小さな誤解
思っていたより、ずっと切羽詰まった話らしい。
「それで、先に三人で?」
ハルさんが聞く。
「はい」
今度はレラが頷いた。
「私たちは先に様子を見に来ただけ。こっち側に、冬の間だけでも使えそうな場所がないか調べてる」
「里のみんなが移るんですか?」
私は問いかけた。
「まだ決まってない。勝手に決めるな」
カックが答えた。
「決めてないですよ」
「ならいい」
なんなんだ、この人。
「里守は?」
ハルさんが聞く。
ニタイが答えた。
「僕たちの報告を待っています」
「じゃあ、最終的に決めるのは里守なんですね」
「里守だけではありません。里の者とも話します」
「ああ」
ハルさんが少し笑った。
「それなら、うちと似ていますね」
「そうなんですか?」
「最近、長も自分で歩いて話を聞くようになったので」
「ハルさん」
「本当のことだよ」
こんなところでユクルさんの話が出るとは思わなかった。
ニタイの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。
「そちらの里守は、変わった方だと聞いています」
「否定はしません」
「おい」
カックが割って入る。
「話ずれてるぞ」
「ああ。そうでした」
ハルさんが帽子の庇に触れる。
「もう一つ、聞いてもいいですか?」
「何です?」
「人里まで下りました?」
三人の空気が変わった。
分かりやすい。
「……何のことだ」
カックが言う。
「佐藤さんのところ」
「誰だよ」
「山の近くで畑をやってる人です」
私が答える。
「倉庫から、じゃがいもと人参が少しずつなくなってるんですけど」
沈黙。
カックが目を逸らした。
「カック」
レラの声が低くなる。
「俺だけじゃねえ」
「やっぱりあんたじゃない!」
「お前も食っただろ!」
「持ってきたのあんたでしょ!」
「あ」
思わず声が出た。
「やっぱり」
「……」
カックがものすごく嫌そうな顔で私を見る。
「盗んだつもりはねえからな」
「でも持ってきたんですよね?」
「捨てるやつだと思ったんだよ!」
「捨てる?」
「小さいし、傷ついてたし、いいやつと分けて置いてあっただろ」
「ああ……」
リラさんが言っていた通りだった。
「人間は、形が悪くても食うぞ」
鹿野さんが呟く。
「……そうなのか?」
「ああ。人里のことは多少知ってる」
カックの顔から、少しだけ勢いがなくなる。
「売り物にはならなくても、自分の家で食べたり、加工したり」
「……知らなかった」
小さな声だった。
初めてカックの顔から、露骨な棘が消えた。
「佐藤さん、怒ってはなかったですけどね」
「怒ってない?」
「あの人なら、犯人が分かれば笑うだろうな」
鹿野さんが言う。
「誰が持っていってるのか気になるって言ってました」
「……」
「でも、次からは勝手に持っていかない方がいいと思います」
「分かったよ」
ぶっきらぼうに答えて。
少ししてから。
「……悪かった」
聞こえるか聞こえないかくらいの声で、カックが言った。
悪い人では、ないのかもしれない。
感じは悪いけど。
少なくとも、最初に会った時よりは少しだけ話せそうな気がした。




