第66話 二階堂家は、将軍の死を知らされても家族を待つ
建保七年(1219年)、正月二十七日、夜。鎌倉、鶴岡八幡宮。
上の方で、松明が動いていた。
儀式を終えた人々が、帰りの支度をしている。
行嗣は、通り道へ出ないように一歩退いた。
雪の中で待っていた者たちも、顔を上げていた。
もう、帰る。
行嗣は包みを抱え直した。
家へ戻ったら、しづに礼を言おう。
用意してくれた衣が役に立ったことを伝え、そのあと、妻の話を聞こう。
前の方で、人の声がした。
誰かを呼ぶ声だった。
行嗣には、名前までは聞き取れなかった。
*
実朝は、神前での儀式を終え、退出しようとしていた。
朝廷の正式な装束である束帯を身につけ、笏と呼ばれる細長い板を手にしている。
周囲には、付き従ってきた人々がいた。
その中に、源仲章もいる。
京の学問と朝廷の実務に通じ、実朝に仕えていた人物だった。
帰りの動きが始まった、そのときだった。
僧の姿をした男が飛び出した。
鶴岡八幡宮の別当、公暁だった。
別当とは、この寺社をまとめる責任者である。
公暁は、実朝の兄・頼家の子だった。
男が刃を振るった。
実朝の体が崩れた。
声が上がった。
人々が後ろへ退き、互いにぶつかった。
仲章にも刃が向けられた。
祝いの儀式を終えた場所で、二人が倒れた。
「父の敵を討った」
公暁は、そのような意味の言葉を叫んだ。
だが、その叫びだけで、事件の理由も、関わった者も分かるわけではなかった。
誰が何を考えていたのか。
誰が何を知っていたのか。
その場にいた人々にも、全体は見えていなかった。
*
行嗣が聞いたのは、重なった叫びだった。
それまでとは違う声だった。
松明が大きく揺れた。
上の方で、人が走っている。
「退け!」
誰かが叫んだ。
行嗣は、何が起きたのか確かめようと顔を上げた。
その前を、男が走り抜けた。
後ろから人が押され、行嗣の肩へぶつかった。
足が滑った。
手をつこうとして、包みを一つ落とした。
「何があった!」
「刃だ!」
「鎌倉殿が――」
言葉は、そこで別の声にかき消された。
行嗣は雪の上の包みを拾った。
紐がついていた。
しづの用意した衣を包んでいた布だった。
握った手に力が入らない。
もう一度、つかみ直した。
上の方へ駆けていく武士がいた。
反対に、こちらへ下りてくる者もいる。
何かを叫んでいたが、行嗣には聞き分けられなかった。
行嗣は脇へ寄った。
倒れた者を、そばの二人が起こしている。
自分も手を伸ばし、片方の腕を支えた。
男が立ち上がると、行嗣の手を離れ、人の流れへ戻っていった。
どちらへ行けばよいのか。
上で何があったのか。
行嗣は、もう一度、灯りの方を見た。
実朝が下りてくる姿は、見えなかった。
*
しばらくして、周囲の声の中に、同じ言葉が増えた。
鎌倉殿が襲われた。
命を落とされた。
仲章殿も倒れた。
公暁が刃を振るった。
行嗣は、一つずつ聞いた。
聞いた言葉を、頭の中で並べようとした。
けれど、並べたそばから、別の声が入り込んでくる。
誰が見たのか尋ねたい。
どこまで確かめられたのか聞きたい。
いつもなら、そうする。
今は、口が動かなかった。
実朝が死んだ。
その言葉を、聞いた。
しかし、少し前まで御所にいた実朝は、行嗣の包みを見て笑っていた。
冷えるから気をつけよと言った。
その声が、まだ耳に残っている。
行嗣は立っていた。
人々が動いても、すぐには動けなかった。
*
二階堂家にも、異変の知らせが届いた。
最初は、八幡宮で騒ぎが起きたという話だった。
続いて、実朝が襲われたと伝わった。
宗直が立ち上がった。
光成も、すぐ後に続いた。
ふみが宗直の腕へ触れた。
「三郎を捜しに?」
「ああ。八幡宮の方へ行っている」
「どの道を通りますか」
宗直は答えた。
ふみは、聞き終わるまで腕を離さなかった。
おりんは光成へ衣を渡した。
「二人で戻ってきてください」
光成は受け取った。
しづも立っていた。
「私も――」
言いかけて、門の方を見た。
