食べてみなければ
三人が揃って動きを止める。
「……外国?」
カックさんが眉を寄せた。
「あー……」
どう答えよう。
「この辺りの人じゃないんです」
「そうなのかい」
それだけで、佐々木さんはあっさり頷いた。
「どこから来たんだ?」
三人が顔を見合わせる。
答えたのは、ニタイさんだった。
「山の向こうからです」
「山の向こう?」
「はい」
「へえ。そりゃこの雪の中、大変だったろう」
「……いえ。この程度なら」
レラさんが答える。
「お。雪には強いんだねえ」
「まあ」
なんとも曖昧な会話なのに、佐々木さんは気にした様子もない。
茶碗蒸しをもうひと口食べて。
「これ、美味いな」
「でしょう?」
「百合根がいいねえ」
ニタイさんが、佐々木さんを見る。
「あなたも、よくここで食事をするんですか?」
「俺?」
「はい」
「するよ。近所だからね」
「……近所」
「仕事が早く終わった日は、ふらっと来たりするなあ。ハルくんやユクルさんも、よく来るよな」
ふらっと。
ニタイさんが、その言葉を確かめるように黙る。
「二人と?お酒を?」
今度はカックさんだった。
「一緒になりゃ飲むこともあるよ」
佐々木さんが笑う。
「今日は熱燗かな。こんだけ冷えたらビールよりそっちだ」
カックさんの目が動いた。
「熱燗?」
「あれ。兄ちゃん、飲む口かい?」
「酒は好きだ」
「おお、そうか」
佐々木さんの顔が嬉しそうに緩む。
その横で、ハルさんまで笑っていた。
「じゃあ朔さん、俺と兄ちゃんたちにも熱燗頼むよ」
「俺まで勝手に入れるな」
ハルさんがカックさんを見る。
「飲まないのか?」
「飲む」
「ほら」
「……」
カックさんが黙った。
私は笑いを堪えながら、おじいちゃんを見る。
「五人分?」
「ハルも飲むだろ」
「僕もいただきます」
結局、全員だった。
「美月、次」
おじいちゃんから声が飛んでくる。
「早くない?」
「五人いるんだろ」
次に出てきたのは、小さな皿に盛った白い天ぷらだった。
「たちの天ぷらです」
「たち?」
レラさんが首を傾げる。
「鱈の白子」
「……白子」
三人が一度、皿を見る。
「嫌だったら無理しなくても――」
言い終わる前に、カックさんが箸を伸ばした。
「食う」
早い。
塩を少しつけて口へ運ぶ。
「……」
「どう?」
「これ、酒に合いそうだな」
そっちか。
カックさんが棚を見る目が、さっきまでと全然違う。
小さめの徳利を温めて。
五人の前に、それぞれお猪口を置く。
「熱燗です」
カックさんが徳利を見た。
「温めるのか?」
「冬はこれ、美味しいですよ」
注いで渡す。
まず香りを確かめて。
ひと口。
カックさんの眉が、少し上がった。
「……うまい」
「あ。今度は素直」
「酒は別だ」
「何その基準」
レラさんも口をつける。
「あ、これ好き」
「でしょう?」
「里の酒とは全然違う」
「どんなお酒なんです?」
「今度持ってきてあげる」
「本当?」
それはちょっと楽しみだ。
「美月」
また、おじいちゃん。
「今度は鍋だ」
「もう?」
「食えるだろ」
「食える」
カックさんが答えた。
「おじいちゃん、カックさんの扱い分かってきてない?」
「食う奴には食わせりゃいい」
「聞こえてるぞ」
「聞こえるように言った」
小さな土鍋をカウンターへ運ぶ。
蓋を開ければ。
湯気と一緒に、昆布と魚の香りが広がった。
「真鱈と野菜の小鍋です」
鱈。
白菜。
長ねぎ。
豆腐。
きのこ。
冬のものを、ぐつぐつ煮たもの。
レラさんが鍋を覗き込む。
「さっきの白いのと、同じ魚?」
「そう。さっきは白子で、こっちは身」
「一匹をいろいろ食べるんですね」
ニタイさんが言う。
「食べられるところは、結構使いますよ」
「それは、僕たちとあまり変わらない」
「あ、そうなんだ」
知らないことばかりだと思っていたけれど。
こういうところは。
案外、似ているのかもしれない。
そのあとも。
脂の乗ったにしんを焼いて。
じゃがいもには、バターと塩辛を少し。
「何だこれ」
カックさんが、じゃがいもを見た。
「食べてみて」
「説明しろ」
「食べた方が早いです」
怪しみながらひと口。
「……」
「どう?」
「酒」
「はい?」
「酒に合う」
そこなんだ。
隣で、ハルさんが笑っている。
山で会った時には。
あんなに険しい顔をしていた三人が。
今は、料理を囲んで。
人間の佐々木さんと一緒に酒を飲みながら。
次に出てくる皿を待っている。
少しだけ。
店の空気にも慣れてきたらしい。




