


「気になるでしょう」


ちよは当たり前のように言った。


まつは黙った。


確かに気になる。


「どうして、私なのですか」


今度は、ちよの返事が少し遅くなった。


「鎌倉と京の間に縁ができれば、という話はあるわ」


まつは母を見る。


「では、私は鎌倉と京をつなぐために嫁ぐのですか」


「そういう意味がないとは言えないわね」


ちよはごまかさなかった。


「家同士の話だもの」


まつは膝の上で手を握った。


「家と家のことが大切なのは分かっています」


「うん」


「でも、夫婦になるのは家ではありません」


ちよは少しまつを見た。


「そうね」


その返事は、思っていたよりあっさりしていた。


「……母上は、そう思うのですか」


「思うわよ。家のことも大事。でも、季成殿と暮らすのはまつでしょう」


まつは黙った。


「では」


少し迷ってから尋ねる。


「私が嫌だと言ったら、どうするのです?」


「そのときは断るわ」


「政子様からのお話でも?」


「それは気を遣うけれどね」


ちよは少し笑った。


「でも、あなたが嫁ぐのだから」


まつは母の顔を見た。


「母上は、季成殿をどう思っています?」


「まだ分からない」


「ずいぶん簡単に言いますね」


「だって、知らないもの」


ちよは首をかしげた。


「知らない人を、いい人だとも悪い人だとも言えないでしょう」


まつは思わず小さく笑った。


その言い方には覚えがあった。


父も、よく似たことを言っていた。


分からないことを、分かったふりで決めるな。


けれど、母は父ほど理屈っぽくは言わない。


「では、どうするのです?」


「知ればいいんじゃない?」


「季成殿のことを?」


「ええ」


ちよは続けた。


「どんな人なのか。どうしてこの話を受けようと思ったのか。まつのことを、向こうはどう聞いているのか」


「そこまで聞けますか」


「聞いてみなければ分からないでしょう」


また、まつは少し笑った。


「母上は、そういうところがありますね」


「何が?」


「分からないと、すぐ聞こうとするところです」


「そう?」


「父上の影響ではないのですか」


ちよは少し考えた。


「それは前にも言われたわね」


「では?」


「私はもともと、分からないことは聞くの」


まつは、とうとう声を出して笑った。


以前にも聞いた言葉だった。


「でも」


まつは笑いを収めた。


「京には興味があります」


「知っているわ」


「行ってみたいと思ったこともあります」


「それも知っている」


「でも、京へ嫁ぐのは別です」


ちよはうなずいた。


「そうね。それは別の話よ」


「家を離れることになります」


「うん」


「相手のことも知りません」


「だから、今すぐ返事をしなくていいの」


まつは少し驚いた。


「いいのですか」


「嫌なのか、嫌ではないのかも、まだ分からないのでしょう?」


「……はい」


「なら、分かるところまで考えればいいわ」


ちよはそう言ってから、少しだけ笑った。


「私も、その季成殿がどんな人なのかは気になるし」


「母上」


「何?」


「私の縁談ですよ」


「分かっているわよ」


「少し楽しんでいませんか」


「少しだけ」


まつは呆れたように母を見た。


けれど、不思議と嫌ではなかった。


「では、まず知りたいです」


「何を?」


「季成殿のことを」


ちよはうなずいた。


「そうしましょう」


「それから決めても?」


「もちろん」


まつは、ようやく肩の力を抜いた。


答えはまだ出ていない。


京へ嫁ぎたいとも思っていない。


断りたいとも、まだ思っていない。


ただ一つだけ決まった。


知らないままでは決めない。


それでいいのだと思えた。


二人が戻ると、宗直、光成、三郎がそろってこちらを見た。


あやもいる。


「終わった?」


あやが聞いた。


「終わったわ」


まつが答える。


宗直が慎重に尋ねた。


「それで……」


まつは兄を見る。


「兄上」


「何だ」


「その前に、三人には話があります」


宗直の顔が固まった。


光成が目をそらす。


三郎だけが聞いた。


「何の話ですか」


「盗み聞きです」


「ですから、盗み聞きではなく――」


「三郎」


「はい」


「まず、私の目を見なさい」


三郎は仕方なさそうに顔を上げた。


その横で、あやがもう一度尋ねた。


「それで、縁談って何?」


一瞬、家の中が静かになった。


まつは兄たちを見る。


兄たちは、誰もあやを見なかった。


「……あやには、誰も話していなかったのですね」


「俺ではない」


光成がすぐ言った。


「私でもありません」


三郎も言う。


宗直はため息をついた。


ちよだけが、少し笑っていた。


まつの答えは、まだ決まっていない。


けれど、京からやってきた話は、もう二階堂家の中に入り込んでいた。

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