初めて知ること
知佳さんは、残っていたたち天を一つ摘まんだ。
「でも、仕事の話ばっかりで面白いですか?」
「はい。知らないことばかりなので」
「じゃあ、仕事以外は?」
「仕事以外?」
「こっちの人が何して暮らしてるかとか」
知佳さんが少し考える。
「私は……飲む」
「それは今、見れば分かります」
「ニタイさん、意外と失礼ですね?」
知佳さんが笑う。
「あとはDIYかな」
「でぃーあいわい?」
「自分で棚作ったり、家具直したりするやつ」
「知佳さんが作るんですか?」
「作りますよ。こう見えて」
「へえ……」
ニタイさんの目が、少し変わった。
「仕事で扱っている材料を使うんですか?」
「そうですね、社員割で安く買えたりします」
「……それはいいですね」
「仕事してると材料とか金具も覚えるから。店で見る時は役に立ちますよ」
「どんなものを作ったんですか?」
「この前は台所の棚」
「棚を、一人で?」
「小さいやつですけどね」
「それでも、自分で作るんですよね」
「まあ、好きなので」
「なるほど」
ニタイさんが、少し楽しそうに頷く。
「勉強になります」
「そんな大したこと言ってないですよ?」
「でも、面白いです」
「だから、それ褒めてます?」
「もちろん」
「ならいいけど」
知佳さんも笑った。
なんとなくさっきまでより、二人の会話が続くようになっている。
ふと見ると。
ハルさんも、そんなニタイさんを静かに見ていた。
その顔がほんの少しだけ、面白そうに見えた。
それからも。
知佳さんが最近あった仕事の失敗を話したり。
佐々木さんが牛に予定をひっくり返された話をしたり。
気づけば、知佳さんの徳利もほとんど空になっていた。
「ごちそうさまでした」
佐々木さんが先に席を立つ。
「明日も朝早いから、そろそろ帰るわ」
「牛さん待ってますもんね」
「待ってくれりゃいいんだけどな」
佐々木さんを見送って、知佳さんが時計を見る。
「あ。もうこんな時間」
鞄を引き寄せる。
「私も帰ろ。明日も仕事だし」
「もう帰るんですか?」
ニタイさんが言った。
知佳さんが、少し意外そうに見る。
「うん。明日も朝からだから」
「あ……そうですよね」
ほんの少し。
残念そうに見えたのは——気のせいだろうか。
「また来ますよ」
「はい」
「その時また、仕事の話でもします?」
「ぜひ」
即答してから。
「……DIYの話も」
「そっちも?」
「はい」
知佳さんが笑う。
「じゃあ、次までに愚痴、ネタも溜めときますね」
「愚痴は……溜めない方がいいのでは?」
「そこ真面目に返すんだ」
また笑い声が上がる。
知佳さんはコートを羽織ってから、レラさんを見る。
「レラさんも、また話しましょうよ」
「……ええ。また」
レラさんが。
ほんの少し嬉しそうに笑った。




