同じカウンターで
ハルさんも続いて入ってきたところで、私は戸を閉めた。
冷たい空気が遮られて。
店の中に、出汁と煮物の匂いが戻ってくる。
三人は、揃って足を止めた。
カウンター。
椅子。
棚に並ぶ酒。
湯気の上がる鍋。
そして。
「いらっしゃい」
カウンターの中から、おじいちゃんが顔を上げた。
「寒かったろ。まず座れ」
三人の視線が、おじいちゃんへ向く。
「……ここが」
ニタイさんが、小さく呟いた。
「はい」
私は三人の横を通って、カウンターを指す。
「『おぼろ月』です」
三人は、自分たちの身体と店の中を見比べている。
椅子も。
器も。
カウンターの高さも。
今の三人なら、何の問題もなく使える。
ニタイさんが、ぽつりと言った。
「同じ目線で過ごすための、まじないですか」
「はい」
私が頷く。
「このお店にいる間だけですけど」
「……なるほど」
「まず座りましょうか。好きなところへどうぞ」
三人は、まだどこか落ち着かない様子で店の中を見回しながら。
初めて、『おぼろ月』のカウンターへ向かった。
「何を食べます?」
「人間の料理は名前を聞いても分からない」
「じゃあ、お任せにします?」
「それがいい」
おじいちゃんが、ちょうど小鉢を並べ始めたところで。
からん。
「こんばんはー」
三人が、一斉に入口を見る。
「あ、佐々木さん。こんばんは」
「お。今日は知らない顔がいるねえ」
佐々木さんは、それ以上気にした様子もなくカウンターへ座った。
「初めて来た方たちなんです」
「へえ。こんばんは」
「……こんばんは」
レラさんが、少し遅れて返す。
隣で、ハルさんが少しだけ表情を緩めた。
「今日、お任せで出してるんですけど」
「じゃあ俺もそれにしようかな」
「同じのでいいです?」
「いいよ。腹減ってるし」
三人が顔を見合わせる。
「おじいちゃん。五人、お任せで」
「聞こえてる」
すでに小鉢を並べていたらしい。
「まずこれ持ってけ」
「はい」
受け取った器から、ふわりと湯気が上がる。
「茶碗蒸しです」
一人ずつ前へ置いていく。
「今日は百合根ときのこが入ってます。熱いから気をつけてくださいね」
蓋を開けると、出汁の香りが広がった。
レラさんが匙ですくう。
「……柔らかい」
「卵を蒸してるんです」
「卵がこうなるの?」
「なります」
ニタイさんは中に入っていた白いものを箸で摘んだ。
「これは?」
「百合根」
「百合の?」
「根っこの方ですね」
ひと口食べて。
「甘い」
「でしょう?」
その横で。
カックさんは黙々と食べていた。
「どうです?」
「食ってるの見れば分かるだろ」
「美味しいって言えばいいのに」
「うまくなきゃ食わねえよ」
それはもう、美味しいと言っているようなものだった。
「兄ちゃんたち、外国の人かい?」
佐々木さんが、茶碗蒸しを食べながら聞いた。




