冬の山へ
◇
十二月に入って、数日。
町は、すっかり冬になった。
十一月の終わりまでは、降っても昼には消えていた雪が。
今では、道路の端にも、屋根の上にも、当たり前のように残っている。
「よし」
店の戸に札を掛ける。
本日、喫茶こもれびはお休みします。
その文字を確認してから、私は手袋をはめた。
「忘れ物ないか」
後ろから、おじいちゃんの声がする。
「ないよ」
「本当に?」
「たぶん」
「たぶんって言うな」
振り返ると、おじいちゃんが呆れた顔をしていた。
「水筒も持った。予備の手袋もある。お昼もある」
「携帯」
「ある」
「充電は」
「した」
「ならいい」
「小学生の遠足じゃないんだから」
「山に入るなら同じだ」
そういうものだろうか。
今日は、こもれびを休んだ。
数日前に鹿野さんたちから聞いた、山の中の変な跡を確かめるためだ。
まだ、それが何なのかは分からない。
別の里のコロポックルなのか。
それとも、まったく違うものなのか。
だから今日は、確かめに行くだけ。
――ということになっている。
「美月」
「分かってる。無理しない。危なかったら戻る」
「ならいい」
おじいちゃんはそれ以上言わなかった。
店のこともあるので、今日は留守番だ。
「じゃあ、行ってきます」
「ああ。気をつけろ」
戸を開ける。
冷たい空気が、一気に頬へ触れた。
「寒っ」
「十二月だからな」
「分かってるけど寒いものは寒いよ」
外へ出て、戸を閉める。
白くなった道の向こう。
山は、数日前よりずっと近く見えた。
雪を踏むたび、ぎゅっ、と靴の下で音がする。
道路脇の雪は、もう簡単には消えそうにない。
家々の屋根にも白いものが残り、除雪された雪が道の端に小さく積み上がっていた。
吐いた息が、白く広がる。




