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二階堂一族、鎌倉時代を賑やかに生きる。――亡き父親は転移者!  作者: これってなんだろう
第二部 鎌倉がざわめくころ、二階堂家の日々――承元二年~三年(1208~1209年)
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第12話 五人きょうだいは、鎌倉の町と和田義盛に出会う

承元二年(1208年)、鎌倉。


「町へ行くなら、これもお願い」


朝餉のあと、ちよがまつへ小さな木枠を渡した。糸を巻くために借りていたものだった。


「返してくればいいの?」


「ええ。それから、頼んでおいた紐を受け取ってきてちょうだい」


まつがうなずく横で、あやが籠を持ち上げた。


「私も行く」


「お前は、さっきまで与一と遊ぶと言っていただろう」


三郎が言うと、あやは籠を抱えた。


「帰ってきたら遊ぶの」


庭では、光成が草鞋を履いていた。


「俺も出る。水の流れを見ておきたいところがある」


「町へ行くんでしょう?」


おりんが、梅を抱いたまま夫を見る。


「その途中だ」


「途中で帰る方を忘れないでね」


「忘れない」


まつは光成から籠を取った。


「私たちも一緒だから、大丈夫よ」


宗直も門へ向かってきた。御所へ届ける文があるという。


結局、五人で出かけることになった。


「皆、別々の用事なのね」


ちよが見送る。


「帰りは一緒に帰ってきてちょうだい。誰かを探しに戻るのは困るわ」


あやが四人を見回した。


「次郎兄が一番心配」


「まだ何もしていないだろう」


光成が言うと、まつが笑った。


 ◇


屋敷を出てしばらく行くと、道に水たまりが残っていた。


三郎は馬の蹄の跡を避けて歩いた。光成はその隣で、道端の溝を見ている。


「ここで水が止まるのか」


「次郎兄」


まつが呼んだ。


「分かっている。見ただけだ」


「まだ何も言っていません」


「言いそうだった」


あやは水たまりをまたぎ、籠を持つまつの隣へ並んだ。


若宮大路へ出ると、人の声が増えた。


鶴岡八幡宮から南へ延びる広い道には、馬を引く者、荷を背負う者、文を抱えて急ぐ者が行き交っていた。屋敷の門の前を通り過ぎると、縄や籠を並べた店が見える。


何度も歩いた道だった。


けれど、五人そろって歩くと、誰かが気づくたびに足が止まった。


「同じ籠なのに、値が違う」


あやが店先を見た。


「大きさが違うだろう」


宗直が答える。


「同じくらいだよ」


光成が少し離れたところから見た。


「底の編み方が違う。あちらの方が丈夫そうだ」


「重いものを入れるなら?」


「たぶん、あちらだな」


あやはもう一度、二つの籠を見比べた。


その間に、三郎は宗直の持つ文へ目を向けていた。


「兄上。それは、今日中に届けるのですか」


「ああ」


「では、先に届けた方がよいのでは」


「お前たちが止まったんだろう」


まつが籠を抱え直した。


「まず用事を済ませましょう」


そのとき、道の先から大きな声が響いた。


「押すな。荷を下ろせと言っておる!」


光成が顔を上げた。


「あの声は」


宗直も、人だかりの方を見る。


「和田殿だな」


 ◇


荷車の片輪が、ぬかるみにはまっていた。


運び手が後ろから押している。その横で、和田義盛が荷を下ろす場所を示していた。


「重いまま押しても動かぬ。まず、こちらへ移せ」


「和田様」


宗直が声をかけると、義盛が振り向いた。


「おう、宗直殿か。ちょうどよい。少し手を貸してくれ」


宗直は文をまつへ預けた。


光成は、すでに車輪のそばへしゃがんでいる。


「ここを掘った方が早い。前へ出そうとしても、土に引っかかる」


運び手がうなずき、車輪の前の泥を除き始めた。


三郎も荷へ手を伸ばす。


「それは重いぞ」


宗直に言われ、持ち上げかけた手を止めた。


「持てます」


「向こうを持て。一人で抱えるな」


二人で荷を運び、道の端へ置く。


まつは預かった文を濡らさないよう懐へ入れ、あやを荷車から離れたところへ連れていった。


「ここで待っていて」


「あの荷、まだ道に出ているよ」


あやが指さした。


まつは運び手へ声をかけ、通る人のために荷をもう少し脇へ寄せてもらった。