今から全員が外へ出れば、行嗣が先に帰ったとき、誰に知らせればよいか分からなくなる。
しづは息を吸った。
「私は、こちらで待ちます。三郎様が先にお戻りになったら、すぐ分かるように」
宗直がうなずいた。
「連れて帰る」
しづは兄の顔を見た。
「はい。お二人も、お気をつけて」
そのとき、あやが口を開いた。
「太郎兄、少し待って」
宗直が振り返った。
「どうした」
「小太郎様も、今日は御所の方にいるの。おじさんのお仕事を手伝っているから」
「時景殿か」
「うん。何かあったら、北条家にも知らせないと」
宗直は考えた。
「義時殿のところには、もう知らせが届いているだろう」
「そう思う。でも、小太郎様がどこにいるのか、私はまだ知らない」
あやは門の方を見た。
「私が外へ出て探しても、行き違いになるでしょう」
「そうだな」
「だから、こちらにいることを知らせたいの。北条家から人が来たら、私は母上のところにいるって伝えてもらえる?」
宗直がうなずいた。
「分かった。家の者にも伝えておこう」
ちよが娘の肩へ手を置いた。
「あや。時景殿のことが心配でしょう」
「ええ」
あやは、素直に答えた。
「でも、小太郎様は、今、おじさんのお手伝いをしていると思う」
「そうね」
「だから、私はここで待つ。三郎兄も帰ってくるし」
ちよは、娘の手を握った。
宗直と光成が門を出た。
しづは、その姿が見えなくなっても、しばらく動かなかった。
ちよが隣へ来た。
「ここで、待ちましょう」
しづはうなずいた。
口を開いたら、泣いてしまいそうだった。
*
そのころ、北条義時のもとにも、八幡宮での事件が伝えられていた。
時景は、届けられる知らせを聞き、必要な相手へ伝える仕事をしていた。
「鎌倉殿が襲われたという話と、お亡くなりになったという話が届いております」
時景が言った。
義時は、厳しい顔をしていた。
「誰が見た」
「直接見た者からの知らせもあるようですが、まだ確かめております」
「公暁の行方は」
「捜している者たちがいます」
義時はうなずいた。
「確かなことから伝えよ。噂だけで人を動かすな」
「承知しました」
時景は頭を下げた。
義時は、しばらく黙っていた。
それから言った。
「鎌倉殿が亡くなられたとなれば、明日からの政務も変わる」
「はい」
「今夜のうちに、誰がどこにいるのか確かめねばならぬ」
時景はうなずいた。
やるべき仕事は、次々に増えていた。
それでも、頭の片隅には、あやのことがあった。
今朝、別れるとき、あやは二階堂家へ寄ると言っていた。
仕事が済んだら知らせると約束した。
まだ、知らせを送っていない。
「義時様」
時景が声をかけた。
「何だ」
「あやは、今夜、二階堂家におります。無事を知らせる者を一人、向かわせてもよろしいでしょうか」
義時は時景を見た。
「二階堂家か」
「はい」
「宗直たちも、今夜は動いているだろうな」
「行嗣殿は、八幡宮の方にいると聞いております」
義時の表情が変わった。
「三郎が?」
「はい」
義時は、少し考えた。
「ならば、二階堂家の者たちの安否も確かめよ。あやにも、お前が無事であると伝えてやれ」
「ありがとうございます」
「礼はよい。戻った知らせも、こちらへ寄越せ」
「承知しました」
時景は、すぐに人を手配した。
自分が行きたい気持ちはあった。
けれど、今は義時のそばを離れられない。
あやなら、きっと分かってくれる。
そう思いながら、次の知らせを受け取った。
*
宗直と光成が行嗣を見つけたのは、八幡宮から離れた道だった。
人の流れから外れ、道の端に立っている。
二つの包みを、両腕で抱えていた。
「三郎!」
行嗣が顔を上げた。
宗直が近づき、肩をつかんだ。
「怪我は?」
「ありません」
「本当か」
「転びかけましたが、立てました」
光成が弟の顔をのぞいた。
「何があった」
行嗣は口を開いた。
「鎌倉殿が」
続かなかった。
宗直の手に力が入った。
行嗣は、兄を見た。
「私は、下にいて」
「分かった」
宗直が言った。
「今は、帰ろう」
