山の向こうの人
「――人間を連れてきて、話だ?」
声がした。
「え」
低い。
聞き慣れない声だった。
木の根元。
雪の陰から、小さな人影が現れる。
ハルさんと同じくらいの背丈。
厚手の上着に、短めの髪。
肩には小さな袋を掛けている。
でも顔つきは、ハルさんとはずいぶん違った。
眉間に皺を寄せて。
明らかに、こっちを警戒している。
というか。
私を睨んでいる。
「……私?」
「他に人間がいるかよ」
「いないですけど」
「なら、お前だろ」
感じ悪い。
第一印象は、それだった。
「カック!」
今度は別の声がした。
「いきなり喧嘩売るのやめなよ」
少し離れた木の陰から、もう一人出てくる。
女の子だった。
同じくらいの小さな体。
髪を後ろでまとめ、厚手の外套を羽織っている。
こちらも警戒はしている。
けれど、最初の人ほど露骨ではなかった。
「レラ、だって人間だぞ」
「見れば分かる」
「なら――」
「うるさい」
ぴしゃりと言われて。
カックと呼ばれたコロポックルが黙った。
強い。
「あの」
私が声をかけると。
二人が同時にこちらを見る。
「私たち、何かしに来たわけじゃなくて」
「だから人間がなんでここにいるんだって聞いてる」
「聞き方が悪いって言ってるでしょ」
「お前は黙ってろ」
「そっちが黙れ」
「……」
どうしよう。
思っていたのと、ちょっと違う。
その時。
「二人とも」
もう一つ、静かな声がした。
少し奥。
倒れた木のそばに、三人目が立っていた。
いつからいたんだろう。
全然気づかなかった。
細身の体に、灰色がかった上着。
手には小さな布包みと、何かを書き留めるための板のようなものを持っている。
「声が大きい」
「ニタイ……悪い」
カックが、少しだけ声を落とした。
ニタイと呼ばれた男は私たちを順番に見る。
鹿野さん。
葉月さん。
私。
そして。
最後に、ハルさん。
「……こちら側の里の方ですね」
ハルさんへ向かって言う。
「はい」
「人間と一緒にいるという話は、本当だったんですね」
ハルさんの表情がわずかに変わった。
「僕たちの里をご存じなんですか?」
「話くらいは」
静かに答える。
「人間との交流を再開した里がある、と」
カックが鼻を鳴らした。
「物好きな連中だ」
「ちょっと」
レラと呼ばれた女の子が、またカックを睨む。
その横で。
ニタイが、もう一度こちらを見た。
今度は、私を警戒している。
それは同じ。
ただ、それだけじゃないように見えた。
何かを確かめるような——そんな目だった。




