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こもれびと、おぼろ月  作者: 日旅こつめ


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冬を越す場所

「あなたたちは、向こうの里の方ですか?」

 ハルさんが聞く。

 ニタイが一度、カックとレラを見る。

「そうです」

「じゃあ、この跡も?」

「僕たちのものです」

 あっさり認めた。

 カックが顔をしかめる。

「ニタイ」

「隠す意味はないだろう。もう見つかってる」

「それはそうだけど」

 レラが小さく息を吐く。

「枝も?」

 葉月さんが聞いた。

「はい」

 ニタイが頷く。

「後から来る者が迷わないように」

「やっぱり目印だったんですね」

「うちの里では、昔からああします」

 ハルさんが折れた枝の方を見る。

「里によって違うんですね」

「そちらでは?」

「もう少し目立たない方法を使います」

「人間が近いから?」

「それもあります」

 ニタイが、ほんの少し目を細めた。

 まただ。

 人間。

 どうも、この人たちはそこに引っかかるらしい。

「それで」

 ハルさんが続ける。

「どうして、こちら側まで?」

 三人が黙った。

 さっきまで言い合っていたカックまで、何も言わない。

「……調べに来ています」

 答えたのは、やっぱりニタイだった。

「何をですか?」

「冬を越せる場所を」

「冬を?」

 思わず聞き返す。

 ニタイが私を見る。

「はい」

「向こうの里では、越せないんですか?」

「お前には関係ない」

 カックがすぐに言った。

「カック」

「だってそうだろ」

 今度はレラに止められても、引かなかった。

「人間が山に入ってきたせいなんだぞ」

 空気が止まる。

「え?」

「カック!」

 レラの声が強くなる。

「何だよ。本当のことだろ」

 ニタイが静かに息を吐いた。

「言い方を考えて」

「考えたって同じだ」

 カックは私を睨んだままだった。

「今まで来なかったところまで道を作って、でかい音立てて、木を切って。毎日毎日、人間が入ってくる」

 葉月さんが、静かに山の奥へ目を向けた。

「この辺りの木々も、最近は山が騒がしいと言っていました」

「そうなの?」

「ええ。でも、人間たちはここに誰かが暮らしているとは知らないようです」

 カックが眉を寄せる。

「だからって――」

「知らなければ何をしてもいい、という意味ではありません」

 葉月さんは穏やかに言った。

「ただ、知らないものを避けるのは難しいですから」

 先日の昼間。

 店に来た男の人の顔が浮かぶ。

 南側から入って。

 古い作業道を越えた先。

「……林道」

 呟くと。

 三人の表情が変わった。

「知ってるのか」

 カックが低い声で聞く。

「少しだけ。隣の町から来た人が、店で話してたんです。今年は古い作業道の先まで延ばしてるって」

「ほら見ろ」

「だからって、この人間を責めても仕方ないでしょ」

 カックよりは、だいぶ話しやすそうだ。

「レラの言う通りです」

 ニタイが言った。

「人間が僕たちの存在を知っていて、追い出そうとしているわけではありません」

 カックが舌打ちする。

「知らなきゃ何してもいいってのか」

「そうは言ってない」

 ニタイの声は変わらない。

「ただ、人間には人間の事情があるのでしょう」

 カックが黙る。

「……それで」

 ハルさんが口を挟んだ。

「里そのものが危ないんですか?」

「今すぐ住めなくなるわけではありません」

 ニタイが答える。

「でも、今まで使っていた場所に人が入るようになりました。冬の貯蔵場所も、その近くです」

「この時期に?」

「だから困ってるの」

 レラが眉を寄せた。

「もう時間がない」

 レラの視線が、山の奥へ向いた。

 その声には、さっきまでとは違う焦りが混じっていた。

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