光成が、包みを一つ受け取った。
行嗣は離そうとしなかった。
「三郎。落とさぬ。俺が持つ」
光成がそう言うと、ようやく指が緩んだ。
三人は家へ向かった。
宗直が弟の隣を歩き、光成が反対側へついた。
途中、行嗣が足を止めた。
二人も止まった。
弟が歩き出すまで、待った。
*
二階堂家へ、北条家からの使いが来たのは、それから間もなくのことだった。
あやは、知らせを聞いて門へ出た。
使いの男が頭を下げた。
「時景様は、義時様のもとでお役目を続けておられます。お怪我はありません」
あやは、息を吐いた。
「そう。よかった」
「今夜は、戻りが遅くなるとのことです」
「分かりました。こちらにいると伝えてください」
「承知しました」
男は続けた。
「二階堂家の皆様のご無事も、お尋ねするようにとのことでした」
あやは、少しだけ黙った。
「三郎兄が、まだ帰ってきていないの」
使いの男が顔を上げた。
「太郎兄と次郎兄が、迎えに行っている。帰ってきたら、知らせを送るね」
「かしこまりました」
男が帰ろうとすると、あやが呼び止めた。
「それから」
「はい」
「小太郎様に、無理をしすぎないようにって伝えて」
男は、少し表情を緩めた。
「承知しました」
あやは門を閉めた。
ちよが待っていた。
「時景殿は?」
「無事だって」
「よかったわね」
「ええ」
あやは母を見た。
「でも、まだ帰れないんだって」
ちよはうなずいた。
「今夜は、鎌倉中が大変でしょうから」
あやは、しばらく黙っていた。
それから言った。
「小太郎様が帰ってきたら、温かいものを用意してあげたいな」
「そうしてあげなさい」
ちよは娘の肩を抱いた。
*
門が開く音に、しづが顔を上げた。
あやが灯りを持って戸口へ出た。
宗直、光成、その間に行嗣。
三人ともいた。
しづは駆け寄った。
「三郎様」
夫がこちらを見た。
返事が遅かった。
「ただいま、戻りました」
いつもの言葉だった。
声は、いつもと違った。
しづは夫の腕へ手を添えた。
「怪我をなさいましたか」
「ありません」
行嗣は答えた。
「衣も、使いました。寒かったので」
しづはうなずいた。
「はい」
「御所で、御台所が」
夫は続きを話そうとした。
何か、伝えたいことがあるらしい。
しづは腕を離さなかった。
「あとで、お聞きします」
行嗣がうなずいた。
その口元が、少し動いた。
笑おうとしたように見えた。
けれど、笑えなかった。
*
宗直は、家へ入っても座ろうとしなかった。
「皆、戸口から離れてくれ。外の様子も、もう少し確かめねば」
ふみが夫の前へ立った。
「その前に、こちらへ」
「ふみ、今は――」
「三郎を連れて帰ってくれましたね」
宗直の目が動いた。
「あなたも、帰ってきてくれました」
ふみは袖についた雪を払った。
夫の手が、自分の肩越しに戸口を指そうとする。
その手を、両手で包んだ。
冷たかった。
「次のことは、座ってから話してください。私も、一緒に聞きます」
宗直は、ふみを見た。
しばらくして、膝を折った。
ふみも隣へ座った。
「三郎が、どこにいるか分からなくて」
宗直が言った。
「はい」
「声をかけても、聞こえぬかもしれぬと思った」
ふみは、夫の手を握ったまま聞いた。
宗直がもう片方の手で、顔を覆った。
「見つかって、よかった」
声が小さくなった。
ふみは夫の肩へ腕を回した。
幼いころから知っている人だった。
困っている者を見つけると、自分のことを後にしてしまう。
その人が今、自分の隣で、弟を見つけた安堵に息を詰まらせていた。
「ええ。よかった」
ふみは、夫が顔を上げるまで、肩を抱いていた。
*
光成は、受け取った包みを置いた。
手を開き、閉じた。
指が震えていた。
「どうして、あれだけ人がいて」
言葉が途切れた。
「どうして、鎌倉殿が」
おりんは、夫の前へ座った。
光成は庭を見た。
帰ってから直すと約束した戸が、目に入った。
夕方には、ちゃんと動くようになっていた。
そのあと、実朝が死んだという知らせが来た。
