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二階堂一族、鎌倉時代を賑やかに生きる。――亡き父親は転移者!  作者: これってなんだろう
第二部 鎌倉がざわめくころ、二階堂家の日々――承元二年~三年(1208~1209年)
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幕間1 ちよは、直成が年齢を気にすることを不思議に思った

元暦元年(1184年)、鎌倉。


直成に会う用事がある日は、家を出る前から話すことを考えていた。


頼まれた文書を届けること。預かった言付けを、間違えずに伝えること。


そのあとに、少し話せるだろうか。


ちよは衣の袖を直し、もう一度、言付けを思い返した。


 ◇


直成は、顔を上げて人の話を聞く。


初めは、仕事のためだと思っていた。


誰から預かったのか。誰へ渡すのか。いつまでに返事が要るのか。


一つずつ尋ねられるので、ちよも、次に来るときには先に確かめるようになった。


けれど、仕事に要らない話も覚えていた。


家の用事で、二か所へ行った日のことだった。急いだのに、帰ってから別の頼まれ事を思い出した。


直成へ話している途中で、ちよは言葉を止めた。


こんな話を聞いていて、面白いだろうか。


「退屈ではありませんか」


「いえ」


「大した話ではありません」


直成は筆を置いた。


「それで、間に合ったのですか」


「……何が?」


「もう一つの用事です」


ちよは、直成の顔を見た。


相手が出かける前に着いたのか。その続きを、この人は待っていた。


ちよが話し始めると、直成は広げていた紙を脇へ寄せた。


帰り道で、ちよは自分ばかり話してしまったと思った。


次は、直成の話を聞こう。


そう考えてから、次に来る用事は、まだ頼まれていなかったことを思い出した。


 ◇


雨で帰れなくなった日もあった。


直成は濡れないところを空け、ちよが座ると仕事へ戻った。


一行書いて、こちらを見る。


また少し書き、顔を上げる。


ちよは、今度目が合ったところで笑った。


「無理に、お話を探さなくても」


筆が止まった。


「分かりますか」


「何度も、こちらを見るので」


直成は紙へ目を戻した。


ちよも庭を見た。


雨が軒から落ち、土の上に小さな穴を作っていた。隣では、筆の動く音がした。


黙っていると、帰る頃合いかと気になることがある。


その日は雨が降っていたので、急いで立たずに済んだ。


やがて、筆の音が止まった。


「今のところは、何と書いたのですか」


尋ねると、直成は紙をこちらへ向けてくれた。


 ◇


話すことがなくても、もう少しここにいたい。


そう思うようになってから、帰り際が難しくなった。


直成は門まで送ってくれる。次に来たときには、前にどこまで話したか覚えている。


ちよが笑うと、直成も笑う。


けれど、用事が済めば帰るのは、自分だった。


来るのを待っているのか。


来たから話してくれるのか。


家へ戻ってから考えても、分からなかった。


 ◇


人の声が遠のいた書き物の間に、直成とちよだけが残っていた。


直成は、広げていた紙を重ねている。


ちよは少し離れたところに座り、その手元を見ていた。


もう、紙の端はそろっていた。


このまま立てば、いつものように門まで送ってくれるだろう。


次に来る日まで、また考えることになる。


ちよは膝の上で手を重ねた。


今なら、ほかに聞いている人はいなかった。


「直成殿」


「はい」


「私のことを、どう思っていますか」


紙をそろえる手が止まった。


直成が顔を上げる。


ちよは目をそらさなかった。


仕事のことであれば、この人は、分かるところから答えてくれる。


今も、そうしてくれればよかった。


ところが、直成は何も言わない。


ちよを見たあと、少し視線を下げた。


「……それは」


言葉が続かなかった。


ちよは待った。


問いを取り消すつもりはなかった。


今日聞かなければ、次に会うまで、また同じことを考える。


「お答えしにくいですか」


「いえ。そういうわけでは」


直成は紙から手を離した。


何か言いかけて、やめる。


それから、思いがけないことを尋ねた。


「ちよ殿は、おいくつですか」


「十六です」


「そうですか」


直成は、また黙った。


ちよは自分の答えを考え直した。


年は、間違えていない。


直成の指が、紙の端へ戻った。もうそろっているのに、少し押し直している。


「僕は、三十三なんです」


「三十三」


ちよは、その数を繰り返した。


自分より年上なのは、見れば分かる。


顔立ちは整っているが、若い兄たちとは、落ち着き方も話し方も違っていた。


けれど、それを気にして話したことはなかった。


「十七も、離れています」


直成が言った。


ちよは、その顔を見た。


「はい」


直成は、こちらの返事を待っているようだった。


ちよも、直成の返事を待っていた。


しばらくして、ちよは尋ねた。


「それは、私のことをどう思っているかのお答えですか」


直成が顔を上げた。


「……違いますね」


「では、その続きも聞かせてください」


直成は困ったように笑った。


ちよは、やはりこの人と話すのが好きだと思った。


だからこそ、続きを聞きたかった。


十七年離れていることは、分かった。


その数を、どうして直成がこれほど気にしているのか。


ちよには、そちらの方が不思議だった。

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