やがて、車輪の前に板が差し込まれた。


「今だ」


義盛の声に合わせ、宗直と光成、運び手たちが車を押す。


車輪が泥を離れた。


三郎も後ろから押した。車が固い地面へ出ると、ようやく皆の手が止まった。


「よし。これなら行ける」


義盛が笑った。


三郎は手についた泥を見た。光成は、車輪が抜けた跡をまだ見ている。


「次郎兄上、もう動きましたよ」


「道の低いところへ水が寄っている。これでは、また誰かがはまる」


義盛が、その場所を見下ろした。


「あとで見ておく者が要るな」


光成はうなずいた。


「俺も、もう少し――」


「次郎兄上」


まつが呼んだ。


光成が振り向く。


まつは空の籠を見せた。


「紐」


「……そうだった」


義盛が声を上げて笑った。


 ◇


「五人そろって、どこへ行く」


義盛に聞かれ、宗直が用事を説明した。


「俺だけは御所へ」


「なら、早く届けてこい。文まで泥にはめるなよ」


まつは懐から文を取り出し、宗直へ返した。


三郎が義盛を見る。


「父上も、お手伝いをしたことがあるのですか」


「何のだ」


「こういう、道で困っている人のことです」


義盛は少し考えた。


「手伝いに来て、こちらの用事を増やす男ではあったな」


まつが笑った。


「何を聞かれたのです?」


「誰の荷だ、どこへ運ぶ、いつまでに着かねばならぬ。そのうち、俺まで運び先の心配をすることになった」


義盛は、積み直されていく荷を見た。


「だが、今日はお前たちのおかげで早く済んだ。礼を言う」


三郎は少し背筋を伸ばした。


光成は、裾についた泥を払っている。


あやがそれを見た。


「おりん姉上に言われるよ」


「帰る前に落とす」


「いつも、そう言っているでしょう」


まつが返すと、義盛はまた笑った。


 ◇


木枠を返し、紐を受け取り、宗直が戻ってくるのを待った。


店の軒先では、あやがまつと一緒に銭を数えた。三郎は紐の長さを確かめ、光成は籠を持った。


五人が再びそろったころには、道を行く人の顔ぶれも変わっていた。


「少しだけ、浜の方を見て帰らないか」


光成が言った。


まつが兄を見る。


「今度は何を見るの?」


「船から荷を下ろしている」


あやがすぐに顔を上げた。


「見たい」


三郎は宗直を見た。


宗直は空を見上げ、それから言った。


「少しだけだぞ」


浜へ近づくと、潮のにおいがした。


道の土に、細かな砂が混じり始めた。三郎は足の裏に入った小石を落とそうとして、少し遅れた。


前では、あやがまつの袖を引いている。まつは妹の指す方を見てから、通りかかる荷を避けた。


光成はもう、水際の足元を見ていた。宗直が三郎を振り返り、そろうのを待った。


三郎も急いで隣へ並ぶ。


家の中では何度も呼ばれる名前が、浜の人声に混じると、少し聞き取りにくかった。


船のそばでは、何人もの男が荷を運んでいた。一人が持ち上げ、次の者へ渡し、その先で別の者が並べている。


あやが、その手の動きを目で追った。


「あれなら、全部の人が船まで行かなくていいんだね」


光成がうなずいた。


「道も空く」


三郎は、さっきの荷車を思い出した。


同じ荷を運ぶのでも、やり方はいくつもあるらしい。


「帰るぞ」


宗直が言った。


今度は、誰も立ち止まらなかった。


 ◇


家へ戻ると、ちよが籠を受け取った。


「ありがとう。皆、一緒だったのね」


「和田殿に会いました」


三郎が言う。


「荷車を押したの」


まつが続けた。


ちよは五人の足元を見た。


「それで、皆そろって泥だらけなのね」


「俺だけではないぞ」


光成が言うと、おりんが奥から顔を出した。


「だからといって、そのまま上がっていいわけではありません」


五人は、戸口で並んで足を拭くことになった。


あやが隣の三郎を見る。


「私たちも、荷を運ぶ人みたい」


「何がです」


「順番を待っている」


まつが笑った。


「では、次の人のために早く拭いて」


三郎は黙って、布を足の裏へ回した。


* * *


【今回登場した歴史人物】


和田義盛


源頼朝の挙兵を支えた有力御家人の一人です。御家人の統率や軍事・警察の仕事に関わる侍所で、初代の別当を務めました。

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