「俺は、ここで」
「戸を直しておりましたね」
おりんが答えた。
「何も知らずに」
「私も、一緒におりました」
光成は妻を見た。
おりんは夫の手を取った。
手のひらに、木を扱った跡が残っている。
「知らせを聞いてから、三郎を迎えに行ってくれました。今は、戻ってきたあなたが冷えています」
おりんは乾いた布で、その手を拭いた。
光成は、また外へ目を向けた。
「俺が行っていたら、何か――」
「何ができたかは、私にも分かりません」
おりんは言った。
光成が口を閉じた。
「でも、あなたが帰ってこなかったら、私は門で待ち続けておりました」
妻の手を、光成が見た。
おりんは少し身を寄せた。
「帰ってきてくれて、よかった」
光成の肩が下がった。
握っていた手が、ゆっくり開いた。
おりんは、その手を自分の膝へ置いた。
光成が顔を伏せると、背へ手を回した。
いつもは、先へ歩いていく夫を呼び止める。
今夜は、自分のそばへ戻ってきた夫を、そのまま抱いた。
*
行嗣は、包みの紐をほどこうとしていた。
指がうまく動かない。
ほどいたはずのところを、また引いてしまう。
しづは、夫の隣へ座った。
「私が、ほどいてもよいですか」
行嗣はうなずいた。
しづが結び目を緩めると、布の内側は湿っていた。
夫は、それを見た。
「雪の上へ落としました」
「はい」
「すぐに拾いました」
「お持ち帰りくださったのですね」
「紐が、ついていたので」
しづの手が止まった。
それが、何の包みか分かった。
だから拾った。
今夜の混乱の中でも、行嗣はそのことを伝えようとしていた。
しづは包みを脇へ置いた。
夫の手に、自分の手を重ねた。
「三郎様。こちらを見ていただけますか」
行嗣が顔を向けた。
目は合った。
けれど、何かを探すように、すぐ動いた。
「鎌倉殿が、今日、話してくださって」
「はい」
「私は、そこにいたのに」
しづは聞いていた。
「何が起きたのか、見えなくて」
夫の息が乱れた。
「分からないのです。人が動いて、声がして」
しづは手を握り直した。
「今、順に話さなくてもよいです」
行嗣の顔が歪んだ。
「何を見たのか、残しておかないと」
「お話しできるようになったら、私も一緒に確かめます」
「忘れてしまうかもしれない」
しづは少し考えた。
「では、どうしても今、残したいことがあれば、私が書きます」
行嗣は、しづを見た。
「でも、その前に」
しづは、夫の手を自分の方へ引いた。
「少しだけ、こうしていてください」
腕を回した。
夫の衣は冷たく、肩は固かった。
行嗣は、最初、動かなかった。
しづは抱いたまま待った。
やがて、夫の手が、しづの背へ触れた。
「しづ殿」
「はい」
「怖かった」
しづは目を閉じた。
自分も怖かった。
知らせが来てから、門が開くまで。
帰ってきた姿を見てからも、夫が何を見たのか分からなくて、怖かった。
「私も、お帰りになるまで、怖かったです」
声が震えた。
行嗣の腕に力が入った。
しづは、もう一度言った。
「帰ってきてくださって、うれしいです」
夫の額が、肩へ触れた。
しづは、その重さを受け止めた。
今日は、自分が上手に話せなくてもよいと思った。
何と言えば夫が楽になるのか、まだ分からない。
けれど、この人を一人で座らせておきたくなかった。
*
ちよは、三組の夫婦を見ていた。
あやが、戸を閉めた。
外の冷たい風が止まった。
家人には、外へ出る者があれば行き先を伝えるよう頼んだ。
分からない知らせを、確かなこととして広げないようにも伝えた。
あやは、時景へ送る短い文を書いていた。
三人の兄が、無事に戻ったこと。
自分も、母の家にいること。
そして、時景の無事を知らせてもらえて安心したこと。
書き終えると、母のそばへ座った。
「あや」
娘が母を見た。
「灯りを、ありがとう」
あやはうなずいた。
「小太郎様にも、兄上たちが帰ったことを知らせておくね」
「そうしてあげなさい」
「今夜は、まだお仕事が続くと思うけど」
「ええ」
「私も、もう少しここにいる」
