↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こもれびと、おぼろ月  作者: 日旅こつめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/70

冬のロールキャベツ

◇

 翌朝は、一段と冷え込む朝だった。

 昨日一日休んだ分、今日は少し早めに『こもれび』を開けることにした。

 山の向こうの里のことも、三人のコロポックルのことも、気にはなっている。

 けれど、今すぐ私にできることはない。

 ハルさんたちは、ユクルさんの里にいる。

 何かあれば、きっと連絡が来るだろう。

「よし」

 軒先へ、『喫茶 こもれび』の木の看板を掛ける。

 入口の脇には、ローズマリーとタイム。

 それから、この辺りで採れる香草を少し束ねて吊るした。

 指先で形を整える。

 ふわりと。

 青い香りが、冬の空気に混じった。

 これで、今日のまじないも整った。

「にゃ」

 足元から声がする。

「たび」

 いつの間に来たんだろう。

 入口の横に座って、香草の束を見上げている。

「遊ばないでね」

「にゃ」

「本当に?」

「にゃあ」

 怪しい。

 戸の脇の木札を裏返す。

 『CLOSED』が隠れて。

 『OPEN』が表を向いた。

「はい。もう開けるからね」

 たびを見る。

「にゃ」

 分かっているらしい。

 立ち上がると、たびは尻尾を揺らして、さっさと住居の方へ歩いていった。

 こういうところだけは、妙にきっちりしている。

 戸を開けて、店の中へ戻る。

 昨日は、一日中雪の山を歩いていた。

 今日は、珈琲を淹れて、パンを焼いて。

 お昼になれば、注文を聞いて料理を作る。

 いつもの一日だ。


 カウンターの中で珈琲豆を補充していると。

 からん。

 戸につけたベルが鳴った。

「おはよう」

「いらっしゃいませ」

 顔を上げる。

「三浦さん。おはようございます」

「昨日、定休日じゃないのに休みだったね」

「あ、気づきました?」

「そりゃ気づくよ」

「ちょっと山に用事があって」

「そうかい」

 三浦さんはいつもの席へ向かいながら、窓の外を見る。

「しかし、降ったねえ」

「もうすっかり冬ですね」

「まだこれからだよ」

「それ、今聞きたくないです」

 三浦さんが笑った。

 昨日。

 この雪の向こうで、冬を越せる場所を探している人たちに会った。

 その翌朝も。

『こもれび』には、いつものお客さんが来る。

「今日はどうしますか?」

「珈琲と……これ、今日のおすすめ?」

 三浦さんがメニューを指す。

「ロールキャベツですね。佐藤さんから美味しいキャベツを頂いたので」

「じゃあ、それももらおうかな」

「はーい」

「パンもつくんだね」

「つきますよ。スープにつけてもおいしいです」

「それはいいね」

 私はカウンターの中へ戻った。

 朝から火にかけていた鍋の蓋を開ける。

 ふわっと湯気が上がって、キャベツとスープの匂いが広がった。

 柔らかく煮えたロールキャベツを、崩さないようにひとつすくう。

 佐藤さんにもらったキャベツは、葉が厚い。

 けれど、じっくり煮込むと、箸でも切れるくらい柔らかくなる。

 中には、挽き肉と玉ねぎ。

 キャベツの甘みが溶けたスープをたっぷりかけて、少しだけ黒胡椒を振る。

 横では、厚めに切ったパンを軽く温める。

 表面が少しだけ香ばしくなったところで、皿へ添えた。

「お待たせしました」

 三浦さんの前へ置く。

「おお」

 白い湯気が、ゆっくり立ち上る。

「熱いので気をつけてくださいね」

「ああ」

 三浦さんはロールキャベツに箸を入れた。

 柔らかくなったキャベツが、すっと切れる。

「ずいぶん柔らかいね」

「朝から煮てましたから」

 一口食べて。

 三浦さんがゆっくり頷いた。

「うん。これはいい」

「ほんとです?」

「キャベツが甘いねえ」

「佐藤さんに言ったら喜びますよ」

「美月ちゃんの腕もあるんじゃないの」

「もちろんです」

「そこは否定しないんだね」

「しません」

 三浦さんが笑う。

 それから、パンをちぎって、スープへ少し浸した。

「これもいいな」

「でしょう?」

 いつもの席でいつもの人が、温かいものを食べている。

 こういう時間が、私は好きだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。