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こもれびと、おぼろ月  作者: 日旅こつめ


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山のこちら側

張りつめていた空気が、少しだけ緩んだ。

「それで」

 ニタイが私たちを見る。

「こちらは話しました」

 静かな声だった。

「今度は、僕から聞いてもいいですか?」

「はい」

 ニタイの視線が私に向く。

「人間とは、本当に普通に行き来しているんですか?」

 少し考える。

 私はハルさんを見る。

 ハルさんも、こちらを見る。

「普通に、行き来してますね」

「店にも来ますし」

「人間の客も?」

「来ますよ」

「同じ店に?」

「はい」

 ニタイが黙った。

 驚いているようには見えない。

 でも、頭の中で、何かを組み直しているようだった。

「……そうですか」

 それだけ言って。

 ニタイは、山のこちら側へ視線を向けた。

 その目は。

 さっきまでとは、少しだけ違って見えた。

「よければ」

 ハルさんが口を開く。

 三人がこちらを見る。

「一度、僕たちの里に来ませんか?」

「……そっちの里に?」

 カックが眉を寄せる。

「はい。ここで話していても、できることには限りがあります」

「俺たちは、助けてくれなんて言ってないぞ」

「分かってます」

 ハルさんは穏やかに答えた。

「だから、何かを決めるためじゃありません。まずは、そちらの事情を長に話してもらえればと思って」

「長?」

「うちの里守です」

 ニタイがハルさんを見る。

「僕たち三人だけでも?」

「むしろ、今はその方がいいと思います」

 ハルさんが頷く。

「そちらにはそちらの里守がいる。こちらにも、こちらの里があります。里全体のことを、僕たちだけで決めるわけにはいきません」

「この雪じゃ、ここで何日も歩き回るのはきついぞ」

 鹿野さんも静かに同意する。

「……」

「話くらい聞いてから決めればいい」

 ニタイが少し考える。

「……そうですね」

「ただ」

 ハルさんが三人を見る。

「三人が数日休める場所くらいなら、相談できます。この雪の中で、ずっとここにいる必要はないでしょう」

 レラが、ちらりとカックを見る。

「私は行ってみてもいいと思う」

「レラ」

「だって、このまま山の中を探し回ったって限界あるでしょ。もう雪も深くなってきてるし」

「でも、人間と付き合ってる里だぞ」

「だから何?」

「だから――」

「実際に見ないで文句言ってても仕方ないじゃない」

「……」

 カックが黙る。

 強い。

 さっきから、ずっと強い。

「僕も行きたいです」

 ニタイが静かに言った。

 カックが振り返る。

「ニタイまで?」

「調べに来たんだろう」

「それはそうだけど」

「なら、見ておくべきだと思う」

 ニタイの視線が、今度はハルさんへ向く。

「人間と交流している里が、実際にどう暮らしているのか」

 少し間を置いて。

「それも、僕たちが持ち帰る情報になる」

「……」

 カックはしばらく黙っていた。

 それから。

「分かったよ」

 ものすごく不満そうに言う。

「行けばいいんだろ」

「別に無理に来なくてもいいですよ」

 私が言うと。

「お前には言ってねえ」

「またそれ」

「なんだよ」

「いえ。感じ悪いなって」

「美月」

 ハルさんが困ったように私を見る。

「だって」

「お前も十分言うじゃねえか」

「そっちが先でしょう」

「はいはい」

 レラが呆れたように割って入った。

「もう喧嘩しない」

「してない」

「してません」

 声が重なった。

「ほら」

 レラがため息をつく。

 その横で。

 ニタイが、ほんの少し笑っていた。

「じゃあ」

 ハルさんが帽子の庇に手を添える。

「まず、うちの里へ行きましょう。長には僕から話します」

「分かりました」

 ニタイが頷く。

 葉月さんは、もう少しこの辺りの木を見てから戻るという。

 ハルさんは三人を連れて、そのまま里へ。

 私は鹿野さんと山を下りることになった。

 こうして。

 山の向こう側から来た三人のコロポックルは。

 ひとまず、ユクルさんの里へ行くことになった。

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