ちよは娘の手を取った。
「分かったわ」
しばらくして、行嗣の声がした。
「母上」
ちよは息子の方を向いた。
しづは夫のそばを離れていなかった。
「鎌倉殿が、亡くなられたと」
行嗣が言った。
「私は、倒れるところを見たのではありません。周りの者から、そう聞きました」
ちよはうなずいた。
「分かったわ。今、話してくれたのは、聞いたことなのね」
「はい」
「あなたが見たことは、落ち着いてから聞きます」
行嗣は、しづを見た。
妻が小さくうなずいた。
「今日は、御所でお話ししました」
息子は、また言った。
「皆の支度が済んで、鎌倉殿も、お出ましになって」
そこから先は、続かなかった。
ちよは待った。
誰も、先を急がせなかった。
ふみは宗直の肩へ寄り添い、おりんは光成の手を握っていた。
しづは、行嗣の背をゆっくり撫でていた。
今日、家を出た人々が戻ってきた。
けれど、実朝は御所へ帰らない。
その知らせが、少しずつ、家の中へ届いていた。
ちよは、亡き夫のことを思い出した。
直成は、実朝の行く末を案じていた。
未来を知っていたはずの夫が、どうしても確かめられなかったこと。
その一つが、今夜、現実になった。
直成さん。
あなたが心配していたことが、起きてしまいました。
ちよは、目を閉じた。
夫が生きていたら、何と言っただろう。
実朝を救えなかったことを悔やんだだろうか。
それとも、これからの鎌倉を案じただろうか。
ちよには分からなかった。
ただ、一つだけ、分かることがあった。
夫が守ろうとしたものは、まだここにある。
息子たちがいる。
娘たちがいる。
その夫や妻、子どもたちがいる。
そして、鎌倉には、今夜も暮らしている人々がいる。
ちよは、ゆっくり目を開けた。
「あや」
「はい、母上」
「時景殿が戻るまで、こちらで待っていなさい」
あやはうなずいた。
「ええ」
「戻られたら、温かいものを食べさせてあげてね」
「そうする」
ちよは、家の中を見渡した。
誰も、まだ落ち着いてはいなかった。
それでも、互いのそばにいる。
今夜は、それでよいと思った。
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## 登場人物紹介
**源実朝(みなもとのさねとも/1192〜1219年)**
鎌倉幕府の第三代将軍。建保七年(1219年)正月二十七日、鶴岡八幡宮で右大臣拝賀の儀式を終えた後、公暁に殺害されました。
**公暁**
第二代将軍・源頼家の子で、実朝の甥。鶴岡八幡宮の別当を務めていました。実朝暗殺の実行者ですが、事件の背後関係には不明な点があります。
**源仲章**
朝廷の学問や実務に関わり、実朝に仕えた人物。実朝暗殺の際に、仲章も殺害されました。
**北条義時(ほうじょう・よしとき/1163〜1224年)**
鎌倉幕府の有力御家人。実朝の死後、幕府の政治を支える中心人物となります。直成とは生前、鎌倉の将来について意見を交わした間柄でした。
**北条時景/小太郎**
あやの夫。北条一門につながる架空の人物。義時のもとで政務や連絡調整を学び、実朝暗殺の夜も事件への対応に当たっています。後に北条泰時の側近となります。
**二階堂行嗣/三郎**
直成とちよの三男。大江広元のもとで文書や訴訟の仕事に携わっています。実朝暗殺の現場近くに居合わせ、事件の知らせを聞きました。
**しづ**
行嗣の妻。夫の考え方をよく理解し、混乱して帰宅した行嗣に寄り添います。
**あや**
直成とちよの末娘。時景と婚姻し、北条家で暮らしています。事件の夜は二階堂家に滞在し、夫の無事を案じながら家族を支えています。
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※実朝暗殺の経緯は『吾妻鏡』『愚管抄』などに記された事件の大筋を踏まえています。事件の細かな場所や人々の動き、黒幕については史料による違いや不明な点があるため、断定していません。




