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こもれびと、おぼろ月  作者: 日旅こつめ


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人間も、いろいろ

その時。

 からん。

「こんばんはー。寒っ!」

「あ、知佳さん。こんばんは」

 三人が、また一斉に入口を見る。

「今日ほんと寒い。朝、車の雪下ろすだけで疲れた」

 空いている席へ座りながら、知佳さんが鞄から携帯を取り出す。

「仕事行く前に疲れたわ」

「今日は何にする?」

「とりあえず熱燗。あと、たち天ある?」

「ありますよ」

「じゃあそれ」

「はーい」

 その一連の動きを、ニタイさんがじっと見ていた。

「……どうかしました?」

「いえ」

 一度は目を逸らしたのに。

 少しして、また見る。

「お仕事されてるんですか?」

「そう、建材屋さんの事務」

「建材屋さん?」

「そう。家とか建物に使う材料を扱ってる会社」

「あなたが作るんですか?」

「まさか」

 知佳さんが笑った。

「私は事務。注文受けたり、伝票作ったり、手配したり」

「手配?」

「倉庫とか配達の人に連絡して、必要なものを届けてもらうの」

「……一人で全部やるわけではないんですね」

「そりゃそうですよ。会社ですから」

 ニタイさんが、少し考えるように頷く。

 ふと見ると。

 ハルさんも、そんなニタイさんの様子を静かに見ていた。

 話している間に、知佳さんの前へ熱燗とたち天を置く。

「ありがとうございます」

 知佳さんは早速ひとつ摘まんで。

「あー、美味しい。これだわ」

 それから、何事もなかったように話を続けた。

 「こういう話、面白いですか?」

「はい」

 即答だった。

「こちらの暮らしについて、知らないことが多いので」

 『こちらの暮らし』という言葉に、知佳さんが首を傾げた。

「あー、そうなんだ。ずっと海外とか?」

 ニタイさんが困った顔でこちらを見る。

「……まあ、そんなところ」

 すかさず私が答える。

「へえー。じゃあ何でも聞いてください。仕事の愚痴ならいくらでもありますよ」

「愚痴」

「ありますよ。急ぎの注文に限って途中で数が変わったり」

「最初にちゃんと決めればいいのに」

 レラさんが口を挟む。

「それができたら苦労しないんですって」

「無理なら断ればいいでしょ?」

「無理なら断ります。でも、できそうなら何とかしますね」

「なんで?」

「困ってるの分かるし」

 レラさんが少しだけ目を細める。

「……そういうところ、嫌いじゃない」

「ありがとうございます?」

「なんで疑問形なんだ」

 カックさんが横から言った。

「初対面で言われたら反応困りません?」

「そうか?」

「カックは黙ってて」

「なんでだよ」

 そのやり取りを聞いていた佐々木さんが笑う。

「まあ、仕事なんて予定通りにはいかんよ」

 熱燗をひと口。

「俺なんか牛相手だからな」

 ニタイさんがすぐに顔を向ける。

「牛?」

「酪農やってるんだ。餌やって、乳搾って、具合悪けりゃ見る」

「毎日ですか?」

「毎日。牛に休みだって言っても通じないからな」

「……なるほど」

 ニタイさんは、知佳さんと佐々木さんを交互に見る。

「仕事の形も、ずいぶん違うんですね」

「人間いっぱいいるんだから、そりゃ色々ありますよ」

 知佳さんがあっさり言う。

「でも面倒ですけど」

「そこは絶対言うんだ」

「大事なところです」

「分かる」

 レラさんまで頷いた。

「レラさん?」

「暮らしって面倒なこと多いもの」

「ですよね!」

 知佳さんが嬉しそうに頷いて、熱燗をひと口飲む。

「なんでそこで意気投合するんだよ」

 カックさんが呆れたように言う。

 その横でニタイさんは、楽しそうに笑っていた。

「面白いですね」

「仕事が?」

「それもありますけど」

 一度、ニタイさんが知佳さんを見る。

「こちらの人たちが、です」

「……私、今なんか変なこと言いました?」

「たぶん、いつも通り」

「どういう意味?」

「そのままの意味」

「美月ちゃん?」

「はいはい」

「雑!」

 お店に楽しそうな笑い声が広がる。

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